◇ ◇ ◇


 機は熟した。今こそ俺を陥れたアイツらに復讐する時だ――!

 俺は田舎の漁師の家に生まれた平凡な男だ。順当に家を継ぐ訳でもなく都会に出て、中小企業に就職した。恋人もできて、結婚秒読みまで交際が進んだ。そこまでは順風満帆な人生だった。

 しかし平凡だからこそ躓くことがある。金だ。結婚にはとにかく金がかかる。結婚式の諸経費に新居の準備、そもそも結婚指輪すら買えちゃいない。平凡なサラリーマンの稼ぎには限度があるのだと思い知らされた。

 そんな折、同僚からネットで割がいいアルバイトを紹介された。金がほしかった俺は、ちょっとした小遣い稼ぎ感覚で気軽に応募した。今思うと、飛びついた好餌は罠だったのだ。

 当日指定された場所に向かうと、複数の男が待っていた。皆が上下黒ずくめの服装にフルフェイスのヘルメットを被っている。顔が見えないのに男だと判断したのは、体格がしっかりしているからだ。

「あの、これから何をすれば……」

「あー、いいよアンタは何もしなくて。ただ俺達が戻るまで人が来ないか外で見てるだけでいいから。ちゃんと分け前もあるからさ」

 嫌な予感がした。彼らがこれから何をするのか、言われずとも予想がついた。

 予感は的中した。彼らが俺に見張りを押しつけて乗り込んだのは白昼の銀行。銀行強盗だ。金目に眩んで飛びついたアルバイトは、強盗犯の見張り役だったのだ。

 悲鳴と怒号が響く中、建物の外に取り残された俺は気が気ではなかった。もし通報を受けてすぐ警察が乗り込んでたら? 結婚どころではない。昇進の話も霧散するだろう。でも、俺は実行犯ではない。果たして罪に問われるものなのか? 彼らが戻ってくるまで不安に押し潰されそうだったが、今まで見たことのない大金を見た瞬間に危惧は吹き飛んだ。

「ほい、これアンタの分。わかっちゃいると思うが、このことは他言無用な」

 俺は赤べこの如く頷き、金が詰まったバッグを大事に抱えて帰路についた。これで恋人も喜んでくれる、と一抹の期待も胸に抱いて。

 強盗事件を起こしてから数日後。警察が家を訪ねてきた。出迎えた刑事は令状を持っていた。俺は愕然とした。何故バレたのか。簡単だ、強盗団の一味で俺だけ顔を隠していなかったから。現場から立ち去る姿を目撃されていたのだろう。俺は強盗に加担した罪を問われ、逮捕された。

 そこからの転落はあっという間だった。逮捕を受け結婚目前だった恋人からは別れを告げられ、会社はクビに。裁判が終わり刑も確定し、全てを失った俺は失意のまま刑期を迎えて収監された。自棄になり刑務所で無為に日々を過ごす中、恋人が同僚と結婚したという噂を耳にした。更に、その同僚は俺が就くはずだった役職に納まったとも。

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