第52話 思わぬ再会
メタボックスを出た山本三十六は額の汗を拭いた。
やれやれ、わずか5年の間に日本はずいぶん進んだんだな、プ連はジリ貧になるわけだ。
水中港に戻るとそこには全長84メートルの潜水艦はくげいが浮上していた。
ハッチを開けて艦長が降りてくる。
「あなたがS機関のシャドウこと山本三十六2等海佐ですか?私ははくげい艦長後藤1等海佐です。長い間ご苦労様でした。」
と言って敬礼する。
年下とはいえ相手は上官である、山本三十六は最敬礼で返した。
「艦内で奥様がお待ちですよ、さあどうぞ。」
後藤艦長は山本三十六を艦内に招き入れる。
食堂に入るとソナー員の翔子がいた。
「あなた!」
翔子は小走りに駆け寄ると山本三十六に口づけする。
「翔子、帰ったよ。」
「お帰りなさい、長い間お疲れ様でした。」
「100人の美女に囲まれて、シャドウガーデンっ!とかやってたんでしょ、よかったわね。」
翔子が山本三十六の頬をつねる。
「してないしてない、シャドウガーデンは却下されたよー。俺は翔子一筋だ。」
それはそうと、もうすぐカロリーナ女王陛下と東村外務大臣がこのはくげいに乗艦されるわ、あなたは食堂で待機なさって。」
翔子は軍人の顔に戻った。
程なくして司令所で説明を受けたカロリーナ女王陛下一行が順にはくげいに乗り込んでくる。
山本三十六が食堂で待っていると水密扉が動き出した、山本三十六は立ち上がって出迎えようとする。
最初に入ってきたのは高校生くらいの少年だった。
山本三十六と目があった瞬間、一瞬驚愕の表情をし、すぐに鬼の形相になった。
「薫子!下がって!」
次に入ろうとした薫子を押し戻し、水密扉を閉める。
「どこから紛れ込んだ!このスパイめ!」
少年は目にも止まらぬ速さで山本三十六に突進し、足元を狙う。
もと海兵隊員の山本三十六はひらりと飛び上がって先制をかわし、少年の背後に回り込む。
後ろからはがいじめにしようとしたが、少年の裏拳が山本三十六の顔面を襲う。
咄嗟に姿勢を落として少年の足を払う。
少年は一旦転がるが、壁を蹴って山本三十六に反撃の一撃を入れようとする。
山本三十六はその腕を左腕でかわして一本背負いで投げ飛ばす。
床に仰向けに倒れた少年の顔面に一撃入れようとして、はっと気がつく。
「蒼?蒼か。」
「気安く呼ぶな!僕の父さんは死んでるんだ、顔だけ化けても騙せないぞ!それにプ連の軍服じゃないか!」
「あ」
山本三十六はプ連諜報部としてUボートに乗り込んでいたため、プ連軍服のままだった。着替える服も時間もなかったのだ。
「こ、これは違うんだ。」
「何が違うんだ!」
「そこまでよ!蒼」
騒ぎを聞いて翔子が飛び込んできた。
「母さん。」
山本三十六が蒼を離す。
「ちょっとワシらの話を聞け!」
芳裕じいちゃんも来た。
説明しようとした山本三十六を芳裕じいちゃんが遮る。
「ワシが最初から話そう。」
女王陛下や東村外務大臣、薫子や陽葵さん他の一行も入ってくる。
「旧自衛隊の風機関で諜報活動をしとったワシは当時の幕僚長に呼ばれてプ連の終末兵器ポセイドンの動向の情報管理を行うためにプ連諜報部とコンタクトをとっていたんじゃ、10年前に、ぬしの父に極秘任務を引き継いだ、そして5年前の世界大戦で乗艦が沈没して死亡したと偽り、そのままプ連に潜入したのじゃ。」
「軍属でないお前には真実を知らせることができず、お前を悲しませることになってしまった、すまん、母さんとワシは軍人だったので秘密は共有してたんじゃ。」
「僕だけ除け者?ひどいよ。」
「ごめんな、蒼。」
山本三十六いや本名、平将門は息子を抱きしめた。
翔子も蒼を横から抱きしめる。
「父さん!父さんなんだ!生きててよかった!」
蒼は思わず涙を流していた。
次回 緊急事態発生
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