十一話

「???」


 二人の話が見えず、今度はアイリスが目を瞬く。


「いや、こちらの話だ。後は何が見たい?」

「あ、ええと……あそこの、丸い木の細工物が」

「これね、はい」


 下の台ごとひょいと持ち上げ、シャオンが目の前に差し出す。


「っ、ありがとうございます」


 勢い良く眼前に出され、アイリスは少々面食らいながらそれを受け取る。


「早いな」

「え? まあ近かったし」


 薄い円形の台座を持ち、透かし彫りがされた球体を眺める。


「凄い細かい……え? ……これ、中にも何かあるんですか? あれ? しかも浮いてる?!」


 透かし彫りの隙間から、一回り小さな、別の透かし彫りの球体が見える。それがゆったりと回っている事に気付き、アイリスの手が驚きで震えた。


 すると、震えが伝わったのか、球がふわりと台座から浮いた。そして柔らかに元の位置に戻る。


「……外側のも浮いてる?!」

「中空で固定してあるからな。球は八層だったか」

「八層?!」


 驚きで口調が崩れている事にも気付かず、台座と球の間に目を凝らすアイリス。


「浮いてる……布一枚分くらい浮いてる……あの、球体それぞれに透かし彫りがついてるんですか?」

「ああ、それ毎に違うものが彫られているはずだ」

「凄い……」


 凄い凄いと何度も口にしながら、アイリスは台座を斜めにしたり中の球の動きを観察したり。


「新鮮な反応だなあ。ここにあるのはブランゼンの趣味だけど、人間はあまりこういうの作らないの?」


「技術力が違いすぎます……! こんな、浮かんだり光ったり……そうじゃなくとも、ここまでの細工だって出来る人は極僅かです」


 恐る恐る台座を逆さまに持ちながらアイリスは言う。逆さにされた球は台から少し離れ、そのままゆるく弾みながら回った。


「へー……じゃ、これは?」


 シャオンがまた目の前にものを差し出す。


「? 失礼します……」


 球を横に置き、それを受け取る。指くらいの大きさしかないワイングラス、のようなもの。


「これは……?」


 ボウルの部分に、内側へ向かって針のようなものが何本も出ている。そのままグラスとして使う訳では無さそうだ。


「そのままさ、魔力を伝わらせるんだよ」

「魔力を…………え、と」


 アイリスはヘイルとシャオンを見、おずおずと口を開く。


「私、魔力は殆ど無いので、使うとかした事無くて」

「えっ」

「では、一度見せよう」


 ヘイルがアイリスの上からワイングラスを持つ。一拍して、針先の、ボウルの中央に金の粒が現れた。


「ちょ、ヘイル手加減してよ」


 金の粒は大きくなり、針先に触れるかという所で打ち上がった。


「えっ」

「わっ」


 パァン!


「わっ?!」


 天井付近で黄金の華を咲かせ、残滓が煌めきながら落ちてくる。


「……ギリギリ、セーフ……もうちょっと強かったら当たってたよ。天井に」


 ホッと息を吐くシャオンと、天井を見つめるヘイル。


「ほんの少しだったんだがな……アイリス?」

「………………」


 アイリスは口をぽかんと開けて、天井に目をやったまま固まっていた。


「ほら、威力が凄いから驚いちゃったんだよ」

「すまん、大丈夫か?」

「…………と、飛ん……?!」


 ぎこちない動きで姿勢を戻し、やっとの思いで単語を発する。


「ちょっと? 何か響いたんだけど?」


 ちょうどその時、扉を開けて、眉をひそめたブランゼンが入ってきた。


 扉の側に立って肩を跳ねさせたシャオンと、ベッドの脇に膝をつくヘイルをそれぞれ見やる。ぎこちない動きでこちらに振り返るアイリスに視線を移してから、部屋全体を見て、低く言った。


「……何かやらかしたわね?」



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