第11話 レイニー・ナイト
自信があるとは、自分を信じられてること、信頼できていることだとわたしは思っている。
わたしたちは他人のことは信じたり信じられなかったりばかりを気にしすぎて、たった一人の自分自身を置き去りにしがちだとも思う。
すっかり夜のとばりが降りた窓の外から聞こえてくるのは、しゃらしゃらと静謐な雨音のみ。冬になってから、秋の頃は盛んだった虫の鳴き声はすっかり聞かなくなった。
リビングからテレビの声が若干漏れ出ているのを差し置けば、静寂という言葉がぴったりの夜だ。
昼間にくるみもいた部屋には、わたしとメロの二人きり。
「メロ、今夜はわたしの枕元で一緒に寝るのでもいいかな?」
わたしが恐る恐るした提案に、
「きゅっ」
メロは威勢良く、肯定の意を返してくれた。
メロを枕元に寝かせた場合、わたしの寝返りでメロを下敷きにしないかなんて心配もよぎった。
けれどそこは野生パン。持ち前の警戒心で安全な位置をあらかじめ察知し、なんと眠りながらでもぴょこっと移動が可能なのである。これは午後のリモート診察で教えてもらったことだ。
他にもお薬と一緒にもらった冊子や、情報の信頼性が確かなウェブサイトを閲覧したりして、野生のメロンパンであるメロと過ごすための知識を得ることができた。
今日のような雨の日は湿気が強い。野生パンは湿気が高いと体調不良を起こすリスクが高まってしまう。これは食用パンと似た部分だ。
だからできるだけメロのすぐそばで面倒を見てやりたかった。
自信、出していいよね。
明日は日曜日。寝る前のスマホチェックをしていたら、くるみからメッセージが届いていた。
今日はお疲れ、急展開だったけどあれからメロちゃん元気~? といった内容に加えて、こうも記されている。
『メロちゃんって、いつくらいまで美羽ちゃんとこにいそう? もうすぐクリスマスだし、何かしたいなあと思って』
……ああ、もうクリスマスの季節かあ。
くるみが言っているのは、それに合わせたパーティーの類だろう。
わたしの中学は、クリスマスイブである二十四日に授業が終了し、翌日から冬休みとなる。授業最終日は給食なしの半日で学校が終わるから、午後から親しい人たち同士で集まってワイワイケーキを食べたり、時間が許す限りゲームやショッピングにいそしんだりするということも多い。
中にはカップルでクリスマスデートというパターンもあるだろうが、わたしには無縁のお話なのでスルーで。
ただでさえクリスマスと年末年始のダブル商戦やら、一年が締めくくられて新たな年が始まる高揚感が肌寒い街に温度を与えてくれるこの時期だ。
ちょっとでも賑やかしたいのはすごくわかる。このシーズンにくるみがクリスマスの誘いをしてくるのは至って自然の流れ。
わたしも小学校のころは、クラスで仲のいい子数人を家に呼んだり呼ばれたりして、ちょっとしたクリスマスパーティーを開いてたりしていた。それはそれで、楽しかった。
でも年齢を重ねるごとに、集まる人数やパーティーの規模は大きくなっていく。
会場規模や参加人数の数に比例していくように「音量」も大きくなってしまっていって。わたしは喧噪まみれの友達付き合いに息苦しさを感じるようになってしまっていた。
聴覚過敏は見た目にはわからない障害だ。
それゆえみんな、わたしを一人の友達として扱ってくれても、「音」のことについてはわかってもらえないことも多くて、だんだんと当時の友達とは疎遠になっていった。
誰もわたしを責めなかった。代わりにわたしがわたしを責めた。どうしてみんなと同じになれないの、どうして普通になれないの。自分で自分を追い込んでしまっていたのだ。
だから、今からでも。自信を出そう。
くるみにメッセージ返信をする。メロは年末までくらいならうちにいること、クリスマスに何かするなら事前に話し合いがしたいこと。
おやすみ、と付け加えてメッセージを送信したら、即座に既読がついて「了解!」と「おやすみなさい」のスタンプが送られてきた。
スマホを机の上に置いて、うーんと伸びをする。メロはもう枕元にいるので、部屋の電気を消して、ベッドに横になる。
今日は、今日からしばらくは隣にメロがいる。迷子同士の、メロがいる。
「おやすみ、わたしの小さな友達」
「きゅうう」
外から優しい雨音が、わたしたちを包んでくれた。
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