お便り届きました

風と空

第1話 白玖斗と夕希と五月

 それは白馬に乗ってやってきた。

 毎年五月恒例の訪れ……


「あれはーりすしゃん」


 最近妹の夕希ゆき(3)のお気に入りは雲遊び。

 今日も小学校から幼稚園にお迎えに行って、夕希と一緒に家に向かう帰り道。


「夕希。危ないから空ばっかり見てちゃ駄目だよ」


「あれはーあいす」


 夢中になって聞いてくれないんだよなぁ。それでもってなんであの雲がリスやアイスに見えるんだろう。


「あれは〜くましゃん」

「夕希っ!」


 真上の雲を指差して後ろに倒れる夕希。手を繋いでいたからよかったけど危なっかしい!三歳児体型はまだ頭大きいから。


「はくにいちゃ、だっこ」


 僕の心配もよそに、楽しそうに両手を挙げて抱っこをせがむ夕希。


「仕方ないなぁ」


 僕の首に両手をしっかりまわすように言ってからしゃがみ、夕希を抱き上げる。…… 重くなったなぁ。


「あれはーおうましゃん」


 早速また夕希が雲見つけたかな?と思って夕希の指先をみると、その先は山。…… ん?あ、そっか。


「夕希よく見つけたねぇ。じいちゃんに伝えよっか」


「ゆきのもつくるの」


「そうだね。今年も上手くいくといいね」


 夕希を抱っこしながらゆっくり、それでもさっきよりは早く歩く。僕らの家は夕希の幼稚園から徒歩十分。


「ただいま」「いまー」


 玄関に着いて夕希を下ろしてドアを開ける。


「お!お帰り。白玖斗、夕希」


 じいちゃんが玄関で野菜の苗を袋から出していた。


「あ、じいちゃんも見た?山の白馬」


「ああ、今年は一週間早かったなぁ。お、夕希のトマトの苗もちゃーんと買ってきたぞ」


「ゆきのトマトー!」


 夕希トマト好きだから喜んでる。後は茄子に胡瓜にピーマンオクラ。じいちゃんの畑は今年もいっぱい実がなるんだろうなぁ。


 僕らの街から見える山の山頂の斜面には、毎年白馬が現れる。


 五月は山の雪解けも進み、残雪によって白い馬の形が浮かび上がるんだ。そして昔から白馬が山に現れると農作業の始まりの目安になるみたい。


 それにね、その山の斜面に現れる白馬、背中に何か載せてるように見えるんだけど。夕希がトマトの苗だっていうんだ。


 だからうちでは白馬が野菜を乗せて来るって言ってる。


 じいちゃんの畑は僕らの楽しみでもあるんだ。


「はくにいちゃといっしょにやる」


 苗を持って笑顔で僕に向かって言う夕希。

 

 そこはじいちゃんとやるって言おうよ。

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