第12話 小さな冒険

 慌ただしかった土曜から一夜明け、今日は日曜日。神の定めし休息の日だ。

 夕べの雨はもうすっかりやんでいて、カーテンの隙間から淡く朝陽が差し込んでいる。冬の日差しは、他の季節に増して温かく感じられる。


 ベッドからむくりと起き上がって、わたしはまだ眠っているメロに優しく話しかけた。


「おはよう、小さな友達。きみの助けが必要なの」


 夕べ急に思いついたことだけど、今日はメロとちょっとした冒険をしてみる予定だ。母さんからもらえた耳栓も手に。

 助けが必要とは言ったけど、メロにはわたしと一緒にいてくれるだけでいい。


 この子がいれば、どんな騒音でも乗り切れる気がする。

 

 ――だから、今はきみがいるということが、わたしにとっての「助け」なんだ。



 冒険といってもたいしたことじゃない。

 そもそも昨日の今日で、メロの体調が本調子でないということもある。シュガートーストのお薬のお陰でだいぶ元気になれたみたいだけど、まだ無理はさせられない。


 なので今日の冒険は、ちょっと家の近くの大きな公園付近を散策してみようというだけだ。

 子どもが思い切り遊べる原っぱも大人がゆっくりくつろげるスペースも兼ね揃えることもあり、週末は近場の人中心に大勢の人で賑わう。

 いつも落ち着いたデパートにしか行けないわたしにとっては未知のスポットだ。


 とはいえ、小学校低学年くらいまではわたしも普通に遊びに行っていた。思い切り遊びに夢中になれている間は、割かし音のことも気にせずにすんだものだ。


 だんだんと周りがかけっこや鬼ごっこからアイドルやメイクに興味を示していくようになってから、その公園とも疎遠になってしまっていた。


 化粧品売り場やライブ会場特有の独特な賑々しさが苦手で、わたしは何の流行りについていくこともできなかったし、ついていこうとも思わなかった。

 ……昔のことで胸が切なくなったところで、お出かけの支度を始める。

 

 簡単に朝食を採って、着替えをする。メロの分の朝ご飯は、たっぷりお砂糖を溶かしたマグカップ一杯の砂糖湯だ。メロが満足そうにすする姿を見て安心する。


 今日は綿飴みたくもこもこした白いニットに、淡いピンクのフレアスカートに黒タイツ。 

 いつもより思いっきり可愛らしい格好にしてみたつもりだ。なんてったって、今日はメロとのデートなのだから。その上にこの前と同じケープコートを羽織り、メロを抱え上げて外に出た。


「行ってきまーす!」


 真冬のきりりとした外の空気が、わたしたちを出迎えてくれた。

 その光が差す中に、わたしたちは駆けだしていく。

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