二 愛は溢れるものだ

あと一話で多分終わり


─────────

雅が学校に来なくなってから数日が経った、おじさんとおばさん…雅の両親は大丈夫だから君は心配しなくていいと言っていた。むしろ少し嬉しそうで、なにかにワクワクしているように見えた。父さんと母さんも事情を知っているようだったが、俺には何も教えてくれなかった。雅はちゃんとご飯を食べているだろうか、眠れているだろうか、ちゃんと…ちゃんと俺のことを嫌いになって、立ち直ってくれるだろうか。そんな不安ばかりが脳裏にチラつく日々が続いている、もう一緒にはいられないのだと思うと悲しくなるが、俺にそれを拒む資格はない、ただ粛々と審判の日を待つのみだ。


「あー…んな事になるならもっと楽しんどくんだったなー…」


好きでもない女とのセックスは気持ちの良いものではなかった、ねじ曲がった性癖を雅に吐き出そうとする女にも、雅を悲しませ続ける自分にもひたすら嫌悪するだけの時間だった。そのくせに勝手に反応し絶頂する自分の男としての本能にもウンザリする、雅への罪悪感や、女への軽蔑が次第に薄れただ作業のように行うことが虚しかった、俺は心を殺して腰をふる獣未満の男だった。俺が根っかのクズなら、雅の彼女を抱くことを楽しめたんじゃないだろうか。そしてそれ雅にバレて、絶交することになっても、大してショックを受けなかったろうにな。


「ここに二人で来ることも…無くなんのか」


俺と雅が初めて出会った公園、そのベンチを懐かしむように撫でながらこれまでの事を思い出す。


ここで俺と雅が初めて二人で遊んだこと

親に内緒で初めて買ったエロ本をここで一緒に読んだこと

雅が風邪をひいて行けなかった夏祭りの変わりにここで花火をして遊んだこと

バレンタインに雅が貰った大量のチョコに爪めや髪の毛が入ってないか念入りにチェックしたこと

金を出し合って買ったSサイズのピザがありえないくらい美味かったこと

喧嘩して、仲直りするのはいつもこの公園だったこと


俺にとって全部大切な思い出だ、でもそれはもう過去のことで、これから先雅との思い出は生まれない。俺の人生に雅がいなかったことはない、いつも一緒で、兄弟みたいに遊んだ。女に見えてドキドキすることもあったけど、それでも大事な家族同然の親友だった。


「ははは…ダッセぇなぁ俺…今更泣くなんて…」


ポツポツと涙が地面に落ちていく、俺達は片方が泣けば、必ずもう片方が慰めていた。恥ずかしい話だ、でもそれが嬉しくて、甘えていたのも事実だ。今まであったものが全て無くなる、とても恐ろしくて、俺にはお似合いの結末だろう。









「あれ?京介が泣いてる、珍しいもの見ちゃったな」


俺が一人で情けなく泣いていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。いつも隣から聞こえてくる知った声だ。


「へ…?雅…?」


雅が目の前に立っていた、制服姿ではなく、雅には大きいサイズのパーカーを着ている。俺が雅の部屋に置いたままだったものだ。久しぶりに見た雅の顔はどこか晴れ晴れとしていて、真っ直ぐ俺を見つめていた。


