第2巻-第14幕- 警察が掴んだ真実

 その晩、一牙は柊茄に電話をかけていた。

 プルルルル……。

『一牙? どうしたのよ』

「ちょっと話がある。今いいか?」

『いいけど……何? もしかして西峰さん見つかった?』

「いや、まだ見つかってない。柊茄が来た後、曇妬も店を飛び出して探してたらしいんだけど見つけられなかったと」

『そう。やっぱそう簡単には見つからないよね』

「…………」

 半ば探すのを諦めたかのような落胆した声が一牙の耳に届く。

『あ、それで話って何?』

「明日の十六時、店に来れるか?」

『何よ急に』

「いいから」

『……まぁ明日も水無月駅はあの状態だと思うし、多分見つからないから、朝から店にずっといるかも』

「そう」

『何? もしかして私がいなくて寂しかった?』

「そういう訳じゃないが……まぁ少し麗歌が寂しがってたな」

『麗歌のためじゃあ行かない選択肢はないわね。私もまだ兜型ケーキ食べてないし。売り切れてないんでしょ?』

「当たり前だ。そう簡単に売り切らせるほど母さんは甘くないぞ」

『だよねぇ』

「それと、暮撫さんって明日いるか?」

『お母さん? GW中はお仕事お休みよ』

「ならちょうどいい。明日の十六時、店に来るよう伝えてくれ」

『何でよ? 舞柚さんからの伝言?』

「いや、もっと重要な話」

『ふーん。分かった。後で伝えとく』

「頼んだぞ。それじゃあな」

『うん。ばいばーい』

 ツー、ツー。

 一牙との通話が切れ、柊茄は携帯をベッドに置いて階下へ。台所でドラマを見ながら寛いでいた暮撫に一牙からの伝言を伝えた。


 ♢   ♢   ♢


 太陽も西に傾き、影が自身の背より長く伸びる頃。地球温暖化のせいなのか、はたまたGWの人々の熱気なのか、今日はやけに蒸し暑かった。如月喫茶も同様に、人々の出入りと熱気が激しい一日だった。

 如月喫茶は予定通り十六時で店を閉め、一牙と麗歌は閉店準備に当たっていた。プレートを『Close』にし、外に出ていた看板を店の中に取り込む。麗歌はテーブルに置いてある割り箸や爪楊枝、グラニュー糖の袋などを詰めていた。

「やぁ一牙君」

「岸越さん。こんにちは」

 看板を店に取り込んでいる最中に、警察官の制服ではなく、どこかの会社員を思わせるような引き締まったスーツ姿の岸越が現れた。

「まだ片付けかかりそうかい?」

「まぁ……あと十分くらいは……」

「分かった。柊茄ちゃんと柊茄ちゃんのお母さんは来てるね?」

「ええ……。一応いつもの一番テーブルに座ってます」

「ありがとう」

 岸越は小さく頭を下げると店の中に入っていった。

 席に座るまでの岸越の足取りはどこか重く、これから発言する内容を言いたくはないような印象を一牙は仄かに感じ取っていた。


 店内の片付けも終わり、一牙はカウンター席でコーヒーを淹れていた。自分用のコーヒーではない。岸越に出す用のコーヒーだ。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

 コトッとコーヒーカップを岸越の前に置き、岸越は角砂糖やグラニュー糖を入れず、ブラックのままでコーヒーを一口啜る。

 現在の一番テーブル、いや、如月喫茶全体が重たい空気に落ちていた。

 窓は全てカーテンで閉め切り、外から誰も中の様子を見られないよう施(ほどこ)されている。夕焼けの鮮やかな橙色がカーテンの隙間(すきま)から店内を照らしていた。

 一番テーブルのカウンター席側、いつも柊茄と麗歌が座っているところに柊茄と暮撫が緊張した気持ちで座っており、窓側に暮撫が座っている。一方、一牙と曇妬がいつも座っている対面側には岸越が峻厳な雰囲気でコーヒーを啜っていた。

