第16話 充実した日常
「ぐわああぁぁぁ……疲れたぁぁぁ……。」
今日の仕事を終えて、俺は背中で背もたれをグーッと押し込んだ。
イスはパキパキパキと音を立てながら後ろに少し倒れる。
今日はアバター作りの殆どを終わらせた。後はLive2Dでディフォーマしたりとか諸々残っているが、ここまできたら後はどうにかなる。
伊織は清書し終えたキャラデザを見ながら、紅茶を飲む。
髪型は紫がかったショートヘアに猫耳。紺色のオーバーサイズパーカーにショートパンツ。そしてロングソックス。あとはヘッドホンを首からかけたデザイン。
「今更だけど、これでいいよな……?」
部長には報告は必要ないと言われたので一気に仕上げたが、会社を代表するVtuberがこれでいいのだろうか。
そして何よりいちばん大事なことを忘れていたが、このキャラクターのキャラクターボイスを担当するのは他ではない俺だ。
……今から書き直すか……?
「……いや、大丈夫。……うん、大丈夫。」
伊織は諦めた。最悪どうにもならなかったら、ボイスチェンジャーでも何でも使えばいい。現代文明に感謝感激雨あられ。
「六時か……。」
伊織は次に違うパソコンを開いて、紫苑の予定を確認する。
諸々の手続きは狛音が済ませてくれていたようで、企業からの連絡は伊織にも来るようにしてくれた。
あとは細かい部分は通話で打ち合わせすればいいので、仕事終わりや仕事の合間を縫っても出来る。
「これで月収23万はすごいよなぁ。」
正直、こんなにもらっていいのかという気持ちになる。
とりあえず、紫苑の今月の予定を確認し終えたので、何か食べようと席を立つと、部長から連絡が来た。
椎名:お疲れ様です。作業はどこまで進んでいますか?
伊織:お疲れ様です。あとはLive2Dでディフォーマして、FaceRigでのテストを何回か実行すれば完成です。
椎名:了解です。必要ないかとは思いますが、Vtuberデビューに向けての練習も頑張って下さい。
伊織:善処します。
「ん~。」
これに関しては問題な気がする。伊織は普段からVRchatで知らない人と話をしているので大丈夫だろう。
ということで、何を食べようか迷っていると、またスマホが鳴った。
狛音:伊織さん、今お時間大丈夫ですか?
伊織:大丈夫です。どうしました?
狛音:例の大型イベントの打ち合わせについてなのですが、打ち合わせ当日は私の家に寄ってもらえますか?
伊織:了解です。何時くらいに行けばいいでしょうか?
狛音:10時でお願いできますか?
伊織:大丈夫です。調整します。
狛音:よろしくお願いします。
軽い打ち合わせを終えて、今度こそ晩御飯を食べる。
冷蔵庫の中にあった玉ねぎや人参をみじん切りにしてパンケーキミックスと牛乳の中に入れ、塩で味付けをする。
適当に混ぜて、油の敷いたフライパンで焼く。
フランスのケークサレに似た料理。本来は小麦粉を使うのだが、まぁホットケーキミックスを使っても問題ない。
伊織はいい感じの大きさのお皿に盛り付けて、テーブルの上に置く。
「なんか、一気に忙しくなったな。」
ふと、そんなことが頭をよぎった。
昔はもっと凝った料理をしていたような気がする。今じゃ考えられないが、昔は仕事終わりにチーズフォンデュとか作ってたが、今はそんな時間はない。
「ふっ。」
自分でもおかしくなって、少し笑ってしまった。
昔よりは忙しいし時間もないが、昔よりも楽しい。
それはお金があるからとか、推しのマネージャーをしているからとかでは無い。……後者は少しあるかもだが、昔は感じたことがなかった充実感を感じることが多くなった。
人生を深く楽しんでいる実感が湧いてくる。
今日は何か飲みたい気分だったので、俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出して、ケークサレでパサパサに渇いた喉を一気に潤した。
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