第5話

 私と先輩は車で九重ここのえ葛子かつこの会社へと向かっている。昨日と同じように私がハンドルを握っているが、今日は涙で前がよく見えない。


 立浪先輩は言った。


「ごめん。傷つけるつもりは……」


 路肩に車を停めてから、私は精一杯の笑顔を作って、それを助手席の先輩に向けた。


「いいんです。私も本気ではなかったので」


 嘘だ。また、嘘をついた。


月下つきしたさん……」


「あ、ご飯粒が付いてますよ」


 私はポケットからハンカチを取り出すと、それでそっと先輩の口元をぬぐった。涙があふれてくる。仕方がない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る