第3話 九条 伊織
耳元で音を出しながら震えるスマホに、俺は起こされた。
時刻は7時。俺はゆっくりと体を起こして、洗面所に向かい、顔を洗った。
「今日も仕事か……。」
伊織は大きく溜息をついて声を上げる。
大変、憂鬱である。
伊織の職業はプログラマー。と言っても、企業務めなので決められた時間には出勤しなくてはいけない。
しかし、決められた給料と仕事があるのは幸せなことである。
「あ~頭いてぇ。ロキソニンどこやったっけ。」
昨日のお酒のせいで二日酔い。
自業自得なのだが、飲まなければやってられない日もある。
例えば、頑張って仕上げたスクリプトをプログラミングにわかの上司に「なんだこの汚いスクリプトは。もう少し分かりやすくまとめられないのか。」とかいちゃもんつけられた日は、お酒がないとやってられない。
「えーっと、携帯電話、財布、鍵、定期、手帳、名刺入れ、社員証……。」
伊織は、昔某教育番組で聞いた歌を思い出しながら朝の身支度を済ませる。あの歌、本当に便利。
必要なものをリュックに入れ終えた伊織は、ロボット掃除機の電源を押し、キッチンに向かう。
「なんかあったっけ……。」
ということで、今日の朝ごはんは、目玉焼きトーストと紅茶。
伊織は普段、コーヒーを飲まない。入社して一年目の時、女性社員の”歯が黄色い人はモテない”。という話を聞いてから、紅茶を飲むようにしている。
「いただきます。」
と、静かなリビングで一人静かに朝ごはんを食べる。聞こえてくるのは、ロボット掃除機の駆動音だけ。
ちなみに、伊織宅にはチューナーレステレビしかない。なのでテレビで見るのは映画やアニメくらい。朝見るには時間が少し足りない。
「ごちそうさまでした。」
食べ終えた食器を直ぐに食洗機にぶちこんで、スーツに着替え、家を出る。
家から会社まではバイク通勤をしている。
バイクで行くと大体20分くらいで会社につく。
「おはようございまーす。」
時刻は午前8時半前。伊織は気の抜けた挨拶で出社する。
その勢いのまま気の抜けたように自分のデスクにつく。
「伊織、昨日の配信見た?」
椅子に座って一息ついていると、隣のデスクであり同僚の
ちなみに南原もVtuberの沼に両足ともしっかりハマっており、よくこうして語り合っている。
「見たよ。」
「やっぱ凛ちゃんだよなぁ。」
「君とは仲良くなれそうにないな。」
まぁ俺は別に同担だろうがなかろうが、どっちでもいいが。
「そろそろ始業時間だ。パソコンの電源つけとけよ。」
「へいへい。」
と、朝は大体こんな感じ。
そのまま休憩を入れて、大体18時くらいまで働く。昨日みたいに、面倒臭いいちゃもんがある時は、残業が入ったりする。
だが、今日はそんないちゃもんは無く、無事に19時には家に帰れた。
「買い物してたらちょっと遅くなったな……。」
伊織は週に一度、帰り際にスーパーに寄り、一週間分の食材を買って帰る。
学生の頃は休日は外に出たがっていたが、大人になってからは家で大人しく映画を見るほうが良い事に気がついた。
伊織は買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、風呂の準備をする。
「今日は誰にジョインしょうかな~。」
風呂にお湯が貯まるまで、Twitterなどでみんなのログイン状況を確認する。
そのままTLを眺めていたら、ふと、初心者集会の案内が目に入った。
「……たまには初心者の人と交流してみるか。」
伊織は無意識にそう呟くと、スマホを持って風呂場に向かった。
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