27品目 うな丼
ユウジと宿で話していると、何処から聞きつけたのか商業ギルドの職員がやって来た。
「何時まで滞在しますか?」「屋台はいつから出せますか?」
キラキラした目で聞いてくる職員に申し訳ないと思いながらも、明日には迷宮都市を発つ事を告げると、「次に来た時はお願いしますね?」そう言いながら、グイグイ来る姿に軽く引いた俺は、暫くはここには来ないと心の中で誓った。
次の日になりユウジがエリオの事を見て、信じられない顔で俺の事を見てきた事が疑問ではあったけど、亜人の村に向かう事にする。
亜人の村までは二日くらいで着くようだ。
「そういえばどんな亜人が居る村なんだ?」
「今回行く亜人の村は竜人たちが住む村だ。俺もお世話になった事があるんだが、竜人たちは良い奴らばかりなんだけど、飯に対して無頓着というか、拘りがないんだよ。だから、シンには食材を調理する事の素晴らしさを教えてやってほしくてな」
「竜人たちはあんまり料理とかしないんだな」
「料理をしないとかいうレベルじゃねぇぞ?魔物の肉を焼いて食う事しかしないからな。それでも美味い事には変わりないんだが、毎日焼いただけの肉を出された時は流石に飽きた」
げんなりしたユウジの表情を見る限り、毎日肉だけを食べる生活は相当辛かったらしい。
迷宮都市を発って、その日のうちには森の入り口まで辿り着いた。今日はもう暗くなるので、ここで野営をする事に決める。
「珍しく魔物が襲って来ないから、食材があんまりないんだよな。うちの食いしん坊を満足させるには少し物足りないかな」
「ノワル殿に森の中で狩って来てもらえば良いんじゃない?」
「そうしてもらうか‥‥‥ん?どうしたエリオ?」
俺の近くに寄って来たエリオは、自分が森の中に行くと主張しているように、バサバサと翼をはためかせている。
「エリオにはまだ早いんじゃないか?最近飛べる様になったばかりだろ?」
「子供とはいえドラゴンだぞ?その辺の魔物にやられるわけないんだから、やらせてみたらどうだ?」
「そうかな?じゃあ、危なかったら必ず逃げて帰ってくること!それが守れるなら行ってきてもいいよ」
「グワアッ!!」
嬉しそうに森の奥へと飛び立つエリオを見送り、野営の準備を開始した。
「ユウジは何食べたいとかある?」
「シンが居る時はやっぱ米だろ。丼ぶり飯だな」
「エリオが狩ってきた魔物を見てからメニューを決めるか。リーシアもそれでいいか?」
「私はシンが作る料理ならなんでもいいわ」
米を炊きながらエリオの帰りを待っていると、森の奥からエリオが何かひょろ長い物を前足で掴んで飛んでくる姿が見えた。
「なんだあれ?蛇?」
上空から獲物を地面に落とした獲物をは、褒めてといわんばかりに俺に突っ込んでくる。
「よしよし。エリオも狩りが一人で出来るようになったんだな」
「グワアッ!!」
「微笑ましい光景にしか見えないが、平気でエリオの突進を抱きとめてるシンがおかしい‥‥‥」
「エリオが狩ってきたのは、なんていう魔物なのかしら?」
「これは、サンダーイールだな。地球で言う電気ウナギみたいなもんだ」
「という事は、今日はうな丼か?」
「うな丼とか、最高かよ!早く作ろうぜ!!」
張り切ってるユウジに、ウナギを捌く担当になってもらい、俺はうな丼の命とも呼べる、タレを作成しようと思う。
一番簡単なのは醤油、みりん、酒、砂糖で作るタレだろう。
今回はそれでいく。鍋で煮詰めたりしていくわけだが、電子レンジでササッと作れもするから簡単に出来て、美味しいタレになるんだ。
一般家庭でどれだけの人が、生のウナギを捌いて調理し始めるか疑問ではあるんだけどな‥‥‥。
そんな事はさておき、捌いたウナギに串打ちをしてから、皮の方から焼いていく。
香ばしい匂いがして来たら、ウナギの身の方も焼いていく。
焼きあがったら蒸し器で10分程蒸してから、タレに付けて再度両面を焼いていけば完成だッ!
