57話 三者面談

佐藤は、未来とさくらに『放課後シスターズ』の今後の目標としてアイドルフェス出場を目指すことを伝えると、未来たんは二人して「スゴイじゃないですか歩結くん!」と喜ぶ。 

 

 さくらも、「佐藤さん、ばりスゴイばい!」とテンションを上げていた。 

 

「ん?歩結くん?」とさくらが怪訝な顔をする。 

 

 「プライベートでは、佐藤さんのことは下の名前で読んでいるんですよ」と未来たんは手をこねくり回して顔を赤くする。 

 

 「なんばしょっと!?いつの間に二人はそんな仲に...」 

 

「そうだ、佐藤さん。今日はお裾分けが目的じゃなくてお願いがあってきたちゃん」 

 

重大発表で忘れるところだったたいと前置きして、さくらは続ける。 

 

「実は、そのお願いと言うのが_」さくらはモジモジしてなかなか切り出さない。 

「なんだ?そのお願いって」 

 

なんだろう?全く見当がつかない。まさか、告白か!? 

「実はですね_」 

 

「ごめん!俺には未来たんという者がいるからさくらの気持ちには応えられないんだ!」 

 

 

「何を言っていると?聞いてちゃん。実は、来週学校で、卒業後の進路を決める為の三者面談があるんけど、その日は両親が地元福岡から仕事の都合で来れないと」 

 

「え?三者面談?」 


「うん。それで、お願いばい」 


「なにが望みだ」

 

「佐藤さんには、三者面談でわたしの父親役を演じて欲しいんだばい!」 

 

「お、俺が父親役?!だが、断る!」 

 

「そこをなんとか!福岡弁ならうちが教えるからー!」 

 

「いや、そういう問題じゃないくてだな...他人が父親役とかダメだろ年齢的にバレるだろ!」 

「大丈夫ばい!佐藤さんが十歳のときに中学生の彼女相手にできた子供という設定にしておくから」 

 

「俺、ヤリチンのマセガキじゃないか!」 

 

「歩結くん、それを言うならヤリチンのエロガキですよ」と未来たんが横からツッコむ 

 

「なんてことを言うんだ!?未来たん、今は正確なツッコミなんて求めていない!」 

 

「歩結くんって実はえっちだったんですね...」 

 

「いや、これはさくらの空想上の設定だから!俺は変態じゃない!!」 

 

「あっ、それむっつりさんが言うセリフばい!」 

 

「歩結くん、わたしで良かったらいつでも夜のお相手しますからね...」 

 

恥じらいながら、頬を朱色に染めて言う未来たん。 

 

「話が脱線してしまったけど、佐藤さん、そういうことでよろしくちゃん!パパ」 

 

「だれがパパだ!」 

 

「もう、そんなこと言わないでー」 

 

「仕方ないな。でも、両親には話しておけよな」 

 

実はね、うちの母親はうちがアイドルになるのは反対なんだ。やけん、東京には家出同然で出てきたと」 

 

 

「そう、だったのか...」 

 

「やけん、三者面談にお母さんを呼びたくないたい。日程も伝えなかったと」 

 

さくらはそう締め括って、話を終わりにした。 

 

           *** 

翌週の三者面談当日の放課後。 

 

 真城は、2-Bの教室外の廊下で、控え者用に備えられた椅子に座り、父親である陽良あきらを待っていた。 

 

 父さんに三者面談への出席を頼んだのは、母である小夜さよに頼むのは、アイドルの夢を否定している彼女に進路を決める場には呼びたくなかったからだ。 

 父さんはアイドル活動することに、賛成も反対もしていない中立の立場だ。 

だからお願いしたのだ。 

 そうこうしているうちに、父さんが、教室の前に到着した。黒のパンツに白いシャツ。 

アウターにグレーのジャケットで決めてきていて、顔が若々しいから大学生のようだった。 

 

廊下を颯爽と歩いてくるとすれ違う女子学生に黄色い歓声を浴びながら、満更でもない顔をしていやがる。 

 

