第44話 傍にいて欲しい人

未来たんと喫茶で遭遇する数分前のこと。


 春風に朝から朝カフェに誘われて『純喫茶モカ』で春風と朝カフェをすることになった。


未来たんには、友達と朝カフェしてくるとだけ言って出てきた。指定された喫茶に来てみれば


春風は先に到着していてカフェラテを飲みながら待っていた。




「ごめん待ったか?」と訊けば、春風は、遅い!待ちくたびれましたよー先輩ー」と生意気な口を訊いてくる。




「普通、男性が先に来て待っているものじゃないんですか?減点ですよ!」




「なに言いやがる、休日の朝に電話で叩き起こしておいて来てやっただけでもありがたいと思えよな!」




「先輩、ひど―い!遅刻しておいて、それが女の子に対する態度ですか?!」




「酷いのはどっちだよ!俺の貴重な休日の朝を返せ!」


社会人にとって休日がどれだけ貴重か分かっているのか?!と問いたくなる


「いや、むしろ、休日に可愛い後輩と朝カフェできるなんてラッキーじゃないですか?」




「どこがだ!休日も朝からお前の相手をしないといけないかと思うとアンラッキーだがな!」




「ほら先輩もコーヒーを頼んでくださいよー。来てくれたお礼にここはわたしが出してあげるので」




「バカ野郎、後輩に奢らせるわけにいくかよ。」




「いいですって、ここは、わたしが.......」




「いや、俺が......」


お互い、頑固で譲る気のないやり取りはエンドレスに突入する。


「佐藤さん、こんなところで女の子とデートですか?」






その声を聞いた瞬間、額に冷や汗がつたう。ここにいるはずのない人の声。


 いつもは心地いい筈の癒しボイスが今は、冷淡な冷え切った声音を纏う。


 「み、未来たん?なんでここに?」




「すいません、佐藤さんが朝から誰と朝カフェするのか気になって後を尾けさせていただきました」






「わたしという者がありながら他の 女の子とデートするなんて、もう佐藤さんのことなんて知りません!」




「ごめん。未来たん春風との関係は、仕事上の後輩なんだ。浮気とかじゃないから」




「うわ、その言い草って浮気をしている人の言い訳ですよね」




「まあ、二人とも落ち着いてください」と春風が仲裁に入る。




「誰のせいで、こんな空気になったと思っているんですか?!」




「え?わ・た・し?」確信犯の如く言う春風




「まあ、せっかく、喫茶に来たんですからコーヒーでも頼んでは?」




「泥棒猫とコーヒーなんて飲んでいられますか!帰りますよ、佐藤さん!」


「いや、俺まだコーヒーを飲んでいないんだけど......」




「空気!!」未来たんの怒声が朝の静かな喫茶内に響く。




「お客様、大きな声を出してどうかされましたか?」


「いえ、なんでもありません失礼しました」




ご注文は決まりましたか?気が立っている時こそ、温かいコーヒーを飲んで落ち着けませんか?」




「そうだよ、未来たん。せっかく、喫茶店に来たんだからコーヒーの一杯も飲まずに帰るなんて勿体無いよ」




「さ、佐藤さんがそこまで言うなら......」




「なににする?」とメニュー表を見せて優しく問いかける。


「そ、そではカフェラテをお願いします」


「じゃあ、俺も。すいません、桐間さん。カフェラテを二つお願いします」




「佐藤さんおモテになるのですね。女の子二人から迫られて、罪な人ですね。」




「桐間さん?!」




なんだろう、この嫉妬ているような感じ。というか今、二股していると思われている?!


 違うんだ。勘違いしないでくれ!


「ここのコーヒー本格的な味で美味しいですね」未来たんは運ばれてきたカフェラテを一口。カップをソーサーに置いて満足そうに言う。




「そうなんだ!俺のお気に入りの喫茶でさ。気に入った?」




「はい、とても。良い喫茶店だと思います。ただ、浮気場所に使うのはどうかと思いますが」




「そ、それは......」




「どうせ、わたしなんかみたいな地雷女より、気軽に誘える女の子の方がいいのですよね?」




「わたしが軽い女だって言いたいんですか?」




「ええ、そう言ったつもりでしたが間違っていましたか?」




「元アイドルだかなんだか知らないですけど、仕事を辞めて恋愛するとか、アイドルとしての 優先順位間違っているんじゃないですか?」




「先輩は気軽にデートも出来ない彼女より、気軽に休日に一緒に遊べる女の子の方がよくないですか?」


「そ、それは......」


確かに、春風は先輩である俺との距離感が近くてウザイ。


 だけど、最初こそは本気でウザかったけど、ここ最近は一緒に居て楽しいのも確かだ。


だけど、俺の心は......




「まあ、正直わたしは、まだ佐藤さんのことは諦めていないですけどね。隙あらば奪っちゃいますよ!」




「佐藤さん、そうなんですか?!わたしじゃダメなのですか?」




「俺は......」


なんで後輩からこんなにアプローチされているんだろう?俺は只の先輩の筈だろ?




「ほら、佐藤先輩、本音を言ってしまってください!わたしがいいって!」




「俺は!たとえ、一緒に遊びに行くことが出来なくても普段、傍にいて欲しいのは未来たんだから!」




「さ、佐藤さん......」




「はいはい、お惚気タイム御馳走様です。分かっていましたよ最初から。先輩が未来ちゃんのことを選ぶのくらい」




「春風、お前それで俺を焚きつけるようなことを言ったのか。」




「ばっか!違いますよ先輩。あっ、わたしこの後、用事があるのを思い出したのでこれで失礼します!」と春風は席を立ち、足早に出ていく。


「ちょ、待てよ!春風」と佐藤は春風の手首を掴む。




「痛い!急ぐので、離してください。先輩は未来ちゃんとよろしくやっていればいいんですよ!」と俺の手を振りほどき行ってしまった。




「あいつ、会計しないで行きやがった」




「あっ、そっちなのですね......」




この後、春風の分まで会計を済ませて喫茶を後にした。




喫茶店からの帰り道、会話が無く帰路についていた。




「さっきの佐藤さんが、わたしと一緒に居る方がいいと言ってくれたこと、嬉しかったですよ」




「あれは、咄嗟にだな。深い意味はない」


「それでも、こんなわたしを選んでくれてありがとうございます」

そう、日に照らされ、微笑む未来たんはとても可愛かった。


               ***

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