「ウナギのタレの香ばしい匂いだけで白飯が食えそうだな。早く米の上に乗ってけてくれ!!」
「そう焦んなって。ほら、もう食べていいぞ」
勢いよくうな丼を、口の中一杯にかきこんでいるユウジを見て、苦笑いしつつも食べる事にする。
「うんめぇッ!!身がしっかりとしてて、フワッとした食感がたまらんッ!タレの甘じょっぱさと香ばしさも最高にウナギにマッチしてるな。ウナギ自体にもほどよく脂も乗っててベリーグットな一品だぜ!」
「汚ッ!!食いながら話すなよ!米が飛んできたじゃんか!」
「‥‥‥」
「リーシアは静かに食べてるけど、表情が少し怖いぞ?」
無言で食べ続けるリーシアに若干引きつつ、俺もうな丼を食べる事にする。
自分で言うのもなんだけど、100点のうな丼だ。
簡単なタレで焼いたウナギだったけど、流石異世界産のウナギだな。地球のウナギとは比べ物にならない位、ウナギが美味い。
俺達がうな丼を完食して一服してると、森の茂みをガサガサと掻き分ける音が聞こえてくる。
その音の方向を見ると、2メートルを超えた二足歩行のドラゴンが一人森から出てきた。
「むっ?龍神様を追いかけて来てみれば、そこに居る人間はユウジ殿ではないか?」
「おおっ!ボーじゃないか!あの時は世話になったな。明日にでも村に尋ねるつもりだったが、龍神ってエリオの事か?」
どうやら森から出てきた竜人は、俺達が向かっていた竜人の村の村長さんらしく、エリオが飛んでる姿を見て追いかけてきたそうだ。
元々ドラゴンというのは、山の頂上に巣を作りそこを縄張りにしているからあまり目にする機会がないのだけど、ボーさん曰く村ではエリオの飛んでる姿を見て、竜人達が崇めている龍神様の子供が旅立って行ったと大騒ぎになったそうだ。
ボーさんに事情を説明し、エリオは龍神の子供ではなく俺の子供だと言うと、
「こ、これは失礼した!まさか、あなた様が創造神様だとは知らずにどんだご無礼を‥‥‥」
「え?どういう事?」
地面にいきなりボーさんがうつ伏せになるという、日本でいう土下座なのかは分からないが、必死に謝罪をしてくるボーさんをなんとか宥めて、普通に座ってもらった。
「ふぅ‥‥‥それで、なんで俺が創造神と思ったんでしょうか?」
「我らが崇める龍神様は、創造神様が造られたと聞いております。先程、エリオ様を子供と、おっしゃられましたので」
「いや、それは言葉の綾というか、なんというか‥‥‥というか、創造神様じゃなくて、シンです」
「なる程‥‥‥地上界ではシン様という名で活動するわけですね。分かっております。私、『ボーワッテゲダラ・ディサーナーヤカ・ ムディヤンセーラーゲー・ギハーン・ サマンタ・ディサーナーヤカ』は、シン様が地上界にお忍びで来ている事を村の者達には黙っておりますので、どうぞ我が村でお寛ぎくださいませ」
「名前長っ!!じゃなくて、ユウジ。なんかボーさんが勘違いしてるみたいだけど、どうしよう」
「くくっ。いいんじゃねぇか?創造神様」
笑ってばかりで頼りにならないユウジとリーシアを無視して、必死に俺が創造神様ではない事をボーさんに告げるが、どんどん話がおかしな方向に進んで行くので途中で諦めたわ‥‥‥。
「もうそれで良いよ‥‥‥でも、出来るだけ普通に話してくれないか?堅苦しいのは好きじゃないんだよ」
「シン様がそう言うのであれば、分かりました。ところで、つかぬ事を聞きますが我が村にはどのような要件で来られるのですか?」
「色々理由はあるんだけど、ユウジから竜人達の食文化を改善してくれって言われてさ。俺は料理人だから、暫く竜人達の村で食堂でもやろうかなと思ってさ」
「なんと!!創造神様‥‥‥シン様自ら我等の事を想い、料理を作って下さるとは。ありがたき幸せ」
もう否定するのも面倒だからと投げやりになった俺は、明日にボーさんの案内で村に行くことになった。
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