『赤鬼は泣かなかった』
あるところに赤鬼がいました。地図にも載らない小さな小さな閉塞した村。そこが赤鬼にとって世界の全てでした。
赤鬼には他の人に見えないものが見え、聞こえないものが聞こえたので、村人達から怖がられていました。赤鬼に畏怖の念を抱いたのは、赤鬼の両親も同じでした。後で知った話、赤鬼の先祖は陰陽師の血筋だったそうです。赤鬼に宿った不思議な力は隔世遺伝によるものでした。しかし、閉ざされた村に暮らす大人達に事情を知る術はありません。赤鬼は小さな神社の社殿で幽閉されるようにひっそりと暮らしました。物心ついた頃から両親の住む家に入れてもらったことはありません。赤鬼はいつもひとりぼっちでした。
「アカイー、遊ぼー!」
「また来たの? お前、もう俺に構うのやめろよ。俺が村で嫌われてるの知ってるだろ」
いつも、というのは語弊があります。たった一人、青鬼だけが嫌われ者の赤鬼と遊んでくれました。青鬼は天真爛漫な性格で、赤鬼の悪い噂も気にしない大らかさを持っていました。村に住む同じ年頃の子供は二人だけだったので、青鬼は誰でもいいから遊び相手が欲しかったのでしょう。二人は神社の裏手でよく遊びました。
「そんなこと言って、誰にも構ってもらえないと寂しいくせに〜」
図星を指され、赤鬼はぐっと黙りました。青鬼は赤鬼にとって大切な友達ですが、言葉にして認めてはいけないと理解していました。青鬼まで村人から嫌われてしまっては申し訳ないからです。
「でもさー、やっぱりおかしいよ。何でアカイがハブられなきゃいけないの? 何も悪いことしてないじゃん」
「悪いことしてもしなくても関係ない。アイツらにとっては周りと違うだけで悪なんだよ」
「何それ、意味わかんない」
「わからなくていいよ」
赤鬼はそっぽを向きました。村に蔓延る悪意は純真無垢な青鬼とは無縁であるべきだと考えたからです。青鬼は納得しかねる様子でした。
「だってさー、皆で仲良くした方が絶対楽しいよ。狭い世界でいがみ合ってたって意味ないじゃん。何もない村だからこそ私達の間には絆があるべきじゃないの?」
「……そうだね」
赤鬼は同意しました。けれど、青鬼のように考えられる村人がどれだけいるでしょうか。
「話せば解ると思うんだ。アカイが良い奴だって知らないの勿体ないよ」
「おい、アオノ!」
静止を振り切り、青鬼は行ってしまいました。赤鬼は止められませんでした。青鬼という友達がいても、孤独には勝てないからです。
それっきり、青鬼と会うことはありませんでした。
青鬼は死んでしまったのです。両親がそんな会話をしていたのを偶然耳にしました。どうして、と詰め寄ると両親はそれは言えないと投げやりに答えました。あんなに大事な友達だったのに、赤鬼は葬儀にも出席させてもらえませんでした。
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