第2話

 私と先輩は捜査会議で、この殺人事件の被害者・飛燕ひえん総一郎そういちろうが交際していた九重ここのえ葛子かつこという女に会い、飛燕の死亡推定時刻における彼女のアリバイを確認するよう指示された。


 移動の車は私が運転している。先輩と二人きりの車内。助手席側から先輩の視線を感じる。


月下つきしたさんは、どう思う?」


 好き。立浪たつなみ先輩のことが好き。世界中で誰よりも私が先輩のことを愛している!


「いや、君が女性だから参考までに意見を聞きたいのだけど、どうかな、金持ちの男にもてあそばれてフラれたってだけで、そいつを沼に沈めちゃう?」


「――フラれ方によると思います」


 しまった。なに言ってるの、私!


「そ、そうなんだ。女って怖いなあ」


「立浪先輩はどうなんですか? なんか、女の人には一途な感じに見えますけど、実はそうじゃないとか。飛燕さんみたいに」


「まあ、飛燕さんがどうだったかは知らないけど、僕は一途な方かな。そっちの方は器用じゃないから」


 そんなの、全然不器用でいい!


「よかったです」


「なにが?」


「先輩が一途な人で」


 と伝えてから、少し慌ててみせる。


「あ、違います。という話です。不真面目な人とは仕事がしにくいので」


「……」


 ここまでで十分。後は黙って運転していよう。立浪先輩は落ち着かない様子で黙っているけど、ここは我慢。沈黙でつき離して、私に意識だけを集中させる、それが定石。


 九重さんのマンションが近づいてきた。上着の前ぼたんは外しておかないと。駐車場にバックで入れる時にからだひねるから。ブレーキに踏み替える時はひざを高めに上げるのも忘れないようにしよう。


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