ここからは時間軸とか各話の繋がりとかはめちゃくちゃに、ただ作者の書きたいものを書きたいように書いていきます

妖怪のつけた傷

 ※一度完結したのに再びスタートしてしまってすみません。

 ここからは、時間軸とか各話の繋がりとかはめちゃくちゃに、ただ作者の書きたいものを書きたいようにやっていきます。

 やってることは、今まで通りバカップルのイチャイチャです。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇




 妖怪が見えるってのは、厄介事を引き寄せることも多々ある。

 幼い頃、私が見える奴だと分かると、何かと興味を持って騒ぎ出すやつらが何人もいた。


 目が合った時、声を上げた時、奴らは珍しそうに私を眺め、時に手を出してくる。

 いきなり突き飛ばされたり、腕を掴まれたりして、軽いケガをしたりもした。

 血気盛んなヤンキーじゃあるまいし、暇なの?


 そうして妖怪からつけられた傷は、なぜか治りが遅かった。


 そんなことを思い出し、霊障という言葉が頭をよぎる。


 霊が取り憑いたり、霊気にあてられたりすることで、体に不調をきたすことを言うんだけど、相手が霊でなく妖怪でも、霊障って言うのかな?


 そんなことを考えたのは、今まさに、私がそんな症状に悩んでいるから。


「ねえイチフサ。妖怪につけられた傷って、普通の傷とは違うの?」


 妖怪のことは妖怪に聞くのが一番。というわけで、いつも会ってる社の境内で、イチフサに聞いてみる。

 本当は、イチフサにこの話はしたくなかったけど、他に聞ける相手がいないんだから仕方ない。


「うーん、違うって言えばちがうかな。俺たち妖怪のつける傷ってのは、物理的な力だけじゃなくて、念がこもってることが多いからね」

「念?」

「そう。例えば、怒りを込めて相手を殴ったら、その怒りの感情が念となって相手に染みついて、体を悪くすることもある。呪いみたいなものかな」

「そうなんだ」


 呪いとは、ずいぶんとオカルト全開な話。だけど、妖怪が出てくる時点で完全にオカルトなんだから、今更ね。


「そういうのって、影響があるのは悪い念だけ?」

「そんなことないよ。良い念を送れば、もちろん良い結果を生むことだってある。強い思いってのは、良くも悪くも相手に影響を与えやすいんだよ」


 なるほど。それなら、私が今悩んでることにも納得がいきそうだ。

 するとそこで、イチフサが不思議そうに聞いてくる。


「ところで結衣。なんで急にそんなこと聞いたの?」

「えっ? それは、その……なんとなく気になったから」

「気になったって、どうして?」


 明らかに怪訝な顔をするイチフサ。そりゃそうだ。何もなしに、急にこんなことが気になるわけがない。


「まさか、妖怪からケガさせられたとかじゃないよね?」

「それは……」


 尋ねられ、そっと目を逸らす。

 私が昔、妖怪に色々ちょっかいを出され、時にはケガをしていたことは、イチフサだって知っている。というか、それをなんとかしてくれたのがイチフサだった。


 知り合って間もなくの頃、イチフサは私に、一枚の御札を渡してくれた。

 これにはイチフサの妖力が込められていて、この近くの妖怪なら、それに気づいて迂闊に近寄ってくることは無くなるとのこと。実際、それ以来私が妖怪に危害を加えられることはほとんどなくなった。

