第46話 二重スパイ山本三十六(ディーツイットフレスト)
山本三十六は当然偽名である。
10年前、2等海佐だった山本三十六は市ヶ谷の自衛軍統合司令本部に呼ばれた。
統合司令官室に呼ばれた山本三十六は入室して驚いた。
そこには東村総理大臣をはじめ、司令長官、官房長官、外務大臣、国家公安委員会長官、内閣府情報部室長が一同に会していたからだ。
「かけてくれたまえ。」
勧められるままにテーブルに座る。
「実は君に頼みたい任務があるんだ。」
東村総理大臣が言った。
内閣府情報部長が続ける。
「君はプ連が配備を進めている核魚雷ポセイドンのことは知っているかね。」
「はい、おおよそのところは聞いています、あの終末兵器のことですね。」
「そうだ、現時点であれを未然に防ぐ手立てはアメリカも我が国も持っていない、もし東京湾沖で使われでもしたら放射能を含んだ高さ500メートルを超える大津波が関東平野を襲い、日本国の首都は壊滅する。」
「しかし、いくらプ連とはいえそこまで盲目に終末兵器を使うでしょうか?」
「使うかもしれないし、使わないかもしれない、しかし、物理的に迎撃できない以上ポセイドンの情報を管理する以外日本国を守る方法がないのだ。」
「君に引き合わせたい人物がいる。」
「入りたまえ。」
入室してきた人物を見て山本三十六は驚愕した。
「お父さん。」
入ってきたのは制服に身を包み、一等海佐のバッジをつけた父親だった。
「実は彼にはプ連がポセイドン開発を始めた頃からその頃復活したKGBの二重スパイとしてチームを組んでKGBに潜り込んでもらっている、コードネームは風、彼の率いる[風機関]がポセイドン運用の情報管理を行なっている、見返りに日本国の情報を一部プ連に流してな。」
「父がそんな任務についているとは全く知りませんでした、それでどうして私が呼ばれたのですか?」
「父君も70歳を超え、そろそろ新任に引き継いでもらおうと思っていた、君は海兵隊でも随一の戦闘力を誇り、冷静沈着で判断力も優れている、どうかね、君の父君の任務を引き継いではもらえないだろうか、世襲というわけではないが、隠密行動を必要とする任務であるし機密保持には肉親の方が良いかもしれぬ。」
「少しお時間をいただけませんか、父とも話してみます。」
「いい返事を期待しているよ。」
東村総理大臣が結ぶ。
父と共に退出した山本三十六は、父の普段の不審な行動の数々がやっと腑に落ちた。
「父さん、そういうことだったのか、亡くなった母さんは知ってたのか?」
「母さんにも死ぬ間際まで内緒にしとった、でも母さんは全部わかってたみたいだな、亡くなる少し前に話したら笑っておったわ。」
父さんと一晩話をし、二重スパイ、引き受けることにした。
妻と小さな男の子はいたので心配ではあったが。
任務は主に日本にあるプ連大使館で情報交換が行われ、信用させるために日本国自衛軍の機密情報もいくつか流した。
そして旅行と称してプ連のクレムリンにも入り込み賄賂なども使って情報収集を行う。
父からKGBに対して実の子への引き継ぎをしてもらったためある程度は信用してもらえたようだ。
彼の率いるチームは「S機関」と呼ばれることになる。
次回、大脱出。
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