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そういえば、俺にネット上のアルバイトの話を持ちかけたのはアイツだった。まさか、話に乗れば強盗犯の片棒を担ぐとわかった上で俺に勧めてきたのか? 何のために? 決まっている。俺を蹴落として、恋人と役職を手に入れるためではないか――
腹の底から沸々と怒りが込み上げてきた。憎い。俺を蹴落とした同僚も、俺を見捨てた恋人も、強盗なんか実行した連中も。今すぐこんな檻を抜け出して、奴らに目に物見せてやる!
とはいえ、現状の俺はブタ箱の中だ。つまり、彼らに報復するためには、刑務所を出ないといけない。しかし、初犯とはいえ刑期明けまではまだ長い。となると、ここから抜け出すしかない。しかし、どうやって?
これが映画であれば奇想天外な策でプリズンブレイクを果たすだろうが、生憎ここは現実だ。外に通じる穴を掘る道具もなければ、刑務官を抱き込むスキルもない。万事休すか、と脱獄自体を諦めかけていた。
そんな折、刑務所内でぼや騒ぎが起きた。天は俺に味方した。またとない好機と睨み、避難するフリをしつつ、混乱に乗じて刑務所の敷地から外に出た。久々に吸うシャバの空気はうまかった。太陽の光を浴び、生まれ変わった気分だ。今なら何でもできる、そんな自信に満ち溢れていた。
さて、ここからどうしようか。俺の家は収監時に引き払ってしまっているから家に帰る選択肢はない。今頃刑務所では俺が抜け出したことに気づいて職員が慌てているかもしれない。追手が来る前に目的を果たすべきだろう。
そう考えたのだが、少し刑務所に入っていただけなのに街の様子は変わっていた。久々に地上に戻ってきた浦島太郎の気分だ。同僚の家はどの方面だったか。以前訪ねた際はほろ酔い気分だったため、その時通った家路の景色は薄ぼんやりしている。
囚人服のままでうろつくのは流石に不審がられるし、所持金もびた一文もない。途中の民家で洋服と金を拝借したのはいいのだが、気づけば道に迷っていた。
そんな中、たまたま目についた店にふらりと立ち寄った。道を聞こうとしたのだ。そこは古書店らしく、復讐譚だという『モンテ・クリスト伯』と出会った。運命の導きだと感じた。これは天が俺に復讐しろと言っているに違いない。背中を押された気になった。道を尋ねるという当初の目的を忘れ、本を購入していた。
店を出ると、どこか見覚えのある景色が広がっていた。この道は覚えている。同僚の家はすぐだ。大丈夫、うまくいく。俺は本を大事に抱えたまま、ゆっくりと歩を進めた――
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