第2話 しりとり

 放課後、親友の牧場野實鳥との帰り道。朝来た通学路を自転車とともに、ペダルを軽快に回していく進んでいく。

 通学途中にある河川敷に差し掛かると少し前を進んでいた實鳥が自転車を止めた。

 私も彼女に倣い自転車を降りると、河川敷のグラウンドに続く階段に二人で腰かけた。

「暇だねー」

「暇だわー」

 学校帰りに親友とした最初の会話だった。

 目の前では近隣の小学生たちがベンチにランドセルを置いて、どんな遊びなのか判別できない追いかけっこをしていたり、年配の女性が小型犬の散歩をしている。

「しりとりでもする?」

 二人で暫く行き交う人たちを眺めていたあと、實鳥から突然の提案を受け、一瞬顔を見合わせた。

「いいよ」

 何故しりとりなのかは問い返さなかったが、古典的遊びに興じるのもたまには、

「りんご」

 考える間もなく言葉をぶつけてきた。實鳥のやる気を感じた私は、彼女に負けじと自身の闘争心に火をつけた。

「ごりら」

「らくだ」

「……」

「何、もう降参?」

 の憎まれ口に若干ボルテージは上がったが——何故だか の視線は遠くを見つめるようだった。

 だ! って何? だ! だぁぁぁぁぁぁ!——そして私の頭に妙案が浮かんだ。

「ダチョウ」

「うちわ」

 目の前を流れる川の流れは穏やかで、川面から顔を出す岩肌には白鳥が止まっていた。私の頭の上にも何かが止まったようだが、今は気にならない。

「私たち女子高生だよね」

「年齢的にはそうかな」

 私の心にあったわだかまりを口にすると、實鳥も同じ思いだったようだ。

「なんで女子高生が好き好んでしりとりしてるの、放課後に」

「よく考えたらそうね」

 阿吽の呼吸で続ける私たち。親友の實鳥との絆の強さを再確認できた。

「ねえ、女子高生らしい会話しない?」

「いいよ」

 少し離れたところに放し飼いにされた犬がボール遊びをしている。

「よく行くカフェに新しいメニュー出たの」

「飲み物?」

「飲み物、今からカフェに行く?」

「暗くならない? 今からだと」

「遠いから、また今度にしよっか」

 放課後にお茶をする、そんな女子高生らしい提案が霧散した。ふと気づくと實鳥の足元にボールを咥えた犬が彼女を見上げていた。

「かっこいい人とデートしたい」

「今好きな人いない?」

「いない、あんたわ?」

「わたしも」

 先ほどまで追いかけっこをしていた小学生の一人が「このお姉ちゃんたち何しているんだろう」という表情でこちらに視線を向けていた。うん、私も何をしているのか分からないよ。

「もう帰ろう」

「うん」

 二人で再度自転車に跨った際、ランニング中の中年男性が通り過ぎた。私の鼻にかぐわしい汗のにおいがそよいでくる。

 そんな私は女子高生だ。女子高生だよね。

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