第3話 癒術師のいない世界
オッサンに連れてこられた場所は、小さな雑貨屋のような店の中だった。軽く商品を見てみたが、私の知ってる雑貨屋とはだいぶ違う。商品は大多数が小さな四角い箱に入っていて、行儀よく棚に並んでいた。
「そこ、座んな」
カウンター前に少しスペースが取られていて、そこにはテーブルと椅子があった。椅子を引いて恐る恐る座ると、向かいにどっかりとオッサンが腰を下ろした。
「で、おめぇさんは何モンだ?」
「えーと……」
「どっから来た」
「うー……わかりません」
「舐めてんのか、あァ!?」
「舐めてません!ホントに分かんないんです!私もイキナリこんな所に放り出されて途方に暮れているんです!!」
誰か教えて下さい。ここは何処なんですか?目の前のオッサンはすぐに凄むので怖くて訊けないんです!
「さっきのは……何だ?」
「さっき?」
「ほら、さっき俺の肘に向かってなんかしただろうが」
「あぁ、
「なんかのまじないか?あっという間に治ったが……」
「まじないとかじゃないです。魔法ですよ、知らないんですか?」
「魔法?」
「ええ、魔法」
「………。」
オッサンは苦虫を噛み潰したような表情で少し考えるようにしてから、ゆっくりと首を横に振った。
「有り得ねぇだろ、魔法とか」
「えっ?………魔法、有り得ないんですか?」
「そんなもん、生まれてこのかた見たことねぇよ。本当なのか。おめぇ、詐欺師か何かじゃねぇのか?」
「頭に
詐欺師って何よ。失礼すぎんだろ。
でも、これで少しだけ分かった。このよく分からない世界にはどうやら魔法がない、らしいのだ。
「じゃあ、ここの人達は病気や怪我をどうやって治しているんですか?」
「どうって……まぁ、酷けりゃ病院に行って医者に見せるだろうが、基本的には自分で何とかするな」
「じ、自分で!?」
ここらの人はみんな癒術師なわけ!?
いや、でも、魔法は有り得ないって、目の前のオッサンは言ってるからそれはないのかな…?
「自分でってもアレだ、薬を飲んだり貼ったりはするぞ」
「え……薬は医師が出すんですよね?」
「それは処方薬だ。病院に行かねぇ奴もいる」
「医師に見せない人はどうするんです?」
「まぁ、自分で買うよな」
自分で!?
山に入って薬草を採ってきて、磨り潰したり煎じたりしてっていうくっそめんどくさい事を個人でやってんの!?ここの人達はみんな暇人なの!?
あれ、でも、待てよ。今このオッサンは「買う」って言ったよね。売ってるの?薬を??
「あ、あの、ここって……」
「見て分からねぇか?おめぇ本当にどっからきたんだ」
オッサンが仕方なさそうに肩を竦めるのが死ぬほどムカつく。
「見ての通り、ここは……薬屋だ」
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