「真城、お待たせ。高校って案外、悪くないね。父さん高校の頃でもこんなにモテたことないから驚いたよ」 

「いい歳して女子高生相手に鼻の下を伸ばすなよ!」 

実は、父さんはこの学校の出身でもあった。高校の頃は陰キャで女子にはモテたことはないというが 

年の功ということか、今は、女子高生相手にモテモテだった。 

「後で、母さんにチクってやる!」 

「真城、それだけはやめておくれ!」酷く怯えている父さんを尻目に、「冗談だよ」と言っておく。半分本気だったが、あまりにも怯えるものだから可哀想になったのだ。 

私立明徳高等学校。都内有名校というわけではないが一応、進学校だ。 

「次、椎名くん入ってください」前の三者面談が終わったみたいで、クラスメイトの女子は俺に順番を告げてくる。 

「いくぞ、父さん」 

「あ、ああ。緊張するなー」 

「父さんが緊張してどうするんだよ!」 

「だ、だってー」と陽良はおっとりとした物言い言う。 

父さんは良く言えば穏やかでおっとりとした大人しい人だ。悪く言えば」男らしくない。 


外交的か内向的でどちらかと言えば後者で希少価値のある大人といえよう。 


「それでは、三者面談を始めます」父さんと横に並んで並べられた椅子に座り、向かいには担任教師の立花先生が気だるげに頬杖を突く。 


 「それは、真城くんの進路ですが、お父様は彼から何か聞いていますかー?」 


「はい、卒業後はアイドルとVTuberの兼業でいきたいと聞いています」 

 

「高卒でアイドルとVTuberでどっちも失敗したらどうするつもりだ?!」

 

立花先生の鋭い言葉に、真城は聞かれるだろうと思ってたので用意しておいた言葉を返す。 

「大丈夫です。俺、失敗しないので!」 

 

『放課後シスターズ』は今、勢いがあるから大丈夫、だと思う。 

 

「最強外科医かよ!なんだ、その根拠の無い自信は!?これが若さか...」 

 

「根拠はあります、うちのグループには未来ちゃんがいるので!」 

 

「未来って『放課後シスターズ』のあの叶羽未来か!?」 

 

「先生、知っているの?」 

 

「ああ、俺の推しだ。彼女の支えが無かったら今頃、教師を退職していただろうな」 

「どういう意味ですか?」 

 

「・・・子供のお前には言わないでおく」 

 

ああ、なんか察したぞ。この教師、下衆だな。 

 

「って、お前、アイドルって女性アイドルになるのか??男なのにか!?」 

 

男性アイドルじゃなかったのか!と戸惑う立花先生。 

 

「先生、まだ言っていなかったけどボク...」 

 

「え??ボク!?真城、キャラ違くないか?」 

 

「本当は、ボク...男の子なんだ。」 

 

「いや、見れば分かるぞ。どう見ても男の子だろ」 

 

「ちがうよ!「男の『娘』の方だよ」 

 

「趣味で女装コスもしているんだ」 

 

・・・マジか?ガチなやつ?」 

 

「因みに男の娘キャラでVTuberもしてる」 

 

「ドリーマーか?永遠のドリーマーなのか?!」 

 

「先生なにそれw」 

 

「『バンブレ』の『シャイニングデイ』の歌詞だ。知らないのか?」 

 

「うん、全然知らない!」 

 

「名曲だぞ、昔の曲も聞けよな」 

 

「お前の気持ちは分かった。だがな、悪いことは言わないから第三希望のアークメディア専門学校に進学しろ」 

「でも、そうするとアイドル活動に制限がかかってしまう」 


「アイドルなんて所詮、道楽だろ。ろくな金にもならない仕事だ」 

 

「お言葉を返すようですが、先生。お金になるからアイドルをするのではありません 

アイドルが好きだからするのです!」 

 

「ほう、言うじゃねえか。だそうですが、お父様からは何か言うことはありませんか?」 

 

「僕は彼の本気が知れて安心しましたよ真城、本気なんだね?」 

 

「う、うん...」 

立花先生はボクの本気を確かめる為に、あんなことを言ったんだよね。それなら、ボクもこれからの人生を掛けて本気で堪えないといけない。 

 

ボクは覚悟を決めるのだった。 


               ***

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