ティトラ・テットと青い星 -8
リーダイがテントから出てきて、わたしの顔を見て、すごくかなしそうな顔をしました。道具を椅子の横にある机の上に置いて、わたしの手を取ります。もうすっかり真っ赤になって、ちょっと動かすだけでびりびりします。
「……言えなかったね。ごめんね」
「ううん……」
「水ぶくれはないね。よかった。ちゃんと洗った?」
「手は……でも、足は、なにも」
「うん、わかった。しみるかな、痛かったらごめんね」
水差しの水で足をすすいでくれました。やっぱりちょっと痛くて、う、と声がもれました。リーダイが黙ってこちらを見上げたので、大丈夫ですと言います。火傷の上に包帯を巻いて、その上に氷が入っているゴムの袋を置いて、固定してくれます。ひんやりしていて、ちょっと楽になった気がしました。
「出発までは、このままにしてて。今日の馬車は、誰のところだったかな。ロジン? チオラ?」
「ロジンと一緒に行く予定です」
「じゃあ、馬車が出発したら、この薬をロジンに渡して、手当てしてもらってね。包帯も入っているから。後から水ぶくれになることもあるから、そしたらすぐに言って」
「はい」
「出発するまで、ここにおいで。ジオンさんに頼んでいるから」
ハルねえさんのお父さまなら、やさしいので大丈夫です。でも。
「でも、まだ仕事が残ってるのに……」
「わたしが代わりに行くから大丈夫。そもそもね、テトしか働いてなかっただろう。最近、子どもたちがサボってるって聞いてたけど、そろそろぴしっとさせないと」
なんて言おうか迷って、笑うことしかできませんでした。リーダイが頭を撫でてくれます。
「テトはいつ見ても、よく働いてえらいね。じゃあ、行ってくるから。ここで座っててね。あとでロジンに迎えに来させるから」
「はあい……」
リーダイがさっと歩き出します。このままテントの外にいるのもきまずいので、片足でぴょんぴょん飛んでテントの中に入ります。
「お邪魔しまぁす」
「はあい」
たぶん、ハルねえさんのお父さまが、奥から出てくることはないでしょう。椅子が隅に置いてあったので、借ります。
「すみません、椅子を借りまーす」
「どうぞー」
テントの中は、薬草の独特なにおいが充満してます。薬草を作るテントなので、毎日立てる必要はないのですが、ハルねえさんのお父様は毎日薬を作ってたい人で、もうここで寝泊まりもするようになったので、毎日立てているそうです。
ハルねえさんのお父様が、奥の方でがさごそしているのが見えます。もう出発の前なのに、間に合うのかなあと適当に考えます。まあ、どうにかなっているのでしょう。わたしが考えることではありません。
小さなポーチの中を見たら、薬入れと包帯、ガーゼにテープが入ってます。火傷くらいなら、自分でも手当てできるのですけど。診察を兼ねているのでしょうから、大人しく聞いておきます。自分の判断で薬を飲んだり塗ったり、お医者さんのお勉強をしてない人がそういうことをしてしまって、悪化したという話しはしょっちゅう聞きます。
どーん、と大きく太鼓が鳴ってます。出発の準備が始まる合図です。と、ハルねえさんのお父様がこちらを急に見てきました。
「……おや、ああ、そういえばリーダイが言ってたな」
「お邪魔してます……あの、どいた方がいいですか?」
「いいや。……ああ、いや。もう片付けなくてはいけないから。外に出られるかい。火傷だったか」
椅子ごとひょいと持ち上げられてきゃあと悲鳴をあげてしまいました。さすがに、怖い。そのまま歩き出したので、なにかにつかみたくて、椅子の座面をぎゅっとつかみます。そしたら重心が前に行ってしまって、落っこちそうになります。
「わっ……と、危ないよ。そのまま、後ろにもたれて。私の方に重心を寄せて」
「え、だって、」
「私がいるから、後ろにはひっくり返らないから。はい、ゆっくり後ろに」
そーっと、後ろにもたれます。背中にあたったからだが、なんだか思ったよりしっかりわたしを支えてくれたので、もう少し力を抜きます。
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