第40話 妹の余命

 ムルティスは、妹のミコットが入院する病院にやってきた。


 田舎町のある地方では、もっとも大きな病院だ。都市部の病院ほど優れた設備を持っているわけではないが、決して悪い設備でもない。


 そんな塩梅の病院に、妹は入院していた。


 妹と面会する前に、担当の医師に説明を受けた。


「正直、体力の低下がこんなに素早く進行するとは思っていませんでした」


 医師の表情は深刻であった。よっぽど状態が悪いらしい。


 ムルティスは、ごくりと息をのんでから、医師にたずねた。


「うちの妹は、どれぐらい持つんですか?」


 医師は、患者の家族を落ち着かせるように、低い声でゆっくりと説明した。


「はっきりとはわかりません。ですが、二か月とか、三か月とか……半年持てば運がいいほうでしょう」


 長くて半年、短くて二か月である。


 残り時間が、想像していたより短い。


 弱った心臓が壊れる前に、潜入捜査を終わらせるか、もしくは裏の仕事で二億ゴールド貯めるか。


 どちらにせよ、ドナーが見つからないと、お金がたまっても意味がない。


「……お金はなんとかしますから、ドナーを探しておいてください」


 ムルティスの裏の稼ぎであれば、二億ゴールドも射程内に入っていた。


 だが担当の医師にしてみれば、常識外れの数字だった。


「なんとかって、二億ゴールドですよ!?」


 表社会の人間であれば、驚いて当然の条件だろう。


 だがまさか悪いことをして稼ぎますなんていえるはずがないので、さっさと会話を切り上げることにした。


「とにかくドナーを探しておいてください」


 そう伝えてから、妹のミコットと面会した。


 以前会った時よりも、さらに痩せこけていた。


 会話ができるぐらいには回復したみたいだが、体力が回復しただけで、心臓が治ったわけではない。


「お兄ちゃん、なんだか苦しそうな顔をしてるね」


 ムルティスは、自分の表情を手で揉みほぐしながら、近くの椅子に座った。


「ミコットのほうが、苦しそうな顔をしてる」


「あたしは、ただ寝てるだけだから、べつにいいの」


 無理に笑顔を作ろうとするせいで、痛々しさが強くなってしまった。


 ムルティスは、妹の手を握った。


「ミコット、がんばって命を持たせるんだ。心臓移植の手術は、お兄ちゃんがなんとかするから」


 ミコットは、がりがりに痩せた手で、ムルティスの手を握り返した。


「うん、信じてるよ」


「約束だぞ」


 ムルティスはミコットとの面会を切り上げて、暗黒の契約書を探すために残り時間を費やすことにした。


 もしかしたら裏の稼ぎで二億ゴールド貯めるより、潜入捜査を成功させるほうが早いかもしれないからだ。

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