第38話 社畜と大切な推しの子
佐藤さんを『放シス』のライブ会場へ向かう姿を見送った後でわたしは取引先へと向かった。
その間、なんだか気持ちがモヤる。
先輩が、美来ちゃんのライブに向かうことは必然で分かり切っていたはずなのに
これで、先輩は美来ちゃんと上手くいくだろう。これで良かったはず。
なのにどうして わたしの心はモヤるのだろう?
心に靄がかかったかのようにわたしの心境は晴れなかった。
まさか、わたしは先輩のことを……
まさか!それは絶対にない!
そんなことあるはずないんだから!そう自分に言い聞かすのだった。
出張を終え、夕方、帰路につくも 食事をする気にもなれず、そのまま帰った。
夕食を抜くなんて初めてのことで、どうしてしまったのか自分でも分からなかった。
失恋?違う!そもそも恋なんてしていないはず。
だけどこの胸の痛みはなんだろう?
先輩と美来ちゃんが上手くいっていると思うと胸が張り裂けそうだ。
え ?まさか、わたし美来ちゃんに嫉妬しているの?なんで??
そして先輩にわたしは……
***
佐藤は、『放シス』のライブ終了後、イベントスタッフにアイドルメンバーの関係者だと言い、『放課後シスターズ』の楽屋に通して貰い美来たんとの再会を果たした。
「美来たん、ライブ良かったよ!最後の曲なんて最高だった!流石はカリスマアイドルだ!」
とこみ上げてくる感想を告げる。すると未来たんは顔を真っ赤にして照れる。
その姿がすごく可愛かった。
お披露目ライブは、最後の最後で美来たんが全部持っていってしまった。
ラストソングの感想を述べ、未来たんは照れたかと思うと、美来たんはじジト目で睨んでくる。なんで??
「最後の曲が良かったって、佐藤さん、そこしか聞いていないじゃないですか!」
「そ、れは申し訳ない」
「どうして最初から見に来てくれなかったのですか!せっかく、佐藤さんの為にVIP席を用意しておいたのに!」
美来たんは不満をぶつけてくる。
「ご、ごめん。美来たん。俺なんかが、ライブを見にきて恋人に間違われて、また迷惑をかけてしまうと思ったら、行かない方がいいと思ったんだ。」
「恋人に、間違われたってわたしは迷惑なんて思わないですし、恋人に思われても構いませんよ」
「え?!それってどういう意味??」
「そ、それは……でも、佐藤さんは来てくれました。それだけは褒めてあげてもいいですけど」
「そうか、それは良かった」
上から目線は気になるけど、これ以上怒らせたくないから黙っておいた。
「あの、どうして来てくれたのか聞いてもいいですか?」と目を伏せて、気まずそうにしている。それは俺が未来たんを避けていると思われているのだろうか?
「そ、それは……俺は美来たんの友達で同居人である前に、俺の大事な推しの子だから……」
「え?なんですか??俺の大事ななんですか?よく聞こえなかったです」
「いや、ばっちり聞こえていたよね?!」
「はは、バレましたか……」
「あまりからかわないでくれよ」
(何度も言えることじゃないし、恥ずかしいんだからな……)
「冗談はさておき、それって、わたしのことを特別に想っているってことですか?!」
「まあ、そんなところ、かな……」
今まで、恥ずかしくて言えなかった、アイドルにガチ恋するものじゃないと重々承知でいたけど、この気持ちは止められそうになかった。
「つまり、その……」
ここで言うんだ。言えなかったら男じゃない!
「俺はアイドルに復帰する未来たんの足枷にしかならないと思っていた。それでも、
俺の存在が邪魔でなければこれからも、未来たんの隣に居てもいいかな?!
