第20話 暗殺部隊と作戦準備
ムルティスは、せん滅作戦に参加するために、いつもの湾岸倉庫にやってきた。
組織の暗殺部隊が招集されていた。総勢三十六名。全員元軍人で、なにかしらの特技を持っている。
爆破工作が得意なやつもいたし、車両運転が得意なやつもいた。
もちろんガナーハ軍曹とリゼ少尉もいる。
これら個性豊かなメンバー全員が、戦時中からの顔見知りだった。
第六中隊は、三年かけていろいろな土地を転戦した経緯があるため、知り合いが多いのだ。
たとえば第三中隊出身の斥候兵が、ムルティスと嬉しそうに握手した。
「ムルティス、お前が暗殺部隊に加わってくれて嬉しいよ。ちょうどスナイパーが不足してたんだ」
「そういわれてみたら、スナイパー専業はいないんですね。射撃が得意な人はぼちぼちいますけど」
「まぁ技能で選抜したわけじゃなくて、犯罪組織をやっていけるかどうかで判断してるからな。どうしても必要技能が偏るんだよ」
「ってことは、ここにあるライフル、俺に優先権があるってことですか」
今回の作戦はライフルが支給される。ちゃんとした軍用品だ。精度が優れていて、耐久度も高い。
だがしかし犯罪に使うため、作戦終了後に廃棄処分だから、ちょっともったいなかった。
こんなに良いライフルなら、一本ぐらい手元に残しておきたい。
そんなムルティスの思考を読んだかのように、チェリト大尉はホワイトボードに注意事項を書いた。
「武器は事前に用意したが、作戦終了後すべて破棄。いいな、ちゃんと証拠にならないように隠滅するんだぞ。もったいないとかいって保存しておくなよ」
ムルティスは、苦笑いでごまかした。
ちなみに他の隊員たちも、苦笑いでごまかしていた。
みんな安物の密造銃に嫌気が差して、正規品に飢えていたのである。
チェリト大尉は、部下たちに呆れたらしく、大げさなため息をついてから、作戦の概要を説明していく。
「まずは標的の説明からだ。地元マフィアを狙う。構成員は四百名。街のあらゆるところに拠点を持ってる。なおマフィアはそんなに強くない。裏のコネを使って徴兵から逃げたせいで、戦闘スキルを持ってないからだ」
かつて電車でムルティスに絡んできたチンピラ二人組がいたが、あいつらもマフィアの末端メンバーであり、普通に弱かった。
徴兵から逃げたことで、裏社会の勢力争いで不利になったわけだ。
「では、なぜこれまでマフィアを放置してきたかというと、単純に敵の数が多いからだ。たとえマフィア単体がザコでも、三十人、四十人とまとまって抵抗されると、こちらに被害が出てしまうからな」
戦争に絶対はない。どんな雑兵の集まりでも、まとまって銃撃すれば、一発ぐらいは精鋭に当てられるものだ。
雑兵を三十人殺すのに、精鋭を一人失うのは、割に合わないと判断したわけだ。
「だからといって、なにも準備してなかったわけじゃない。時間をかけて襲撃準備を整えてたんだ。構成メンバーの顔写真、個人情報、行動パターンは、すでにリスト化してある。ちゃんと目を通しておけ」
裏仕事用のスマートフォンに、構成メンバーのデータが配布された。
地元マフィアの歴史も書いてあった。
剣と魔法の時代から存在していて、盗賊ギルドの一支部だったらしい。だが盗品売買と薬物売買に味を占めて、少しずつ勢力を拡大。いつしかマフィアに変貌した。
そんな地元マフィアたちは、暴力と恐怖で裏社会を支配してきた。
酒場の女将だけではなく、地元の商店街の人たちも、みかじめ料を徴収されるせいで困っていたそうだ。
しかも戦中・戦後と経済が失速してからも、みかじめ料の徴収を続けるせいで、ほとほと困り果てていたという。
きっと酒場の女将が、ムルティスたちに協力する気になったのは、みかじめ料という要素があまりにも大きかったんだろう。
「総員、消音装備でステルスキルだ。警察だけじゃなくて民間人にも気づかれるなよ。リストを参考に、コツコツ暗殺を繰り返せば、敵が警戒態勢に入る前に、大幅に数を削れる。あと流れ弾に気をつけろ。民間人に被害を出すのは、おれの流儀じゃない」
消音装備は、コンバットナイフとサプレッサー付き拳銃だ。
しかも拳銃はサブソニック弾を使用するため、弾丸は音速を越えないから、音の壁を越える衝撃音が発生しない。
これだけ手順が確立しているということは、地元マフィアを皆殺しにする計画は、ずいぶん前から組み立てていたんだろう。
なぜ、いまのタイミングで実行するかといえば、女将が囮をやってくれるからだ。
多少強引なスタートだが、暗殺部隊のメンバーたちは、同じ軍隊で訓練と実戦を経験しているため、足並みをそろえるのは難しくなかった。
「以上で作戦概要の説明は終了だ。質問はあるか?」
ガナーハ軍曹が挙手して質問した。
「大尉、捕虜は取るんですか?」
「マフィア相手に捕虜なんて概念は必要ない。むしろ一人でも逃す方が後々面倒だ。きっちり全員殺せ」
誰も反対しなかった。
ムルティスだって賛成だった。
潜入捜査かどうか関係なく、マフィアを殺すことを躊躇するような聖人が、あの地獄の最前線で生き残れるはずがない。
こうして暗殺部隊は、消音装備を懐に潜ませて、街中に散っていった。
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