第14話 イケメンエリート辛酉

登場人物の真似は絶対に絶対しないでくださいとても危険です



家久沙と川田は、防人隊の細河の車に同乗してニュー京都タワーに着いた。




「で、デカイ!なんなんだあれは!」




巨大でメタボリックでメタリックな光沢がある毛の白い鳥は、ニュー京都タワーにぴったりと抱きつき擦りつき、ポワっと白く光っていた。サイズはタワーの半分程である。たまに飾りとして埋まった巨大な紫水晶や水晶等、電線をガリガリ食べている。長さと色の違うカラフルなダイヤモンドの楕円形が7つ並んだ鶏冠で、金色の丸眼鏡をした鳥は、イエローダイヤモンドの様にパチパチ虹色に光る目と不透明なイエローの宝石のくちばしをかっ開いて叫んだ。




「カノトトリニモットーホウセキヲヲヲヲ!コケッコー!」




夕焼けの中、停電して真っ暗になったタワーを見上げて三人は唖然とした。




「大丈夫かな…真っ暗って怖いだろうな…ライトアップをしたら中に光が届くのかな」


「タワーに張り付いているからバズーカも撃てん!中の皆さんを先に避難させないと駄目だ…これは由々しき事態ッ!」


「あ、あれは極身強ごくみきょうで肥大化しているでおじゃるな…ガリガリの極身弱ごくみじゃくよりはマシとはいえ、本人も辛いはずでおじゃるよ…」


「みきょうて何ですか?」




手を上げて尋ねる家久沙へ川田は大雑把に説明した。




「白身の身に強くする方の強化の強でみきょうと言うでおじゃる。平たく言うと自分自身に秘められたパワーが強い人や刀六十干支の事でおじゃる」


「じゃあ強い方がいいじゃん」


「基本的にはある程度強い方がいいでおじゃるがバランスが大事でおじゃるよ。後は自分の大運…人それぞれに十年事に巡ってくる干支との相性とかも重要でおじゃる」




なるほど、と頷いた家久沙は眩しい光とシャッター音に気がついた。




「細河さん何やってんの!」




綺麗だとうっとりしながら写真を撮る、防具を身に着けた細河。彼はポツリと言った。




「忠興で構わん。それにしてもライトアップされたらもっと綺麗だろうな…」


「確かに綺麗でおじゃるが!それどころでは無いでおじゃる!」


「そうだよ!…あれ?」




家久沙は首元を見た。刀だけでなくホワイトダイヤモンドのように半透明な鍵のペンダントも、白くボウッと光っている。白い半透明な部分と透明な部分が入り混じった鍵には、ダイヤカットの彫刻が施され、鍵の頭は青赤黄白黒のカラフルなラウンドカットのダイヤモンドのような宝石が梅の花のように輪になって埋まっていた。




「うぉお、美しいッ!」




すっかりカメラマン化した忠興だが、家久沙に小突かれて何処かへ電話した。




「まあ写真撮りたくなるのはわかるけど」


「おい!兄ちゃん!」




かわいい声が近付いてきて、家久沙と川田は辺りを見回したが、誰もいない。




「何で勝手にトトリンの恥ずかしい写真撮ってるんや!お前ら週刊誌記者か?肖像権てモンがあるんやで!」


「申し訳ないでおじゃる…え?」 


「すみませ…わああ!」


「儲かりまっかー!ワイは辛卯かのとうさぎや!あだ名はサギさんやで!よろしクーリングオフ!」




川田と家久沙の足元に、メタリックホワイトの毛、イエローダイヤモンドの様な目、先だけ青い手足、青い尻尾の愛らしいうさぎがやって来た。サイズは両手をくっつけて手乗りするくらいである。家久沙と川田が自己紹介を終えた頃に忠興は電話を切ると、今度はサギさんの写真を撮り始めた。家久沙は呆れ顔で言った。




