ティトラ・テットと青い星 -17
編み物もたくさんしたいし、刺繍もしてみたいし、お花とか、お野菜とかも育ててみたいです。お勉強もしないといけないですけど。お絵描きはほとんどしたことないので、挑戦するのはいいことだと思います。たぶんわたしの知らないことがあるはずです。
もうそろそろ脱水症状になっちゃいそうなくらい、リーダイが泣いているので、どうしたらいいかわからなくなってきました。わたしもずっと泣いてて頭がくらくらしてます。炊事場だからだれも来ないと思いますが、こんなに泣いていたらみんな何事かびっくりしてしまうでしょう。
「リーダイ、リーダイ。ねえ、もう大丈夫ですよ。わたし平気なんですから」
「ん……」
「目がとけるよ、ふたりとも」
ぎゅうぎゅうとリーダイの腕の中から顔を出します。優しく笑っているチオラがいました。リーダイの頭を撫でてます。
「もうテトはロジンのテントにお戻り。お水飲んでから休むんだよ」
「はあい」
「リーダイ、」
「ん、うん、大丈夫。ごめんね、テト。おやすみ。また明日」
ぽんと椅子の上から降りて、炊事場から離れます。後ろを振り向かないで、走り出します。まっすぐロジンのテントまで。白地の布に、灰色がかった緑色のツタ模様が刺繍されている、かっこいいテント。ひとり用のちいさなテントなので、わたしの寝袋まで入らないので、借り物のちいさなテントが横に並べてあります。
テントの後ろには、ラッチュがもう寝ていました。ふたつ並びのテントのあいだにしゃがみこみます。まだロジンはいないみたいです。街が近いので、星はあんまり見えません。
つぎの街は、炭鉱の街だそうです。山の中の野営地にいるので、まだ街は見えません。次の街で、わたしの旅は終わるんだなあと、少し涙が出てきました。旅は、嫌いじゃありませんでした。わたしの周りの人は、ずっと旅を続けている人たちばかりなので、旅をしない生活というのは、よくわかりません。
一番長くとどまったのは、イーニーの街でしょう。あの街には、三か月より長くいました。ふつうの街だったら、だいたい三週間。なにかの災害が起きてしまって呼ばれたなら、だいたい一、二か月ほど逗留します。それ以外で長くどこかにずっといるということは、経験はないのです。
目を開いて、夜空を見上げます。
わたしにとっては、ただの光以上のなにものにもならない星々と月。
向こうからは、どうやって見えているのでしょう。
道端の石のようにちっぽけでしょう。
「……テト? どうしたの、そんなところで」
「いえ、ちょっとぼーっとしてて。おかえりなさい!」
にこっと笑ってみせます。わたしにできることは、これだけです。いつだって。いつまでも。
ねえさん。
レト。
あのね、たぶん、つぎ会えるとき、わたしは笑っています。
いつだって。いつまでも。
なにがあったって。
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