 当然、霊障なんてものに悩むこともなくなった。そのはずだった。


「やっぱり、何かあった? だったら話してよ。っていうか、危ない目にあったならすぐに言って!」


 私の様子を見て、イチフサが血相を変える。本気で心配してるのがわかる。


 確かに、何かあったかと言われると、あった。

 だけど、私はそれを言いたくなかった。こんなこと、どう話せばいいかなんてわからない。


「べ、別に大したことじゃないわよ。イチフサが気にする必要なんてないから」

「大したことじゃないなら、言ってもいいんじゃないの?」

「ほ、本当に、痛いとかケガしたとか、そういうんじゃないから」

「じゃあ、どういうの? わざわざ傷がどうとか言って、何もないとは思えないんだけと」


 なんとかごまかそうとしたけど、どうやら逆効果になったらしい。イチフサは一向に納得しないどころか、ますます気になって聞いてくる。


 なんて言おうかわからず黙り込むと、イチフサを少し冷静になったらしい。さっきまでより幾分落ち着いた様子で、ゆっくりと言ってくる。


「本当にいらない心配なら、それでいいんだ。だけど、もし本当に妖怪のことで悩んでるなら、力になれるのは俺しかいない。なのに、何も知らないままでいるのは嫌なんだ。それでも、話してくれない?」

「それは……」


 どうしよう。これは、ちゃん話すまで意地でも納得しそうにない。何より、不安そうに聞いてくるのを見ると、黙ったままでいるのに苦しさを感じる。



「ねえ、教えてよ。妖怪につけられた傷って、なんのこと? いったい、どこの誰が結衣にそんなことしたの?」


 もう一度尋ねてくるイチフサ。私に傷をつけた誰かに、並々なぬ敵意を抱いているんだろうな。

 だけど、だけどね。そんなイチフサを見ると、色々複雑な思いが込み上げてくるのよ。

 仕方ない。覚悟を決めて、本当のことを話すしかない。


「…………あんたよ」

「えっ?」

「だから、私に傷というか、厄介なものをつけたのはあんただって言ってるの」

「俺が? いつ?」


 なんのことだかわかっていないんだろう。イチフサは、心底不思議にキョトンとしている。

 こっちが散策悩んでるってのに、その元凶がいいきなものだ。


 次の瞬間、私は着ていたブラウスのボタンの上二つを外し、その下に着ていたシャツを僅かに下げる。


 そして、露になった鎖骨を見せながら、叫んだ。


「これよ、これ! あんたのつけたキスマークが、いつまで経っても消えやしないのよーっ!」

「ああ、あの時のやつか」


 それは今から数日前。イチフサとなんやかんやで色々あって、マーキングだの印付けだの言われて、こんなキスマークをつけられてしまった。


 それはいい。仮にも一応彼氏と彼女なんだし、そういうことをやったとしても、何もおかしなことはない。多分。世の中の彼氏彼女がどうしてるかは知らないから、全部想像だけど。


 問題は、そのキスマークが何日経っても全然消えないこと!


「確かにあの時、これでもかってくらい気持ちを込めて口をつけたからね。すっごく念がこもってるだろうな」

「こめすぎよ! てっきり少ししたら消えると思ってたのに。おかげで、誰かに見られないかヒヤヒヤしてるんだからね!」


 もし学校でこんなの見つかったらなんて言われるか。想像しただけで恥ずかしい。


「この呪いを解く方法ってないの?」

「呪いって、別に危害を加えるようなものじゃないだろ」

「危害はなくても、迷惑はバッチリあるわよ! 責任もってなんとかしなさい!」

「えぇ〜っ」


 イチフサは不満そうにしながらも、妖怪用の薬を渡してくれた。これを塗ると、治りが早くなるらしい。


「次からキスマークつけるの禁止ね」

「えっ。それもダメなの? 次は人から見られないところにつけるからさ」

「見られないところって、どこよ」

「うーん、そうだな。見えない場所。あと、俺がしたい場所……」


 真剣な眼差しのイチフサ。いや、どれだけ真面目な顔したって、考えてるのはキスマークのことだからね!


 それからようやく考えがまとまったのか、イチフサが私に告げる。

 だけど…………


「バカ! ヘンタイ! なんてところにつけようとするのよ!」

「だって、普段は見えないって条件に俺の希望を加えると、どうしてもそういうところになるじゃないか」

「あんたの希望は却下!そういうところはまだダメーっ!」


 結局、それから当分の間、イチフサがキスマークをつけるのは禁止となった。

 その分キスが今までよりも激しくなったのは、また別の話だ。

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