二節
バッググラウンドで翻訳中……
同時に出力を開始します。
二六八九年十二月十四日
世間では、電気から食料が創れる地下施設が出来ただの、人が電子の世界に行けば貧富の差なしに娯楽を味わえるだの、ファンタジーみたいな話をしている。
そんなことをすれば、人の心に何が起きるか、偉い人は賢すぎて考えることもないんだろう。
それはそうとして、まずは俺、『(翻訳不可。仮称:L)』のことから語ろう。
どこにでもいる、二十四歳、フリーター、童貞。
ありがちな始まりだが、ありがちな人間だから仕方ない。
これといった特技はない。
文章は人並み少し上くらいには書けるかもしれないが、気のせいだろう。
知識や経験は大してないが、人生という奴には飽きている。気がする。
二十ニ歳を過ぎた頃から感情的になれなくなった。というより表に出せなくなった。まあ実際、感動してはいないのだろう。
こと喜びというものに関しては薄れたのを自覚している。
就活もせず、作曲家になりたいとDTMを始めた大学三年。あの頃はまだ熱があった。
卒業後、都内と呼ぶには電車の本数が少ない、家賃が安いという理由だけで選んだ町で、本当の意味で独り暮らしを初めた。社会で活躍あるいは酷使される友人たちとの関係が希薄になった。
よくある夢追い人と社会人とのギャップ。
熱も覚悟もあった最初の一年は、まず生きることで必死だった。ルーチンワークに慣れ、イレギュラーさえも心をすり抜けるようになった頃、初めて寂しさを感じた。
別に友人や家族と全く会わなくなったわけではない。だが、どんなに政治がどうだ教育がどうだと頭の中で宣っても、共感も罵倒もない。かといって、それをSNSで発言する勇気もやる気もない。
要は、思想すら共有する同志とも言えるような相手が欲しかったのだ。
環境が変わっても、俺が言うことを真に理解してくれる人間は一向に現れなかった。そもそも他人の根っこにある思想がどうだとか、考えている人間のほうが少ないということを、二十三にしてようやく思い知る。
だから今、ようやく重い腰をあげて、ネチネチと自語りをしている。いずれこれを見つける「僕ら」のために。
そして俺はこの結論に辿り着く。
俺の夢は、作曲家になることでも、小説家になることでもなかった。
唯、俺がなんの理屈もこねずに愛せる「君」を、抱きたい。
おそらくこの一回目の生では出会えない、「君」を。そしてそんな人間が現れるのは、美しいほど破滅的な「あの世界」だけだろう。
言葉にすると、気持ち悪い。
だかおそらく、多くの人間が抱くであろうこの平凡な夢を、俺は言葉を使って叶えることにした。
これから書くのは、有り体に言えばラブレターである。だがその道中、俺が渇望して止まなかった「あの世界」で生きている「君」のために、生きる術もまた語ろうと思う。
今を生きている彼らにはなんのことやらだろうが、俺はここに記したことが真実であると確信している。まあ実際のところ、今も未来も、俺にとっては『
違うのは、灰の量と「君」がいないこと――。
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