「ぷっ…酷い顔だよ京介、何か悲しいことでもあったの?」


雅は何事もなかったかのように、あの日図書室での出来事を忘れているかのように明るく笑っていた。


「…何しに来たんだよ、もう俺と関わるなよ」


「んー?ああ、僕に酷いことしたと思ってるから僕とお話したくないんだね?」


「じゃあ俺が言いたいこと全部わかるだろ」


俺が言い捨てるように言い返せば、雅はますます嬉しそうに話す。


「僕に罪悪感を感じてるんだね、京介は優しいね」


「優しい?ふんっ…お前マジでバカだな、お前はずっと俺に彼女を取られてたんだぜ?お前のこと…何回も傷付けた」


「そうだね、僕悲しかったなぁ…図書室で二人を見て、最初は京介に取られたことが悲しかったと思ってた」


当たり前だ、だから俺はお前に失望されなくちゃいけない。


「そりゃそうだろ…だからもう俺とお前は一緒にいちゃいけないだろ」


「ううん…違うんだよ京介、僕気付いたんだ」


「違うわけねぇ!」


俺は立ち上がり怒鳴ってしまった、さっさと俺を殴ってほしかった、いつまでも優しく俺に接する雅に気が狂いそうだった。


「違わねぇよ!俺なんかと関わるなよ!俺は─」


「僕は京介が誰かと一緒になるのが嫌だったんだよ」


俺の言葉を遮り雅が言ったことはとても衝撃的で思わず黙ってしまった。


「僕が苦しかったのは京介が取られちゃうことだったの」


「は…?何言ってんだよ…お前、訳分かんねぇよ…」


「…あの時、僕が嫌だったのは僕の彼女が京介に抱かれてキスされたことじゃなかったんだ、京介が…京介が誰かに奪われたことが嫌だったんだ」


話し続ける雅の顔はしだいに赤らみ、目も潤んできている。


「僕が好きなのは…京介だったみたいだ」


「んなこと…ありえないだろ、そんなの気の迷いだ!そうだろ!」


「でももう気付いちゃったんだよ、それからずっと辛かった…京介が僕じゃない誰かと抱き合って、キスして、セックスをしてたってわかったから、僕にはくれないものを誰かにずっと…ずっと取られてたんだから」


確かに俺は雅といることよりも雅を守ること…いや、雅の彼女を抱くことを優先した。それ以外にも俺に告ってくる女を性欲処理に使っていたが、それは雅が成長していくにつれて頻度は増えていた、それが雅にとって耐え難いものだというのだろうか。


「でも…それでも俺とお前は男同士だ、普通の恋愛なんか出来っこない、俺達の親は許すだろうけど、周りの人間がそうなんて限らないじゃねえか」


俺達は男で、日本でそういうのは難しい、だから男女での恋愛が普通で、雅にも普通の幸せを掴んで欲しいと思ってる。


「うん…だから僕は必死に考えたんだ、どこか海外へ行くことも考えたけど、僕日本食大好きだし、京介は日本のエッチなゲームとかビデオ大好きだからさ、僕頑張ったんだ」


雅は俺の手をとって自分の胸に押し付けた、すると雅の胸はフニュンと沈み込んだ、男であればありえないことが起きていた。


「…最初はホモセクシュアリティでもいいと思ってた…でもそれじゃ京介の全部は貰えないって、いつか女の子に取られちゃうかもしれないって思ったからね?僕女の子になったんだぁ」


雅は女になっていた、どんな方法を使ったのかはわからない、でも雅は俺が今まで抱いてきたどの女より柔らかくて、いい匂いがして、美しくて、とてもエロかった。


「僕の心臓…すっごくドキドキしてるのわかるでしょ…?全部…全部京介のせいなんだよ?」


「俺の…せい…?」


「そう、京介が僕の目の前で誰かとキスなんかしなければ本当の気持ちに気付かなかったのにさ、京介のせいでもう僕京介のこと親友だなんて思えなくなっちゃった…京介が僕を女の子にしたんだからね♥」


パーカーのせいで見るだけではわからなかったが、雅の胸はとても大きくなっていた、バスケットボールを片手て掴んで持ち上げる俺のデカい手から溢れるほどだ。その胸を通して雅の心音が伝わってくる、首の少し汗もかいていて緊張しているのがわかる。


「僕知ってるよ?京介が僕のこと偶にエッチな目で見てたこと♥」


「それはっ…悪ぃと…思ってだな…」


しつこいようだが雅はどの女より可愛い顔をしている、昔から可愛かったが、歳を重ねるほどに魅力的になっていった。思春期に入った俺としては可愛いというだけでつい目で追ってしまうのなのだ、雅が女だったなら…と、邪なことを考えてしまうほどに。


「うん、しょうがないよね♥僕はとっても可愛くて、京介はスケベだもん♥でも男同士で恋仲になるのは難しくて、僕が男であることが京介にとって僕を除け者にする理由だったんだから」


