八話

「私、魔法を体験出来るんですか?!」

「え?!」


 思わずといった風に前のめりになるアイリスに、ブランゼンは反射的に身を引く。


「あー、人間は魔力があんまないんだっけ? これ珍しいんだ」

「それは、もう」


 軽く言うシャオンへ、光の珠から目を離さずにアイリスは答える。


「珍しいなんて……陛下や僅かな高名な方しか扱えない……大変貴重で、崇高で、私なんかがお目にかかることは絶対無い……ものです…………」


 吸い込まれるように、じりじりと光に近付くアイリス。


「そ、そう」

「なら、治すのも問題無いな」

「あっ」


 ヘイルはアイリスの肩を軽く引いて、元の位置へ収めた。


「それ以上行くと落ちるぞ」

「す、すみません」


 ハッとして小さくなるアイリスに、ブランゼンは改めて向き直る。


「ンンッ、それじゃアイリス、良いかしら?」

「は、はい! お願いします……!」


 魔法を、自分が。知らず掛布を握りしめ、アイリスは息を詰める。


「……それで」

「? ……あっ」


 ブランゼンは光を霧散させ、ヘイルとシャオンを見る。


「二人は出て行くのよね?」

「ん?」

「あ」


 ヘイルはほんの少し首を傾げ、シャオンは思い出したように声を上げた。


「ごめん! そうだよね! ほらヘイルっ」


 シャオンがヘイルの背中を押し、扉へ向かわせる。


「……ん? ……ああ、そうか」


 ブランゼンに任せていたから忘れていた、という声を残し、ヘイルはシャオンと共に出て行った。


「? ……あの……?」

「ああ、治癒の時は皮膚を合わせた方が巡りが滑らかなの。そうすると、足を出さないといけないから」

「へ?! あ」


 アイリスはブランゼンを見、扉を見て、またブランゼンに顔を戻した。


「あ、ありがとうございます」

「はい、それじゃ始めるわね。……顔、背けてても大丈夫よ」


 掛布を外しながら静かに言うブランゼンに、アイリスは首を振る。


「いえ、見ています。魔法を間近で見たいので」


 言いながら、無理のない程度に体を傾け、目を見開く。


「そ、そう」


 それを見て、ブランゼンは包帯を外しながら苦笑を零す。


「……っ」


 まだ鮮やかな傷は、足先から膝下まで及んでいた。なるほどこれは、歩けない。特に右足首の腫れが酷いなと、頭の片隅でアイリスは冷静に考えた。


「さ、力を抜いてね」


 ブランゼンが両手を翳す。じわりと光の粒子が滲み出たかと思うと、一気に光が溢れた。


「……!」


 流れ出る光──魔力を押し付けるように、ブランゼンが手を近づける。


「アイリス、違和感は無い? 魔力の巡りは感じる?」

「えっ……と、……あ」


 言われ、自身に意識を向ける。するとアイリスは、何か暖かく優しいものが足から流れてくるのを感じ取った。


「分かります、感じます! これが魔力なんですね……!」



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