「忠興さん、防人隊に合流しなくていいの?せっかく着替えたのに」


「とりあえずタワーの中の人は全員無事に避難したから、新米のお前は一般人を警護しろと知事直々に言われたぞ…」


「良かった!みんな無事なんだ!」


「要するにお兄さんはせんりょ…手が空いとるっちゅうことやな!なら助けて欲しいんや」




サギさんは家久沙の肩にぴょん!と飛び乗ると、悲しそうにタワーを見上げた。




「トトリンは本当はイケメンエリート刀六十干支でワイ達の仲間なんや。でもこの星の五行が乱れて、その影響を受けてトトトトリンはおかしくなった上に肥えてしもた……飛べるかも怪しいくらい動きも鈍いで…。あんなにスマートなトトリンが……。だからある程度弱らせてから刀に回収して休ませて欲しいんや!辛戦士に!」




サギさんは家久沙の胸元の鍵を見て、飛び降りてから叫んだ。




「兄ちゃん変身や!刀の封印を鍵で解いて、鞘に入れたまま五芒星を描いて【辛戦士かのとせんし・見参!】と叫ぶんやで!」


「了解!辛戦士・見参!」




鍵の中の銀色の針に包まれて、家久沙は白い甲冑を纏う。さらに忠興のカメラのフラッシュにも包まれた。




「必殺技ってあるの?」


「刀を鞘にしまったまま、細長い楕円を縦に描きながら辛・七宝弾かのとしっぽうだんと叫ぶと七色の宝石達が光って一直線に飛んでくで!円を書きながら叫んだ場合は宝石の輪が円盤となり空間を平行にスライスするように飛んでいくで。所謂フリスビーとかみたいな感じや。威力は集まった辛の刀六十干支の数とか色々な要因でかわるで」




忠興と家久沙は目を輝かせた。




「どんな宝石が飛ぶんですか?拾って持ち帰っても良いですかッ!」


「みんなで4等分しましょう!」


「いや一定時間で弾けて割れたり融けたり風化したりするんや。すまんな」




サギさんはがっくりする忠興、刀を見つめる皆を見回しながら続けた。




「ただ極身強でパワーも強すぎてその技だけじゃ弱らせきれなくて、刀に入らんのや。そこで【金】の五行に強い【火】の五行で弱らせなあかん。【火】の刀は持っとるか?」


「今は手元に無いでおじゃる」


「火ならあそこのガソスタからガソリン買って火を点けりゃいいじゃん」




みんなが絶句する中、家久沙はガソリンスタンドを指さした。




「公園の土ちょっと掘って作ったガソリンの池まで鳥を誘き寄せて、そこに鳥が入った所で火を点けて焼き鳥にします。言い出しっぺの俺が誘導しますよ!」




キラキラした可愛らしい笑顔で自信満々に言い放つ家久沙に、皆は困惑した。




「い、今トトリンは仲間って話したんやが?焼き鳥呼ばわりて…」


「あそこは植物が植えてあるから火事になるだろう!何考えてるんだッ!」


「あ、あぶないでおじゃるよ!万が一爆発したら!周りに人がいたら!」




ごめんごめん、と家久沙はタワーのトトリにお辞儀した。




「公園周辺に立入禁止柵や通行止めを防人隊さんにお願いします。近くに大きな噴水もあるから多分勝手にトトリンは飛び込むから消火出来ます!火はライターを借りて投げるかな…いやあそこに模型屋さんあるから、ラジコン買ってライター乗せて突っ込ませます!」


「ま、まあ家久沙君は確かにラジコンが得意でおじゃるが…うーん」


「ところで変身ってどうやって解くの?このまま行ったら強盗と間違えられるよ」




防人隊の紫の甲冑型防具をつけた忠興、白い甲冑の家久沙、そして着物に着物型コートに烏帽子姿の川田。確かに怪しくて目立つかも…とサギさんは三人を見て思ったが。万が一トトリンが襲って来たらノー防具ノー武器ではひとたまりもない。




