58話 一筋の道

今日は、うちの三者面談の日だ。  

  

 福岡に住む両親は招待していない。  

  

その代わりに保護者役として、佐藤さんに父親役で三者面談に来てくれるようにお願いしたばい  

  

ちゃんと来てくれると?  

  

父親役の設定はこうだ。  

  

 父親が福岡から、仕事の都合で東京に来られない代わりに、東京在住の父の弟(叔父さん)から三者面談に出席して貰うことになったという計画だ。  

  

 その叔父さん役が佐藤さんだ。やけん、我ながら完璧な計画に惚れぼれするばい!  

  

  

放課後のこと、打ち合わせ通りに佐藤さんは、うちのクラスに来た。  

  

濃紺のスーツに身を包んだ佐藤さんは、いつもの『放課後シスターズ』のプロデューサースタイルだ。  

「佐藤さん、いつも通りでウケるちゃん」  

「やっぱり、スーツじゃないと締まらないからな。俺にとっての戦闘服だ」  

「そっかー、いいんじゃないと?」とさくらは微笑む。  

二人して、2_Bの教室に入る。  

  

  

「さくらの叔父の斉藤弘結(ひろむ)です。よろしくお願いします」  

  

「始めまして、さくらさんの担任の立花蓮です。ずいぶんとお若いお父様ですね」  

  

僕とそんなに変わらないくらいだと気さくに笑う先生。  

「どうか、僕のことは気軽に、レンレンとお呼びください」  

  

「いや、呼ばせないばい!」  

  

うちらのプロデューサーと担任教師が愛称で呼び合う姿なんて見たくないちゃん!  

  

先生は黒いパンツグレーのシャツ。その上から真っ白な白衣を羽織ったラフな格好だった。  

  

「先生、なんですか、その格好は」  

この先生は、いつもこんな格好で、教師らしくないと日頃から思っていた。  

  

「白衣姿だ。格好いいだろ?」  

  

「中二病か!?」  

  

「なんだよ、男は中二の心を持っているものなんだぜ」  

  

「先生、二十六歳ですよね?!その歳で中二の心を持ち続けているのはどうかと思うばい!」  

  

「さくら、ちょっとうるさいぞ」  

  

「むー」  

面白くないばい!  

  

「斉藤さん、歳も近い者同士、お互い、敬語なんてよしませんか?」  

先生がそんなことを言ってくる。  

  

え?いいと??仮にも保護者と教師なのに。  

  

「そうだな、今日はさくらの両親に変わって叔父である私が来たばい!」  

  

「?元気なお父様だ。それじゃあ、今日はよろしくお願いします」  

  

「こちらこそ、いつも姪がお世話になっています」  

  

「僕と歳が変わらないのに高校生の娘さんがいるとは」  

  

「実は、私が10才の頃に中学2年生の彼女と一夜の過ちでできてしまった子で」  

  

これが、若さ故の過ちですね!と上手いことを佐藤さんは言い、先生も受けていた。  

  

「奇遇ですね僕にも中学生の娘がいるんですよ中学1年でまだまだ子供ですけどね」  

ちょっと、待って!この二人、距離感近くないと?子供の三者面談で意気投合しないで欲しいばい!  

  

  

「ちょっと!おじさん、早く始めるばい!先生とイチャつかんと!?」  

  

「ごめん。ところで先生、学校でのさくらの様子はどうですか?ご迷惑はかけていないですか?」  

  

「おじさん!うちの素行なんてどうでもいいばい!」  

  

「そうはいかないぞ、さくら」  

  

あーもう、ウザイばい!  

  

「っ...先生、ちょっとハーフタイムいいと!?」」  

さくらは両手でTの字を作り話を中断する。  

  

「ん?どうかしたのか??」立花先生は不思議そうな顔をしたが、うちは、佐藤さんと教室の片隅に行き、耳打ちをする。  

  

「ちょっと、佐藤さん、役になりきりすぎばい!うちは早く進路の話がしたいの!」  

さくらは痺れを切らして語尾を強めて言う。  

「ごめん。つい楽しくなっちゃって」  

  

「お茶目か!?ほんと、頼むちゃん!」  

  

「先生、再開ばい!」さくらは佐藤と席に戻り再開を促す。  

  