 曇妬は隣の二番テーブルに避難しており、一牙と麗歌は柊茄の斜め後ろで立っている。カウンター席から隆善と舞柚が柊茄たちを心配して見守っていた。

 厳粛な空気の中、一番槍を切り出したのは岸越だ。

「急にお呼び出しをしてしまって申し訳ございません」

 ゆっくりと、岸越は頭を下げた。そこから申し訳なささがひしひしと伝わってくる。一牙は思わず生唾を飲み込んだ。

「い、いえ……そんな……。どうぞ頭を上げてください」

 突然の謝罪に動揺した暮撫が岸越に頭を上げるよう促す。岸越は促されるまま頭を下げる時と同じ速度で頭を上げた。

 スーツの裏ポケットから警察手帳を取り出し、中身を開ける。

「私、水無月高校前交番で勤務しています岸越辰治郎きしごえしんじろうという者でございます。以後、お見知りおきください」

 自分が本物の警察官である証明をすると、警察手帳をスーツの裏ポケットにしまった。

 何をしたのか不安そうな口調で暮撫が岸越に問いかける。

「い、一体何かあったんですか? それとも……この子たちが何かしたんですか?」

 岸越は首を横に振り、暮撫の質問を否定する。

「いえ、一牙君たちは何もしていませんよ。ご安心ください。ただ、今回は重要参考人としてこの場にいてもらっているだけです」

「重要……参考人?」

 暮撫は柊茄たちの処遇に安堵しつつ、話の意図があまり理解できていないように質問を重ねた。

「まさか犯罪に巻き込まれているなんてことは……」

「いえ、それも違いますよ。むしろ犯罪に巻き込まれているのは……森宮さん。あなたなんです」

「えっ?」

「単刀直入に言いますね——」

 岸越は気持ちを落ち着かせるようにコーヒーをもう一口飲むと、一刀両断するように切り開いた。


「——森宮さん。あなた、結婚詐欺に巻き込まれています」


「えっ?」

 自分が巻き込まれている衝撃の事実に、暮撫の思考は真っ白になった。脳が情報を即座に理解させると、暮撫は愕然とする。

「どど、どういうことですか!」

「一旦落ち着いてください。順を追って説明します」

 柊茄が暮撫を宥めるように背中をさすって落ち着かせた。

 その傍ら、一牙はやはりと昨日の予想と照らし合わせていた。

 岸越は「はぁ……」と息を吐くと、意を決した目で暮撫に真実を告げる。

「まずあなたとお付き合いされている西峰という人物ですが、その人物は先日逮捕された結婚詐欺二名と同グループであることが分かりました。そのグループは四人で活動しており、一人は実際に結婚詐欺を行い、もう一人は情報、計画性を練っている策士家です。おそらく西峰という人物も、もう一人の策士家がついていることでしょう」

「…………」

 淡々と述べられていく真実に暮撫は呆然と聞くことしかできない。

「西峰とその人物は言っているようですが、恐らく偽名です。結婚詐欺犯は偽名で偽りの自分を作り出し、詐欺を開始します。森宮さん、西峰は自分の名前を何と言っていましたか?」

「西峰……境助と」

「完全な偽名ですね。こちらが掴んでいる名前と一切合致しません」

「岸越さんが掴んでいる名前って何なんですか?」

 柊茄が真剣そうな表情で岸越に訊ねた。

東川長佐ひがしかわながさと聞いています。長いに軍の大佐の佐と書いて長佐です。あともう一人の策士家は駒前逸樹こままえいつきと言うそうです」

「全然違うわね……」

「そうですわね……」

「東と西って逆じゃね? そういう感じで作ったんか?」

 二番テーブルの椅子に持たれて、曇妬が少し笑いながら呟いた。

「二年前に水無月市で開催された婚活パーティーで西峰と出会ったと聞きました。どうやらその情報は東川……西峰が自分から言ったようですが、この情報に間違いはありませんか?」

