十三話

「うちは三階建てなの。一階は玄関とまあ物置で、二階が応接室とダイニングと水回りと……で三階が寝室と客室ね」

「凄いですね。使用人はいないんですか?」


 支度を終え、階段を降りながらアイリスは聞く。この家は結構な広さの割に、人の気配はあまりないように思える。


「いないいない、一人暮らしだもの。そういうのは性に合わないし」


 ブランゼンは笑って答える。


(掃除が大変そう……)


 アイリスのいた部屋は小さかったが、先程通った廊下もこの階段も、二人並んで歩いても余裕がある。

 それだけの広さでも、どこも手入れが行き届き、綺麗に磨かれている。この細かく装飾の施された手摺りにも、埃一つ見当たらない。


「トイレは昨日言ったわね。こっち側から化粧室で、キッチンで、ここが食堂」


 特徴的な曲線を描いた階段を降りきって右へ進む。続く廊下の右側、三つ目の飴色の扉が開き、アイリスは中に通された。


「ああ、来たか」


 広い室内の奥に佇む、銀の煌めき。十人は座れそうな楕円のテーブルの縁に手を突いて、ヘイルはこちらに顔を向けた。


「おはようございます、ヘイルさん」


 アイリスはスカートの両端をつまみ、軽く膝を曲げる。


「おはよう。調子はどうだ?」


 アイリスの側まで歩みを進め、ヘイルは軽く首を傾けた。


「はい、良い感じです! 足も問題無さそうです」

「そうか」

(ヘイルさん、背が高いなあ)


 目の前に立たれ、自分の背がヘイルの胸ほども無い事を実感するアイリス。


「ヘイル、準備するの手伝って頂戴」

「ん? ああ」


 ブランゼンが隣の、キッチンへ続く扉を開けながら言う。


「あ、私も何か……」

「そう? それじゃあパンを運んで貰おうかしら」


 テーブルに朝食を並べ、三人で真ん中辺りの席に着く。


「……なんで横並びなの?」

「さあな。食べるのに支障はないだろう」


 奥からヘイル、アイリス、ブランゼン。訝しむブランゼンの言葉に、ヘイルは涼やかに返した。


(私が真ん中で良いのかしら……そもそも人と一緒に食べるのなんて久しぶりで……)


 若干動きがぎこちなくなるアイリス。


「まあ、無いけれど。……冷めないうちに食べましょうか」


 ふっと息を吐き、ブランゼンは左の掌を胸に当て、目を閉じる。ヘイルと、一拍遅れてアイリスも同じ姿勢になる。


「天の果てから地の底まで、この恵みに感謝します」

「天の果てから地の底まで、父の創りしこの恵みに感謝致します」

「天の果てから地の底まで、この恵みに感謝します」


(……ん?)



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