「万が一を考えてこのまま行くんやで!兄さんらはコスプレイヤーの観光客や!うん!……あ、カメラの兄ちゃんはええ男やが威圧感半端ないから残ってもろて」


「承知しました。万が一の際に消防車に来て貰えるよう知事や上司に相談しておきます」




こうして家久沙と川田は近くの模型店に走った。なお、お金は忠興が持たせてくれた。




「すみません!すぐ使えるコントロールしやすいラジコンください!車型で丈夫なのお願いします!」


「いらっしゃいませ!今私達が運転しているミニベンタやフォラーリやポルシャがおすすめですよ」




ラジコンの車を運転させていた店主達はニコニコしながら様々な技を見せてくれた。壁には何かの大会の賞状やトロフィーも。




「それください。それから……」




十数分後。走って来た家久沙達に忠興、そして手伝いに来てくれた防人隊十数人は目を丸くした。




「ま、待て、何で一般市民の方を連れてくるんだッ!危ないだろッ!」


「ラジコンすごく上手いから頼みました」




帰ってもらおうとする忠興と防人隊であったが、店主達は拒否した。




「プロの腕前見せてやりますよ!」


「ベンタとフォラーリとポルシャを見送りたいです」 


「うまくいったら記念写真取ってください」




その後、家久沙と川田は防人隊達と浅く広い穴を掘り、残りの数人はガソリンを買いに行った。忠興は手先が器用な為、ラジコンカーの仕掛けを手伝っていた。しばらくしてそこそこ広く草を敷いた浅い穴が掘り終わったが、辺りはもう真っ暗。紺色のベールに覆われている。忠興や防人隊は心配して自分が誘導役をやると言ったが。家久沙は【自分が言い出しっぺだし甲冑の性能が防人隊より上】と強く主張して固辞した。




「行ってきます!」




家久沙は、辛酉やタワーや自分に当たらない角度……斜め上を向いて刀を構えた。




「辛七宝段!」




七色の宝石がイルミネーションとなって鮮烈に光り。カラフルな天の川のように夜空へ乱れ飛ぶ。




「ホウセキ…ホウセキ…」




真っ白に光る辛酉は熱にうなされたようにブツブツつぶやき。家久沙の光る刀にも誘導されてどすどす歩いてくる。その後も斜め上方向に技を撃っているのに飛ぶ気配は無い。太り過ぎて飛べないのか、と家久沙は思った。そしてついに。池の前まで誘き寄せた。池を挟んで対峙する辛酉と家久沙。




「辛七宝弾!」


「ホウセキ…ホウセキ…」 




家久沙は辛酉に正面から技を打つ。宝石の嵐の中辛酉はゆっくりと草とガソリンの浅瀬に足を踏み入れた。その数秒後。綿棒に火を灯したラジコンカーのフォラーリとベンタとポルシャが池に突っ込んだ。鮮やかに赤い火が燃え上がる直前。辛酉は燃え上がった炎の上スレスレをふわりと飛んだ。




「ええー!」


「と、飛べるんかーい!」


「辛・七宝弾!」




家久沙は腹這いになり。炎の近くかつ地面スレスレに向かって辛・七宝弾の円盤形を連打した




「ホウセキノハナビ…タマヤ…」




少し地面を浮いていた辛酉は思わず声の先…下を見た。円盤型に並んだ宝石が花のように見えた辛酉は突っ込んだ七宝弾に頭から突っ込んだ。バチバチとした衝撃が辛酉を襲う。さらに。




「足が燃えている!」




足だけギリギリガソリン池の燃えたゾーンに入った辛酉。足から上に炎が延焼し巨大な火だるまとなって動きを止めた。




「家久沙!」


「家久沙君!」




忠興と防人隊の数人は直ちに息家久沙を回収。息切れした家久沙を担いで走る。同じく向かったもののコケた川田は巨大な火の塊を見てブツブツ呟いていたが。違う隊員に回収された。




「やばい!あれは燃やしすぎや!トトリンー!」


「しょ、消防車は!」 


「まだ時間がかかるそうです!」


「ご協力ありがとうございました!避難してください!写真は後日!」




防人隊隊員達は自分達の持ってきた巨大な消化器を噴射。しかし火を抑える事は出来ても消すまでには至らない。




「お、重い…」


「馬鹿!お前は川田先生と避難しろッ!」


「俺の責任だから…」


「詰めは甘いがお前はよくやったッ!足手纏だ帰れッ!」




青い顔で消化器を引きずる家久沙から消化器をぶん取ると、忠興は他の隊員とともに消化器を抱えて前に出て噴射した。




川田は肩を震わせる家久沙の肩を叩くと、ラジコン店店主の置いて行ってくれた消化器を持った他の隊員に尋ねた。




「噴水の消火栓はありませぬか?その水を引けないでしょうか?私達も行きたいでございまする!」


「探しに行きましょう!」


「…はい!」


 


家久沙、川田、防人隊員は噴水へ走った。

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