「はい……間違い……ありません」

 震える声は今すぐにでもこの場から逃げ出したいという気持ちが伝わってくる。柊茄が暮撫の膝に乗る握り拳を、優しく自分の両手で包んで暮撫の気持ちを楽にさせる。

「森宮さん。これは取り調べではないので、答えたくない内容に関しては答え無くて結構ですので。気持ちの落ち着く範囲で答えてください」

「はい……」

「付き合っている最中、西峰の名刺を見たり、家に行ったりしたことはありますか?」

「いえ……」

「西峰と一緒に写真を撮ろうとしたことはありますか?」

「はい……。ですが、全て断られていました。あの人は写真や動画に映るのが苦手と」

 一牙たちの知っている内容とほぼ同じだ。あの煉瓦通りの喫茶店で、曇妬が西峰に向かってスマホを掲げていたが、西峰は写真を撮るなと拒んでいたし、デートの内容もお互い家に行ったことがないということが共通する。

「では、西峰にお金を貸したことはありますか?」

 暮撫の両手を握っている柊茄は今の質問を聞いて震えがかなりしていることを感じた。

 虚ろな目の中、暮撫が恐る恐ると口を開く。

「あ……あります……」

「最近渡したのはいつですか?」

「昨日……友人の投資のためにという理由で四十万ほど……」

「分かる範囲でいいですが、総額はどのくらいになりますか?」

「に、二百万くらいです……何万かは返してもらってますので実際は少ないかもしれません」

「苦しい質問に答えていただき、ありがとうございます」

 岸越は総額に驚くことなく、冷静に、冷徹に話を進行している。

 あまりの冷徹さに一牙は普段の岸越とは違うことを改めて認識し、身の毛がよだった。

「今の話を照らし合わせると、どうやら西峰は典型的ですね。策士家がついていることを考えると、少し上手なような気がしますが」

「岸越さん、どういうことだ?」

 カウンター席に身を預けている隆善が岸越に今の言葉の意味を尋ねた。

「その前に柊茄ちゃんに一つだけ」

「わ、私?」

 質問を振られることがないと思い込んでいたらしい柊茄が素っ頓狂な声で自分を指す。

「昨日、何で岸越さんを探していたんだい?」

「昨日、西峰さんの忘れ物に気付いて連絡したんだけど、電話が通じなくて、だから水無月駅に行けばいるんじゃないかなって思って探してたの」

「電話が通じなくなったってことは、もしかして携帯番号を変えられたとかじゃない?」

「えっ? 何で知ってるんですか?」

「やっぱりね」

 すすっと少し温くなったコーヒーを飲み、喉の渇きを潤す。

「さて、じゃあ隆善の質問に回答しよう。まず、何が典型的なのか。これは結婚詐欺を行う犯人が結婚詐欺を行うに当たって典型的な行動をしているから。基本的に結婚詐欺犯は自分の素性を隠し通そうとする。だから偽名や偽りの職業を言うし、写真なんか撮られたくない。ましてや家まで知られると警察が駆けつけて即刻逮捕に繋がる。そのため、自分の素性は何が何でも隠し通して警察から逃れようとするんだ」

 つまり写真や動画に映りたくないというのは、その典型的な動きをするために言い訳に過ぎないということだ。犯罪者はそもそも実名で動くことがまずない。相手を信用させるための嘘を使うのは常套手段だと言える。

「そして典型的な例がもう一つ。それが逃げ道。結婚詐欺犯はある程度の金額を詐欺することに成功すると逃げる。これはどんな詐欺でも同じだけど、結婚詐欺に関しては、結婚するという大きな繋がりから逃れる必要がある。方法はいくらでもあるけど、一番手っ取り早いのは自分への連絡手段を全て抹消すること。対話アプリ、電話番号、SNSのアカウントなど、自分へ繋がる情報は全て消す。きっと森宮さんや柊茄ちゃんが西峰の後を追う手段はもう全て抹消されて、残ってないと思った方がいい」

