適度とはどのくらいですか?
天野 湊
適度とはどのくらいですか?
持て余した製菓用のココアパウダーを使って、ココアを作ることにした。
弱火にしたコンロにかけたミルクパンにココアパウダーを入れ、生クリームを少しずつ加えながら、スプーンで練っていく。
最初は完全に分離していたココアパウダーと生クリーム。ただ無心で練っていると、だんだん混ざり合っていく。最初は粉っぽかった何かが、チョコレートに似た物体に変わっていく。物体は練れば練るほどつやつやと艶を帯びていく。
これを一体いつまで練ればいいのか、私には分からない。昔、この作り方を教えてくれたヒトは「適度なところで」と言っていたけれど、その「適度」ってのが私には難しい。
とりあえずもうこれ位でいいかと頭では何となく分かっているのに、なぜか不安で手を止めることが出来なかった。
「やばっ」
微かに焦げたような香りが漂い始めたから、慌てて火を止めた。そこに残りの生クリームを投入して、中の物体を余熱で溶かすようにかき混ぜる。
「苦い」
手元のマグに注いで、少しだけ味見する。甘い香りに微かに混じる焦げ臭さ。味は香りほど甘くなくて、むしろどこかほろ苦い。
甘党の私には甘さが足らなくて、テーブルの上に置いてあった砂糖スティックを何本かマグに投入し、スプーンでくるくるかき混ぜた。
なのに、全然甘さが足りないし、むしろ更に苦くなったのはなぜだろう。
「ごめん……重かったんだ。だから、もうーー」
先程あのヒトに告げられた言葉が脳裏に蘇る。ココアの作り方も、恋愛の仕方も「適度なところ」が分からない。だから、失敗したんだろうか。
適度とはどのくらいですか? 天野 湊 @minato_amano
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