23品目 ハニーアントのホットケーキ

 パックと別れた俺達は美味しい魔物を求めて・・・絶賛森の中で迷子中であった。


「山の方向はこっちだったよな?」


「私は方向音痴だし、聞かれても‥‥‥。ノワル殿がなんの迷いもなく、進んでいるのだから大丈夫なんじゃない?」


「ノワルは澄ました顔して、平気で迷子になってる事が多々あるぞ?エルフの森でもそうだったし」


 俺には分かる。この食いしん坊は、適当に歩いてるだけに違いない。なんでそんな凛々しい顔しながら歩けるのか分からんが、俺のパーティーには方向音痴しか居ない。


 旅をする上ではかなり痛手ではないだろうか?そんな事を思いながらノワルに乗っていると、目の前には洞穴が見えてきた。


「ノワルあの洞窟の中に行くのか?」


 くんくんと匂いを嗅ぎながら洞窟の方に向かって行くノワル。どうやら、食いしん坊センサーになにか引っかかったようだ。


 洞窟の中は驚く程、明るかった。どういう原理か分からないが、岩肌の表面にコケの様な物が付着していて、それが光を放っている。


「淡く緑色に光っていて、とても綺麗ね」


「そうだな…ん?なんか、音がしないか?」


 洞窟はノワルでも余裕で入れるほどに広く、結構な深さがあるように思えた。そんな洞窟の奥からカサカサと、変な音が聞こえてくる。


 現れたのは、人間サイズの蟻。それも、道を埋め尽くすほど大量に・・・。


「甘い匂い…?いや、そんな事より逃げるぞ!!lって、おいッ!!ノワル突っ込むなよ!」


 ノワルは俺を乗せながら、蟻を前足で蹴散らし、踏みつけて蹂躙していく。まるで、シートベルトなしのジェットコースターに乗っているようだ…振り落とされたら、蟻に群がられてしまう。


 振り落とされた時の事を想像してしまった俺は、必死にノワルを掴んで離さないようにした。



 掴まる事に必死で、どれだけの時間そうしていたかは分からないけど、いつの間にかノワルが止まっている事に気付く。



「うぷっ‥‥‥気もち悪い」


「シンッ!!‥‥‥大丈夫そうね」


「これの何処を見て大丈夫だと思ったんだよ‥‥‥うぷっ」


「あはは‥‥‥ほら、ケガはないようだし。それより、周りを見て?」


 気持ち悪かったけど周りを見てみると、蟻の死骸は何処にも無く、地面には蟻の蜜が落ちていた。


「もしかして‥‥‥迷宮?」


「そうみたいね。迷宮都市以外にも迷宮が存在するなんて、初めて聞いたわ」


「ここは、人も近づかないだろうしな‥‥‥発見されてない迷宮もたくさんあるのかもしれないな。それより、あの蜜から滅茶苦茶甘い匂いしないか?」


 迷宮の中は蟻の蜜により、甘くいい匂いがしている。一口掬って舐めて見ると、味は、甘さはさっぱり系で、しつこくない。


「ホットケーキにこれをかけたら、滅茶苦茶美味しそうじゃないか‥‥‥?ノワルはこの匂いをかぎ取ってたのか」


「ほっとけーき?聞いたことない名前だけど、それって美味しいの?」


「美味いぞ?色んな食べ方のバリエーションがあるんだけど、今回はこの蟻の蜜を使って食べてみるか」


 蟻の蜜をペロペロ舐めている、ノワルとゴマを一旦迷宮の外に連れ出して、ホットケーキを作る事にする。




 小麦粉にベーキングパウダーと塩、今回は蟻の蜜を入れて混ぜる。


 卵、牛乳を入れて粉っぽさが無くなるまで、しっかりと混ぜ合わせてくれ。フライパンが温まってきたら、弱火にして丁度良い位の大きさにして焼いていく。


 焼き色が付き、表面がぷつぷつしてきたら裏返し弱火で2分ほど加熱して、中まで火が通り、焼き色が付いたら火から下ろす。


 後はこれに蟻の蜜を上からかければ、『ハニーアントのホットケーキ』の完成ッ!



「美味いッ!!表面がサクッと、中はしっとり。いわゆる「パンケーキ」とは違って、生地自体にほんのり蟻の蜜の甘さがある」


「本当だッ!初めて食べたけど、これは女の子が絶対好きな味だわ。甘すぎないし、何枚でも食べれそう!」


「だよなッ!!しつこ過ぎない甘さのお陰で、次々に口の中に放り込んでしまう。あー‥‥‥コーヒーが飲みたくなってきたな‥‥‥」


 至福のひと時を過ごした俺達は、この後どうするかを話し合っていた。


「このまま帰る‥‥‥っていう選択肢はないよな‥‥‥」


「まだノワル殿は満足してないみたいだからね。そんな急いでるわけじゃないんだし、とりあえず山の頂上にでも登ってみる?」


「せっかくここまで来たからそうするか」


 ノワルに野生の勘という物があるのかは知らないが、俺達はのんびり山の頂上を目指すことにした。




 数時間は歩いただろうか、時々襲ってくる魔物達をノワルが撃退していたのだが、その中には『地龍』もいた。


 まあ、ノワルがワンパンで倒してたんだけどさ‥‥‥。


 その後も歩き続けると、ようやく山の麓に着いた。


「やっとか‥‥‥というか、この山でかすぎないか‥‥‥?雲に隠れて全体像は見えないけど、5000メートル位あるんじゃね?」


「今日はここで野営をして、明日の朝に向かう事にする?」


「そうだな。今日の夕飯はさっきノワルが倒した『地龍』のドラゴンステーキにでもするか」


 流石に今日は疲れたから、手の込んだ料理はしたくないな‥‥‥まあ、ノワルの上に乗ってただけなんだけどな。


 ササッとリーシアと地龍の解体をして、夕食の準備を開始した。

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