「そ、そんな……」

 突きつけられた新たな真実に暮撫は絶望していく。

 西峰が忘れ物をしたと言ったが、忘れ物一つだけで西峰の現在位置を追跡するのはほぼ不可能だろう。指紋採取やDNA鑑定で追跡できるのはあくまで西峰という人間の存在だけであって、現在位置やアカウントなどまでは追跡できない。ここまで来ると後は曇妬の写真やDNA鑑定などで出てくる人物写真を利用して、指名手配のポスターで国民の目で探し出してもらう他ない。

「もう一点。結婚詐欺犯はお金の要求方法を色んな手段で行ってきます。友人の投資、株で失敗したから分けてくれ、誰かの祝儀のためなどと都合のいい理由を言い訳としてお金を要求してきます。しかし、一方的に要求するわけではありません。お金を要求したらその十分の一、八分の一くらいの金額を返すことが多いです」

「何でだ? お金もらったんなら返さんくてもよくね?」

 曇妬の言うことは的を射ている。詐欺というものはお金目的がほとんどだ。わざわざ返す必要も無い。しかし、先ほど暮撫も言っていたが、西峰はお金を借りたら少しだけ暮撫に返しているそうだ。

 何故だろうと思っている矢先、岸越が答えを言う。

「曇妬君の言う通りだけど、ここが結婚詐欺犯の手口なんだ。もらったお金の少額を返すことで、ちゃんと返すから待っててくれというような関係を生み出す。つまり少額ずつ返すことで、この人はお金を貸してもちゃんと返してくれるという信頼感をターゲットとする人に認識させるんだ。そうして要求するお金の量を増やしていく。やがて勝負に出て煙に紛れたかのように消える。これが結婚心理を悪用した手口なんだ」

「うわひっでぇな!」

 曇妬は思わず大声で思ったことを口にした。

「つまり、西峰にとってこの詐欺は成功。言い方が酷くなりますが、森宮さんはもう用済みってことになります」

「そ、それって……お母さんからお金を奪って、逃げられたってこと……ですよね?」

「……そうなります」

「——っ! そ、そんな……」

 暮撫と同じように口が震えていた柊茄も岸越に向けて問いかけるが、現実的な答えに打ちのめされ、絶望を叩き込まれる。

 一牙は今のこの状況で何も出来ず、悔し涙を堪えている柊茄の頭を撫でることしかできなかった。

 もはや森宮家の問題ではなくなっている。

 これは今この場にいる全員の問題だ。

 とふと一牙の頭の中に先日、岸越がレジで言っていたことを思い出す。

「岸越さん」

「何だい、一牙君」

「岸越さんは曇妬の写真を見て、西峰さんが結婚詐欺犯のグループの一員だと分かったんですよね?」

「そうだよ」

「じゃあ、西峰さんが東川長佐だって証拠というかそんなものはあるんですか? 曇妬の写真のみで見極めるというのは横暴すぎる気がするんですけど」

「……鋭いところを突くよね。一牙君は」

 西峰が本物の結婚詐欺犯であるという前提の元、今の話は成り立っている。しかし、まだ西峰が本物の結婚詐欺犯であるという確たる証拠がない。

 ただ、西峰が結婚詐欺犯だと裏付ける証拠となるような言動は多々あったため、西峰が結婚詐欺犯であるという可能性は高い。それでもあくまで可能性という話だ。百パーセントではない。

「前、一牙君に言ったよね。信憑性の低い肖像画はあると。実はその肖像画って過去に西峰の結婚詐欺の被害にあった被害者の証言の元描いてあるんだ。で、その肖像画と曇妬君の写真と一緒に見ると、様々な共通点が見つかったんだよ。傷の位置とか大きな黒子の場所とかね。だから僕は西峰が逮捕された二人も所属していた結婚詐欺グループの結婚詐欺犯なんじゃないかって思ったんだよ」

