第23話 マフィアのボスの最期
マフィアのボスは、五名しか生き残りがいないことに絶望しながら、明かりの少ない裏路地を逃げていた。
「四百人の子分たちが、たった一晩で五人まで減る……悪酔いしすぎて幻覚でも見てるんじゃないのか」
マフィアのボスは、オークの中年男性である。たくましい肉体と凶暴な精神が自慢だが、それ以外に取り柄がなかった。
その割に臆病なところがあるから、裏のコネを使って徴兵を回避した。
そんな腰抜けに忠誠を誓うやつは少ない。
貴重な生き残りである五名の手下たちも、ボスに忠誠を誓っているというより、逆らったら殺されるから、仕方なく一緒に行動している感じだった。
そんな暴力だけで伸し上がったボスは、酒を飲みすぎて千鳥足なので、女将に肩を支えられながら逃げていた。
「親分さん、もうすこしで川に到着しますよ」
女将は、ボスに連れ添っていた。
ただしチェリト大尉の組織を裏切ったわけでない。
囮の接待だって、マフィアのボスがスケベだったせいでバレなかった。
マフィアが壊滅状態になってから、いくらでも逃げる暇はあったのだが、あえてボスに連れ添っていた。
実際、彼女の子供たちは、普通に酒場で店じまいの作業をしていた。
では、女将はなにをしているのか?
密告のケジメを回避するために、最後の仕事を果たすつもりだった。
「女将よ、お前は本当にいい女だ。こんなときまで一緒に逃げてくれるなんて」
ボスは、ただでさえ女将に惚れていたのに、マフィア壊滅の危機でも助けてもらったので、すっかり虜になっていた。
そんなに彼女のことが好きなら、チェリト大尉の組織を密告しないと子供を殺すなんて脅さなければいいのに、そんな心遣いができないぐらい乱暴者なのだ。
いや、むしろ女を脅すことさえも口説き文句の一つだと思い込んでいた。
もし脅しによって交際に発展しても、それは口説き落としたのではなく、脅迫に屈したというべきだろう。
そんな細かいことを判別できる判断力があったら、彼はチェリト大尉の組織に敗北することはなかった。
こうして地元マフィアの生き残りと、美しい女将は、都市部の河川敷に到着した。
川沿いの藪に、一隻のボートが隠されていた。
マフィアのボスが、もしものときに備えておいた、緊急脱出用の逃走手段だった。
「女将、一緒に逃げよう。お前のようないい女と一緒なら、何度だってやり直せるさ」
マフィアのボスは、五人の生き残りと一緒にボートに乗り込むと、女将を手招きした。
だが女将は、ウソ泣きをしながら、プレゼントを渡した。
「子供を置いてはいけません。親分さん、これをわたしだと思って、強く生きてください」
プレゼントは、直方体のつづら箱だった。
はるか東洋の国で生まれたとされる、竹で編まれた豪華な箱であった。
ずしりと中身が重いのは、よほど【高価】な品が入っているからだろう。
マフィアのボスは、女将からつづら箱を受け取ると、じーんと感動した。
「最後の最後まで世話になったな、女将」
「さようなら、親分さん」
それが合言葉だった。
ずっと近くで監視していたリゼ少尉が、遠隔スイッチをカチっと押す。
つづら箱が大爆発を起こした。
闇夜に閃光が瞬いて、夜空に爆炎が舞って、ボートが川底に沈んでいく。
女将の渡したプレゼントには、大量の爆薬が詰め込まれていたのだ。
マフィアのボスは、五人の生き残りと一緒に、ばらばらの肉片になって、川魚たちの餌になってしまった。
地元密着型のマフィアが、新興組織であるチェリト大尉の組織に滅ぼされた瞬間であった。
女将は、へなへなとその場に座り込んだ。
「や、やってしまった……よりによって、マフィアのボスを……」
エルフの娼婦に偽装したリゼ少尉は、女将の肩に手を添えて、軽快にウインクした。
「あんたやるじゃん。マフィアのボスを手玉に取って、爆弾プレゼントするなんてさ」
女将は、ふーっと肩の力を抜いてから、子供たちの写真を取り出した。
「あんな乱暴なやつに付きまとわれるなんて地獄ですからね。あなたたちに手を貸して正解だったんでしょう」
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