奪還

第16話

 「きゃあっ!」

「何が起きたんだ?!」

静留は混乱していた。何故、瑞樹は嘘を吐いたのか…。

「静留さん」

瑞樹に名を呼ばれ、声の聞こえた方を向くと瑞樹は静留の腕を掴んでいた。

「行きますよ!」

静留は瑞樹と共に走り出した。


 「此処迄来れば…大丈夫でしょう…はぁ……」

「な、んで瑞樹、ヒーローに、捕まったんじゃ?!」

瑞樹は溜息を吐いて説明を始めた。

「僕達は確かに捕まりましたよ」

「なら何で此処に…」

「静留さん、ちゃんと最後迄聞いて下さい」

瑞樹に強く言われ、静留は口を閉じる。

「ですが、僕は気付いたんです。…静留さんや竜斗さん、マオさん、ルカさんが居ない事に」

そして…わざと捕まりました、と瑞樹は説明を終わらせた。

「隊員達は、無事か…?」

「…familiarの子達が無傷なのかは、分かりません」

「なら、また虐待とか…!」

「えぇ、そうです。受けてる可能性が非常に高いです。ロイも、連れて行かれました」

「瑞樹、お前は…」

瑞樹は、静留の言いたい事が分かっていた。

「…大丈夫ですよ。今の所は、ですが」

瑞樹は微笑んだ。


 「ただいま、お母さん」

「お帰りなさい、大丈夫だった?怪我は無い?」

帰って来た瞬間、瑞樹は母親に捕まった。

「うん、怪我無いよ。無傷」

「良かった、なら勉強を始めましょう?」

「…はい、お母さん」

瑞樹は母親と共に二階にある部屋に向かった。

「お父さんは?」

「…瑞樹?あの人の話題を出さないで頂戴」

眉間に皺を寄せ、母親は言う。

「ごめんなさい」

すかさず瑞樹は謝る。

幼い頃から、母親には逆らえないのだ。

「さぁ、着いたわ。勉強をやりましょう。今日は遅れを取り戻す為テキスト110Pから220P、解きなさい」

「はい、お母さん」

母親が瑞樹に手渡したのは全部で300Pあるテキスト。中身はハーバード大学レベルである。

「良い?瑞樹、勉強すれば良い人と出会って良い人生を送れるの。お母さんみたいに瑞樹はなって欲しくないのよ」

何度も言い聞かされた言葉に、瑞樹はうんざりしていた。

「解いたらスイミングスクール、茶道、ピアノのお稽古に行ってね」

「はい…お母さん」

「其の後は大学受験の勉強よ。嗚呼勿論、この問題集全部解き終わるまでご飯禁止よ」

今は午前11時。頑張れば何とか今日中に終わる。

瑞樹はそう考え、勉強を始めた。

では此処で瑞樹の家庭環境を話そう。

瑞樹の父親はあまり家に帰って来ない。

瑞樹には業務が忙しい為と言っている。

だが、瑞樹は気付いていた。

父親が他の女と居る事を。

母親は其れに気付いていた。

だから、喧嘩をするようになった。

大声の罵声、物は飛び交う。時には母親の悲鳴が聞こえた。

そして…父親の別居が始まった。父親は他の女の家に住んでいるらしい。

やがて、瑞樹は心を閉ざすようになった。

別居が始まった頃に母親から習い事を強制させられ、勉強もやらなければならない。

其れもあってだが。

(助けて)

瑞樹の母親は教育虐待をやっている事に気付いていない。

瑞樹は、限界だった。

(静留さん、竜斗さん、マオさん、ルカさん、ロイ――!!)

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