言った。これで拒絶でもされたら消えてしまいたい。
「それってこれからもファンでいたいという意味ですか?それとも......」
二人の間に甘々なムードが流れる。
「お二人さん、お熱いのはいいけど、ここ楽屋なんですけど、そういうことは家でやってくれなかしら?」
「ご、ごめんんさい。真凛ねえ……ってそういうのじゃないですから!」
「ヒューヒューお熱いことー!」と唯花まで茶化してくる始末。
「すいません!部外者が、はしゃぎ過ぎてしまって……」
「佐藤さん、節度は守ってくださいね……」
「さくらちゃんまで!」
楽屋を出て、メンバーと別れて、俺は美来たんと家路に着くのだった。
その日の夜、夕食を終わらせ、美来たんと二人でリビングで二人っきりでいたたまれな雰囲気の中で落ち着かないでいた。
いつもなら、一緒に夕食を食べて俺の家でくつろぐさくらちゃんも、今夜ばかりは、気を利かせてか美来たんと二人きりの恋人水入らずにしてくれた。
そんな二人きりの時間を作ってくれたお陰で、美来たんと気まずい雰囲気を味わっていた。
楽屋であんなことがあった手前、気まずい。
「今日は、ライブに来てくれてありがとうございました」美来たんの方から沈黙に耐えかねたのか会話を切り出す。
「いや、俺の方こそ、美来たんの晴れ舞台を最初から見れないでごめん席を用意して貰ったのに……」
「それでも、佐藤さんは来てくれました。それだけでわたしは嬉しいです」
「そう言ってもらえると助かるよ」
もしかして、今デレてるのか?楽屋での辛辣さがなく素直に、なってる?
以前、卒コンの時は、ステージを見られなかったから、今回は最後だけでも見ることができてホントに良かった。
「わたし、どうでしたか?可笑しくなかったですか?」
「いや、それは……スゴク可愛かったよ」
「そ、そうですかー可愛かったんですかー良かった……」
プシューっ空気の抜けた風船のように顔を赤くしてへにゃる美来たん。余程、恥ずかしかったのだろう。そんなところが可愛い。口に出しては言わないけど。
「それじゃあ、今のアイドルじゃない素のわたしはどうですか?」
美来たんは四つん這いで近づいて来て無防備な体制で迫ってくる。
今の彼女の服装は、真夏の熱帯夜ということもあり、キャミソールにホットパンツという極めて薄着でラフな格好で、キャミから胸の谷間が覗いて、それが、タユンと揺れて見てはいけない双丘の谷間がチラリとを見えてしまい、気がしてドキリと鼓動が跳ねる。
俺は、必死に視線を谷間から反らして、「か、可愛いと思う」と言う。
「え?ホントですか?お世辞とかじゃなくてですか?!」美来たんは妙に嬉しそうで
続けてとんでもないことを言ってきた。
「でも、口だけならいくらでも言えますよね?行動で示してくれないと安心できないです……」
「そ、それって……」
そんな可愛いことを言われたら、男として何もしないわけにはいかない。
むしろ、ここまで言われたら何もしないのは、美来たんに対して失礼に当たるだろう。
だから俺は、優しく彼女を抱き寄せて、そっとその柔らかな唇を奪った。
「んっ、んん……」と、しばらく美来たんの口を塞いでいると美来たんは声にならない声を漏らす。
俺の胸板をパンパンと叩き、『もうやめて』の合図を示してくる。
そこで俺は、ハッとし理性を取り戻す。「ごめん。つい…イヤだったか?」
俺はあまりの柔らかさに快感を覚えに我を忘れて、柔らかな果実を貪ってしまった。
「そ、そんなことないです、ただ……いきなりだったのでビックリしただけです……」
「じゃあ、今度は気持ちを整えてからやろうか?」
「は、はい……そうして貰うと助かります。後、佐藤さんってこういう時は野獣になるんですね……少しドキドキしました」
「男は誰でも狼を隠し持っているからな……」
勿論、俺だって例外ではない。いつだって狼になってやる。
そうして、俺たちは、再び、蕩けるようなキスを重ね合った。
「あの、今度はわたしからも言わせてください。」
顔を赤らめながら未来たんは、呼吸を整え、「わたしの方こそ、佐藤さんの隣にいてもいいですか?」
「いいよ、ごめん突き放して」
「いいですよ、普通に考えて、アイドルと付き合うのはリスクが大きすぎます。それでも、わたしを選んでうれたのは嬉しいです!」
「もう、自分に噓はつかない。俺に生きる糧と光を与えてくれた未来たんが大切で、俺の全てで好きだ!」そう言い、今度は未来たんに優しくキスをした。
***
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