第8話 VTuberデビュー?2

Vtuberデビュー?2

その後、伊織は事実上の在宅ワーカーになった。

 別に会社でできないことはない。が、他の社員に迷惑がかかるかもしれない。あとパソコン運ぶのダルい。

 という2つの理由から、伊織は在宅ワークを選んだ。部長からは、「定期連絡は欠かすなよ。」とだけ言われ、そのまま帰宅した。


「……なんか、罪悪感すごいな。」


 家に帰って、最初に浮かんだことがそれだった。

 伊織は割りと真面目で、今まで会社を欠勤したことはない。なので平日の昼前に家にいるというのは、なんだか悪いことをしているような気がしてならない。


「……とりあえず、帰宅連絡だけして、デザイン案描くか。」


 伊織は部屋着に着替えて、部長に帰宅連絡を入れた。

 恐らく今はみんな仕事をしているので、自分も早く何かしなければという気持ちが伊織を急かす。

 冷蔵庫から、常日頃常備しているカフェオレを持って、作業部屋に行く。

 

「さて、まずはデザインからだな……。」


 伊織はスケッチブックとシャープペンシルを取って、ある程度の構想を立てる。

 

「ん~。まずは性別から決めないとだよな。男の子にすべきか女の子にすべきか……。」


 今日の朝、部長にプレッシャーをかけられたばかりなので、こういうところも慎重になってしまう。


「うちの会社のイメージか……。」


 伊織の会社はそこそこ有名なゲーム会社で、男性社員と女性社員がちょうどいい均衡を保っているので、正直どちらでもいい。

 だからこそ、どっちにすべきか迷っている。

 

「ネットにいい案載ってないかな。」


 伊織は持っていたスケッチブックをデスクに置き、Twitterを開く。

 しばらく虚無で眺めていると、真夜中のツイートが目に入った。『やっぱ男の娘は最高だね!』と、新しく購入したであろうアバターの写真を載せていた。

 伊織はそのツイートをしばらく眺め、


「これだッ!!」


 と、勢いよく椅子から立ち上がった。

 立ち上がる勢いが良すぎて膝が痛いが、そんなことはどうでもいい。


「男の娘で行くぞ!」


 伊織の中で、一気にイメージが湧いてきた。これが男の妄想力である。

 黒色のショートヘアに猫耳付きの探偵帽を被せ、首からは黒と白のヘッドホン。服は大きめのパーカーにショートパンツ。そしてロングソックス。

 伊織は勢いに乗り、2時間ほどでラフ画を終わらせた。

 

 「ラフ画、よし!」


 某工事現場の猫のポーズを座りながらとって、一段落する。

 

 「次はパーツ分け……の前に色塗りか……。」


 2Dアバターを作る手順は人によって違うが、伊織の場合はラフ画、色塗り、パーツ分け、PCでラフ画、PCで本画、PCでパーツ分け、そして録画テスト。

 依頼の難易度にもよるが、大体一週間くらいかかる。微調整や色の変更などの作業があるため、物をCGにするよりも時間がかかる。


「色塗り……。」


 伊織は小さくため息をして時計を見る。今は12時を回っていた。

 

「なんか適当に飯でも食うか……。」


 伊織はスマホをとって、キッチンに向かう。その時、何となくでスマホをつけてみると、結構な量の通知が入っていた。

 一瞬、業務連絡を見過ごしたのかとも思ったが、通知は全てTwitterから来ていた。


「え、俺炎上した? なんか火種バラまいたっけ?」


 過去に自分が何かまずいことをツイートしたのではないのかと焦った。

 伊織は深く深呼吸をして、Twitterを開く。


「……え?」


 Twitterを開くと、そこに届いていたのは、依頼のDMだった。それも仕事用の。

 数は十数件。個人は勿論、企業のアカウントで連絡を取っている企業もあった。


「待て待て待て。何があった?」


 普段の依頼のペースは、月に一回あるかないか。

 前に依頼されたのも二ヶ月前だ。それがどうしてこんなにも増えたのか。

 伊織は原因を探るべく、とりあず依頼そっちのけでネットで探った。


「まじかよトレンド乗ってんじゃん。ほんまに何があった?」


 なんと、Vtuberがトレンド一位を飾っていた。

 もう少し調べてみると、昨日河津桜 凛が配信中に話した話題

 それで今、様々な企業や個人でVtuberをするのが流行ってるらしい。


「……これ、本当に企業にメリットあるのか?」


 人間という生き物は影響されやすいが、まさかここまでとは……。

 というか、部長の娘さんも絶対その配信見てたろ……いや、なんか企業でVtuberやってるって言ってたか。


「まあ経緯は分かったが……流石にこの量は捌ききれないぞ。」


 ただでさえ会社の業務でもアバター作ってるのに、依頼でも作るのはしんどい。

 仮に受けたとしても、納期までに何日かかるか分かったもんじゃない。

 それに、どうやら今は依頼が多すぎて、有名なイラストレーターや3DCGクリエイターはVtuberアバター作成の依頼は断っているらしい。


「まあ、ここまで数が多いと、俺も断るしかないだろうな……。」


 お金云々の話になれば、もちろん受けたほうがいいのだが、平等性を考えると全て断ったほうがいい。

 ということで、昔プログラマーの友達から貰った、”全自動依頼断り用テンプレート送信システム”を使って、全員の依頼を断っておいた。


 そして俺は、そのまま通販サイトを開いて、その友達に有名お菓子メーカーのお菓子を送っておいた。

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