「おう、作戦は立てたか?」立花先生は不思議そうな顔をしていたけど、佐藤さんが偽の叔父さんだなんて気が付かないだろう。  

  

  

  

「先生、さくらの進路については...」佐藤さんはようやくうちの進路の話題を出してくれた。  

  

  

「さくら、お前が言っていた進路ってマジか?」先生は戸惑いつつ訊ねてくる。  

  

「先生、本気と書いてマジだばい!」うちも威勢よく応える。  

  

  

「マジンガー?!」と少し古いギャグで呼びかけ  

  

「ゼーットだばい!」とうちも元気よく呼応し、サムズアップして応える。  

  

「先生、話が見えないのですが?」  

(俺はなにを見せられているのだろう...教師と生徒の漫才かな?)  

  

「すいません、お父さん、さくらさんが今、学校と並行してアイドル活動をしているのはご存知ですか?」  

  

「あ、アイドルー!?」  

  

佐藤はわざとらしく驚いてみせる。  

  

「卒業後は、アイドル一筋でいくと言うのでふざけているのかと」  

  

その瞬間、さくらが佐藤の脇腹を小突く。そして軽く咳払いをする。  

  

  

(そうかこのタイミングか)  

「先生、私は彼女が本気でやりたいと決めた道なら、例え、アイドルであっても応援していと思っています」  

  

「正気ですか?!過酷な道になりますよ」  

  

「その上で応援したいばい!」  

  

先生のその言葉に含まれている意味をさくらは勿論のこと、佐藤も理解している。  

  

その上でプロデューサーとして応援したいのだ。  

  

「本当にいいのですね?落ち着いてよく考えてください。娘さんの進路は学校側は応援はしますが保障はしませんよ」  

  

「はい、その上でです」  

  

「わかりました。さくらさんの進路はその方向で進めましょう」  

アイドル一筋その進路が意味するのはもう分かり切っていた。  

               *** 

「佐藤さん、どうでしたか?さくらちゃんの三者面談は?」 

 

夕食時、ダイニングテーブルで食卓を囲みながら未来たんが訊いてくる。 

 

「ああ、そうだな。若さっていいなって思ったな」 

 今夜のメインディッシュのクリームシチュ―を口に運びながら言う。

「なんですか、それー!おじさんみたいですね」 

「ああ、オッサンだよ。俺も学生の頃にがむしゃらに夢を追いかけていたら社畜なんかで働かなくても良かったのかなと思ってさ」 

「そうなのですか、でもお仕事を頑張っていたからわたしと出会えましたよね?」 

「そうだな。俺は、学生の頃は、夢を持ってキラキラしているヤツが嫌いでしょうがなかったんだ」 

 

「...今はどうですか?」 

「今は違う。『放課後シスターズ』と未来たんと出会って、輝きをもらってさ、今では彼女たちのプロデュースに携われて今が一番幸せだよ」 

 あと、今夜のシチューも美味しい!

「佐藤さんは、今が一番輝いていますものね」 

「いや、未来たんほどじゃないさ」 

「今、わたしと同棲して幸せですか?」 

「ああ、スゴク幸せを感じているぞ。嫁がカリスマアイドルなんだからな」 

「そんな、佐藤さんたら...」と頬を両手で覆い、朱色に染める未来たん。 

「佐藤さんの夢はなんですか?」 

「そうだなー。『放課後シスターズ』をドーム公演に導くことかな。未来たんは?」 

 

「わたしの夢は、佐藤さんと幸せな家庭を築くことです」 

「変わらないなー。もう叶っているんじゃないか?」 

「いえ、女としての幸せがまだ一つ残っているので」 

 

「そうか、じゃあ、今夜はがんばっちゃおーかな?」 

「一応、聞きますが何をですか?」 

「幸せな家庭を築く第一歩さ!」 

「それは、よろしく...お願いします」 

「ご馳走さま。今夜のシチュ―も美味しかった!」


「お粗末様です」


夕食の片付けが終わればテデザートだ。


今夜は2人して頑張った。 


               ***

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痴漢から助けた美少女が推しのアイドルだった。 ~彼女に溺愛されて俺だけこっそり同棲生活を始めました~ 高月夢叶 @takatuki

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