第17話 酒は飲んでも飲まれるな
「よし! VRchatするぞ~!」
あの後缶ビール三本を飲み干した俺は、ベロベロになった状態でVRchatを起動した。いつもよりHMDが重い気がする。
HMDを初めて被ったときは画面酔いが凄すぎて15分が限界だったが、慣れると全然平気になってくる……が、お酒の入った状態でのVRchatは危険だ。2つの意味でフラフラする。
「おっ! 京ちゃんオンラインじゃん。」
早速伊織は凛にジョインした。
そのワールドは『ポピー横丁』という有名なワールドで、路地裏のような雰囲気で、様々な飲食店が商店街のように並んでいる。
まさに今の伊織にはぴったりな場所だ。
「こんばんは~!」
「こんばんは黒さん……なんか今日、テンション高いですね……。」
「黒くん、飲んでるねぇ?」
「はい! 今私はとても良い気持ちでございます……。」
真夜中には一瞬でバレた。実は伊織は過去に何度か酔っ払った状態でVRchatをしたことがある。
が、その時HMDを着け、VRchatを起動したまま寝落ちしたことがある。その時自分では分からなかったが寝言が面白かったようで、未だに偶にいじられる。
「酔ってるときの黒くんは面白いからね~。色々聞いてみな?」
「い、いいんですか?」
「多分明日には忘れてるから大丈夫だよ~。」
凛は『よ~し……。』と気合を入れてから、質問の内容を考える。
普段は質問なんて溢れるくらい湧いてくるのに、こういうときに限って思いつかない。
「京ちゃん京ちゃん。」
凛が迷いに迷っていると、真夜中は楽しそうに声をかけてきた。
まだ真夜中との付き合いは長くはないが、この時の真夜中はあまり良くないことを考えている時の話し方だ。
でも、良くないと分かっていても、気になってしまうのが人間。
「な、何ですか?」
「実は最近、オフ会の計画を立ててるんだ~。でも最近黒くん忙しそうだよね。」
「ま、まさか……。」
「ボク的には皆揃ってたほうが楽しいと思うんだよねぇ。」
「……確かに!」
まんまと真夜中の策略に乗せられた凛は、ベロベロに酔っ払っている伊織に、恥ずかしさ混じりで聞く。
「黒さん、オフ会、行きましょ?」
「……。」
「……黒さん?」
折角勇気を持って聞いたのに、伊織から返事が帰ってこない。
「ああ~これはねぇ……。」
「どうしたんでしょう黒さん。」
もしかしたら伊織に何かあったんじゃないかとソワソワしていると、真夜中の抑えた笑い声が聞こえてきた。
「黒くん、寝ちゃったね。」
「……え?」
「黒くんお酒弱いって分かってるのに、一回で沢山飲むからねぇ。」
「ど、どうするんですか?」
「ん~まあオフ会の許可は取れたってことでいいんじゃないかなぁ。どうせ忘れてるだろうし。」
その後、色んなフレンドがこのワールドに入ってきたが、みんな酔っ払って眠っている伊織を一目見ていったとかいないとか……。
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