22品目 妖精のスープ

「森の中って、こんなに静かだったか?魔物の姿が全くないんだけど‥‥‥」


『えっへん!わたしが頑張ったんだよ!』


「ただの女の子にしか見えないけど、パックってもしかして強いのか‥‥‥?」


『強いよー?こうやって倒すんだ!』


 しゅっしゅっ。と、シャドーボクシングをしている姿からは、いまいちパックの強さを感じられない。


「あ‥‥‥シン!あれがパックちゃんが言ってた池じゃない?」


 リーシアが指をさしている方向を見ると、木々の隙間からきらきらと輝く、綺麗な光が見えた。


「す、すげぇ‥‥‥池が虹色に輝いてる!」


「本当ね。こんな景色見た事ないわ‥‥‥」


 圧巻の光景だった。池の水は太陽の光に反射して虹色に輝いており、それでいて池の底まで見えるくらい綺麗な水質という、なんとも不思議な光景だった。



「でも、他の妖精の姿は見えないな」


『みんな恥ずかしがりやさんだからね!シン達が来たから隠れちゃったみたい』


「そうなのか。他の妖精も見たかったけど、あんまり長居はしない方が良さそうだな」


 俺達は山から湧き出る妖精のスープを、入れれるだけいれて早々にこの場から立ち去る事にした。それにしても、これはどんな味がするんだろう‥‥‥楽しみだ。


 村の近くに戻ってきた俺達は早速、妖精のスープを飲んでみる事にする。



「‥‥‥ッ!!‥‥‥なんだこれ?」


「美味しい‥‥‥スープを飲む度に味が変わってる?」


 リーシアが言った通り、スープを口に含むと味が変化していく。


 様々な野菜、キノコ、魚、肉‥‥‥それらを極限まで凝縮したスープで、味が七変化してくる。


 それぞれが味を主張してるのに、全体の味のバランスが崩れていないという、わけの分からないスープ‥‥‥だが、美味い。


「このスープはこれで完成してるな‥‥‥下手に手を付けるより、米と卵でおじやにする方が良いか?」


「それも美味しそうね!後はこの間、迷宮都市で食べたラーメンの麺を入れても合うと思うわ」


「確かに‥‥‥この際、おじやとラーメンを作ってみるか」


『また美味しいの作ってくれるの!?』


「すぐ出来るからちょっとだけ待っててな?」


 鍋に妖精のスープを入れ、その中に米をダイブさせて、後は卵でとじて蓋をして3分待つだけ。3分後に鍋の蓋を開けてみると、


「湯気が虹色だ!!」


「すごい神秘的ね!」


『綺麗なの!』


「「グルルルルッッッ」」


 おじやを食べると米が妖精のスープを吸っていて、一粒一粒にしっかりと味がついている。妖精のスープにただ米と卵を入れるだけ‥‥‥素人でも作れてしまう、まさに料理人泣かせのスープだ。


 お次は妖精のスープで作ったラーメン。本来なら、チャーシューや卵などの具材を入れた方が、見た目的にも良いのかもしれないが、そんなものはこの妖精のスープには入れない。というか、入れれない。


 料理人として悔しいが、今の俺にはこのスープの邪魔をしない具材が思いつかない。いつか、妖精のスープの味を壊さないで、もっと引き立てる具材を作ってみたいな‥‥‥。


 そんな事を思いながらも麺を茹で続ける。後ろではまだまだ腹ペコのお客が待っているからだ。


 相変わらずの美味いスープで、俺達は腹がパンパンになるまで食べ続けた。





「もう腹に入らん‥‥‥食い過ぎたわ」


「そうね‥‥‥今更だけど、このスープが湧き出るあの山はどうなっているのかしら?」


「それな。パックはあの山には何があるか知ってるのか?」


『うぷっ‥‥‥。あのお山には、美味しい魔物がいっぱい居るの!それの死骸なんかを山が吸収して、あの湧き水になるんだって!』


「美味しい魔物か‥‥‥気になるな。行ってみるか?」


「強い魔物程、美味しいって言われてるけど、シンは大丈夫なの?」


「うん。やっぱりやめよう。アブッ!?」


 美味しい魔物というのが気にはなるが、強い魔物が居る場所になんて絶対行きたくない。


 考え直して、行くのをやめようとしたら、うちの食いしん坊に頭をぶたれたわ‥‥‥。


「シ、シン‥‥‥ノワル殿の前足が直撃してたけど大丈夫?」


「え‥‥‥尻尾じゃないの!?アレを受けて生きてる俺って、もはやこの世に怖いものなんてないんじゃ‥‥‥」


 それを分からせる為に、ノワルは俺の事を叩いたのか‥‥‥いや、あの俺を見下したノワルの顔からして、そんな事は絶対ないか。


「しょうがない‥‥‥あの山に行かないとノワルが五月蠅そうだしな。村長に挨拶してから山登りでもするか」


 たっぷり妖精のスープを堪能した俺達は、村長に挨拶を済ませ山に向かうことにする。


 森の途中でパックとお別れをし、山を登って行く俺達。その山では様々な出会いが俺を待っていた。

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