「なるほどです」

「でも、整形によって傷の位置や黒子の場所等が変わっていたりするんじゃありませんか?」

 麗歌も岸越に手痛い質問を繰り出す。

「僕だって整形されたらお手上げかもしれないよ。それこそ顔分析システムやDNA鑑定とかしないと特定は難しい。だけど、西峰に関しては整形していなかったみたいなんだ。だから曇妬君の写真を一目見た時に、もしかしてって思ったんだよ」

「そうでしたか」

 これでも西峰が結婚詐欺犯である証拠とは言えない。九十パーセントの可能性が九十五パーセントにまで上昇したという具合だろうか。一番確実な証拠となるのは西峰の結婚詐欺の被害に遭った被害者に曇妬の写真を見せて確証を得ること、確かにお金を借りた借用書みたいなものがあれば証拠となる可能性がある。

 待てよ……と思い、一牙は暮撫に訊ねてみた。

「暮撫さん、西峰さんにお金を貸す時、借用書みたいなものとか書かせませんでしたか?」

「書かせてないよ。そのまま封筒で渡してたことの方が多かったから」

「……そうですか」

 一牙の案は失策だった。もしかしてと思ったが、やはりそう上手くはいかないらしい。

「ただ、西峰は大きなミスを犯している。一牙君、何か分かるかい?」

「……忘れ物……ですか?」

「そう。本来なら自分の所持品を忘れるようなミスはしない。そうすれば、連絡先が消えている事実は今よりも数日後に発覚することになる。だけど西峰は自分の所持品を忘れて、すぐに連絡先を消したことが発覚された。今こうやって西峰が結婚詐欺犯だと分かったのは、その忘れ物があったからに他ならない」

 岸越がゴホンと咳払いをする。

「森宮さん、後は我々警察に任せてください。必ずや西峰……東川長佐を逮捕してみせます」

「……お願いします」

 掠れた声で暮撫は岸越に後のことを頼んだ。

「それじゃあ、僕は失礼するね」

 岸越は席を立ち、店を貸してくれたことのお礼を言うと、そのまま店を出て行った。

 残された一牙たちには重たい沈黙が振りかぶる。

 みんな暮撫に対して何を言おうか、どうしようか言おうにも言い出しづらい状況のようだ。

 そんな中、柊茄が優しく暮撫に呼びかける。

「お母さん、一旦家に帰ろ? 後のことは岸越さんが頑張ってくれるから」

「そうね……」

 ゆっくりと席を立つと「お騒がせしました」と頭を下げて、柊茄と暮撫は店を出て行こうとする。

「暮撫! 後で夕飯持っていくから」

「ありがと、舞柚」

 カランカラン。

 二人が店から出て行く鐘の音が無情に綺麗に鳴り響く。

 一牙は今日という日まで自分は何て無力なんだと認識し、苛まれる。ただ、今回の状況はどうすることもできない。打開策を見つけようにも、それは一般人である一牙たちには難しい話だ。

「何か……してやりてぇよな」

「そうですわね。何も出来ず、時間が解決してくれるのを待つなんて納得できませんわ」

 曇妬も麗歌も一牙と同じ気持ちのようだ。

 三人の気持ちが揃ったところに、隆善が釘を刺すように注意する。

「お前たち、今はそっとしておけ。無理に何かしようとして向こうに気を使わせたくねぇだろ。今はただ、暮撫さんを一人にしておいてやりな」

「父さん……」

 本当は隆善も舞柚も暮撫のために何かしてあげたい気持ちがある。それでも一牙と同じように出来ることはほぼないと悟り、今はただ暮撫を一人にさせてあげる方を選んだ。

「さーて、片付け再会だ。しんみりとしていても明日の客はそんなの知らずに来るからな。お前たちも忘れろとまでは言わんが、切り替えくらいはしてくれよ」

「……分かった」

「……分かりましたわ」

「うっす!」

 隆善に諭され、一牙たちの消沈した気持ちが一旦どこかに消えていく。

 一牙は岸越が飲んだコーヒーを下げ、一番テーブルを綺麗に拭く。

 麗歌と一緒に締め切っていたカーテンを広げ、夕焼け空の橙を店の中に取り込んだ。

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