誰が正義で、誰がルールで、誰が味方だったんだろうか

銃と魔法の世界。戦争が不本意な形で終わり、戦犯扱いされているヒューマンの主人公・ムルティスは、戦後まともな職にもつけず、裕福ではない両親と、病気の妹を抱えています。そんなときに警察としてかつての仲間たちを取り締まり、逮捕しているディランジー少佐から持ち掛けられた潜入捜査のミッション……。

実直で普通の青年だったムルティスが少しずつ悪に染まっていく様子。むしろその悪に染まることにかすかな喜びを感じていく変化。裏切っているはずの仲間との友情、かつて戦場で戦った相手との交流。もうある意味「やっぱり……やっぱりそうなっちゃうよね……」とうなだれるのですが、そこは設定を異世界にしたならではの展開とラストが! 特にエピローグ部分は、映画でエンディングの後に流れる映像特典なのですが、驚きの希望へとつながっていきます。

私は無口で感情をあまり表に出さないリザードマンのガナーハ軍曹のカッコ良さ。かつて戦場で相まみえたジャラハルとのやりとりに涙しました。

戦争は善も悪も判然としないまますべてを飲みこみ、その後生き残った人たちですら戦争に翻弄されていく。作中に出てくる「誰が正義で、誰がルールで、誰が味方だったんだろうか」は戦争そのものを言い表した名台詞。これは異世界の熱く悲しい友情物語です。