第3話

 私と先輩は九重さん宅のリビングに通された。二人掛けのラブソファーに少し窮屈に座り、九重ここのえ葛子かつこさんと対座する。


 私は立浪先輩とは反対側の腰の横に置いた鞄の中からタブレット端末を取り出し、九重さんの資料データを確認した。資料の年齢よりも随分と若い印象だ。三十台だと偽ってもバレないだろう。服装もフェミニンだ。彼女が着ているのは、淡いベージュのワンピース。ハイネックですそ丈も長く肌の露出は少ないが、ニット生地なので、形の良い胸やくびれた腰の曲線をあらわにしている。


 私は気になって、チラリと隣の立浪先輩に目を遣った。先輩は彼女に視線を置くことを避けるように、室内を見回している。そんな先輩を見て少し笑んでから、この女は言った。


「経営しているブティックが利益をあげていますの。飛燕さんからの借入金も全額返済できていますわ」


 立浪先輩はふところから取り出した手帳を開いて尋ねる。


「一括でご返済されたそうですね。こちらで得ている情報では……」


「三か月ほど前になるわね。ちょうど飛燕が私に別れ話を切り出した頃よ。きっと、そのお話をきにいらしたのでしょう?」


「恐縮です。では、単刀直入に訊かせていただきたいのですが……」


「アリバイね。これをご覧になって。私のスケジュールをプリントアウトしたもの。赤でチェックが入れてあるものは、時間通りに済んだもの。時間がズレたものやキャンセルしたものは、青で実際の時間とその理由を近くに記載してあるから、これで一週間の私の行動は分かるでしょ。あとはそちらで裏取りしてちょうだい。嘘は書いてないわ」


「ご協力に感謝します」


「何か不明な点があったら、いつでも来ていただいて構わないわ。しばらくは、ここにこもって仕事をするつもりだから。夜でも構わないわよ。私は今フリーだから、いつでも対応させていただくわ」


 そう言って立浪先輩に視線を送ってから、艶のあるふくよかな唇を品よく横に広げて、髪をかき上げやがる。私にはついでの作り笑顔を向けただけ。この女……。


 私はこっそりと少しだけ、自分の腰を立浪先輩に押し当てた。


 立浪先輩は少し紅潮した顔で咳払いをして言う。


「では、我々はこれで。また後ほどご連絡いたします」


 私と先輩は順にソファーから腰を上げた。

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