「除け者になんかしてない!」


「したよ、僕に黙って僕の彼女とイチャイチャした」


「それはっ…それは…」


お前を守りたかっただけだ。


「僕を守るためだったって言うんでしょ?狡いよね京介は…僕のこと騙してたんだ?」


「…違う」


お前を騙すつもりなんてなかった。


「何が違うの?あーあ、僕すっごくショックだったなぁー僕の大切な彼女ぜーんぶ京介に取られてたんだからさ」


そうだ…俺は雅から彼女を寝取って…傷付けた。


「…ふふふっ♥そんな顔しないでよ京介♥僕のことだけを見てくれれば…僕はそれでいいんだからさぁ♥」


雅は俺に近付き俺を抱きしめてきた、雅の胸がグニャリと形を変えるほど強く抱きしめられ情けなくも興奮してしまう。


「ダメだ…ダメだ雅っ…離れろっ!」


両腕を背中に回され俺達の胸が密着する、心臓の鼓動がうるさい、俺のものなのか、雅の音がうるさいのかわからないほどくっついている。引き剥がそうにも絶対雅には勝てない、腕を動かそうにもまったく動かせない。


「どうして?京介は僕のこと嫌い?」


「嫌いな…わけないだろ…」


嫌いなわけがない、お前が世界で一番大切で、ずっと一緒にいたい親友だ。


「じゃあどう思ってるかちゃんと言って?」


「雅…俺は…」


答えを煮えきらない俺に対し雅は抱きついたまま一歩前に進んだ、俺もそれにつられ一歩後退した。そうしているとコツンとベンチに足が当たり、俺はもう完全に動くことが出来なくなってしまった。


「僕の目を見て、僕は本気だよ、京介が好き、もう誰に渡したくない」


俺はベンチに再び腰を下ろす形となり、その上に雅がのしかかってきた。とても甘く優しい匂いがする、それに加え雅の黄色い瞳が俺の瞳を捉えて逃さない。見たことのない表情をしている、いつも穏やかで、滅多に気を荒立てない雅が真剣な顔をしている、これだけで俺は雅が本気なのだ理解してしまう。


「俺…も…好きだ、雅のことが大切だ、雅には幸せになってほしいと思ってる」


俺の紛れもない本心だ、でもこれはあくまで親友として好きだと思っているだけで、男の俺じゃ雅を本当の意味で幸せにすることはできない。


「…うん、そっか…そっかそっか、じゃあちゃんと僕のこと幸せにしてね?」


「それは俺──」


「俺じゃなくてちゃんとした女の子となんて言うんでしょ?ふざけないでよ、逃げないでよ、僕の心こんな滅茶苦茶にしておいてまだそんなこと言って責任逃れするんだ、本当に京介は狡いんだね、とっても悪い子だ」


初めて聞く何も反論できないほどドスの利いた声で睨まれた、思わず目を逸らしてしまい、雅の顔が見れなくなる。


「僕の好きは全部京介にあげる、だから京介の好きも全部僕に欲しいな」


「おいっ…雅っ…やめろ!」


次は耳元で囁いてきた、これもまた初めて聞く媚びるような声だ。頭がゾワゾワするような声、男なら誰でも興奮してしまう魔性の声だ。


「もっと僕を感じて…♥他の女にしてた分全部返してもらうから♥僕を抱きしめて♥」


そう言って雅は俺の首に何度もキスをした、不慣れで拙いものが、次第に俺が興奮するようなリップ音を立てるようなエロいものへ変わっていった。


「あっ♥ふふ…勃起、しちゃったね♥京介の大っきいのが僕のアソコにあたってるよ♥」


俺のチンコはガチガチに勃起してしまった、雅の柔らかい肉体と、抗えなくなる匂いに為す術なく反応してしまった。


「これでもうわかったでしょ?もう京介は僕のこと親友だなんて思えないよ♥一人の女として意識しちゃったもん♥」


満足そうな笑みを浮かべる雅、次はもうキスをしてしまうそうな程に顔を近付けてきた。


「み…雅…」


「あはっ♥…お互い顔真っ赤だね♥…今までの分、ぜーんぶ返してね、京介♥」


頭を両手でガッシリと掴まれ、逃げることの出来ない、上気した顔に、汗をかき、荒い息遣いで、絶対に逃さないという目をしている。俺は雅の初めて見る扇情的な表情を見て、指一つ動かすことも出来ないほど頭が真っ白になっていた。


「責任取って、いっぱい僕のこと愛してね♥」


俺達は公園のベンチで優しく甘いそしてとても深いキスをした。






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ネタバレになりそうなので性転換タグを付けるか悩みどころですねぇ。

龍堂君を女の子にしようかとも思いましたが、オホ声で喘ぐだけの回になりそうだったのでやめました。

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