第13話 メロとデート
公園までの道中で、わたしはメロを手のひらから肩に乗せた。ふにっとした感触が、肩の上で心地良い。
せっかくのデートだからか、冷たい北風さえ気持ちよく感じるホットな気分。
そんなちょっとしたことが、わたしにとってはすごく嬉しい。
日曜日の朝だからか、道行く人たちの顔も穏やかに見える。学校にいる時より、ずっと外の空気がゆったりしていた。
「気持ちいいね、メロ」
「きゅうう」
そんなこんなで公園に到着した。メロが肩から落ちないか心配だったけど、杞憂だった。 巨大な常緑樹が並ぶ間を、すり抜けるようにして歩いて行く。静かだ。木々の緑が目に優しい。
メロが「きゅうぅぅ」と首元にじゃれついてくるので、そっと手で撫でてあげる。
ノーマルなメロンパンはごつっとしたビスケット生地だけど、メロはクリームも入った夕張メロンパン。ふにっと破れそうでいてしっかりした手触りだ。
「ねえメロ。具合がもっと良くなったら、デパートに戻るってことでいいのかな?」
これからの話を始めると、ひゅうっと冬の風が吹き出した。風が強いせいか、外出している人数は少ない印象だ。
「きゅうっ!」
メロが嬉しそうに肩の上で小さく跳ねた。よっぽどあのデパートに慣れ親しんでいるのだろう。帰ってしまうと当然わたしの家からは離れる。ちょっとだけ、わたしは寂しくなった。
なので、こう言っておいた。
「へへ。また体冷やさないか心配だから、時々くるみと様子を見に行くからね」
公園のベンチに腰掛け、近くの自販で売っていたあったかいホットココアを開封した。ココアの甘みと温みを楽しみながら、メロにははちみつレモンをあげる。
「きゅううう」
「デパートにも自動販売機はあるし、頼んだら買ってくれるように店員さんに言っておくから。アイスもいいけど、ちゃんと温かいものも採るんだよ。ちゃんとたんぱく質も採ってね」
「きゅっ」
そうしているうちに、黄色い声が耳をひっかくようにつんざいた。わたしたちの近くのベンチに、女子中学生が並んではしゃいでいるのだ。慌ててわたしは、母さんにもらった耳栓をする。サイズは昨夜確認しているのでノープロブレムだ。
すると公園が静かになった。まったく聞こえなくなったわけじゃない。中学生たちの声もしっかり聞こえてはいるけれど、さっきみたいな嫌な感覚はまったくない。こうしてみるとわたしとくるみも、ああいう感じなのかなとも思えるから不思議だ。
魔法にかけられたか、私の耳をサイレントモードにしたみたいだった。
「す、すっごぉ……」
思わず口から感嘆の声が漏れた。
昨日はサイズと付け心地の確認に夢中で、音に関しては何も気にしていなかった。どのみち家の中じゃあまり使わないだろうし。家じゃ雨とテレビの音くらいしかしてなかったし。
「きゅう?」
メロの声は、いつもの通り甘く認識できる。
わたしはそれがとっても嬉しかった。
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