第34話 友希と涙のリグレット

どう?決心はついた?夏休み中期間だし、アイドルオーディション受けてみない?」 

 

家族と朝食を食べ、自室でスマホを弄っていると舞雪ちゃんからMINE電話がきた。 

  

 昨日の感動が冷めやらないわたしは、わたしみたいなど素人がオーディションなんかを受けていいのだろうか? 

 

 舞雪ちゃんなら可愛いし歌も上手いからいいとして、わたしみたいな根暗で華もないパッとしない女がアイドルんなんて向かないだろう。 

  

 アイドルに成れるのは、明るくて、陽キャで皆んなの中心に居る人物が相応しい。 

  

間違っても、わたしみたいな根暗で陰キャな女の子ではない。 

  

『こんなわたしでもアイドルに成れると思う?』不安からくる思いで訊いてみた。 

  

  

「うーん……可能性はゼロじゃないと思うよ。友希ちゃん可愛いし一緒に頑張ろうよ!」 

  

  

「何?今の間は……」 

  

スゴク気になるんだけど…やっぱり陰キャはアイドルに向かないということなのかな? 

  

「いいからいいから…気にしないで!そうだ!『イブニング娘』なんてどうかな?八月に一三期オーディションがあるんだけど。」 

  

「イブニング娘?」 

  

「安達奈々は知っている?」 

 

「うん、知っているよ」 

 

 

「良かった。イブニング娘の初代メンバーでメインボーカルを長年務めるなんてスゴイよね」 

 

 安達奈々は、グループの顔として認知されていて長年だ務めたグループの絶対センター。 

 

 であまりの歌唱力の上手さからグループの顔として認知されていた伝説のアイドルだ。 

 

 グループの顔として、活動していたことから、なかなか卒業させて貰えずにソロデビューが叶わなかったアイドル。 

 

 二〇〇四年に念願叶って卒業してソロデビューを果たした伝説のアイドルだ。 

 

あだ名は、ななっち!」 

  

正直、アイドルに疎いわたしは知らない。手元にあるノートパソコンで少し検索してみた。 

  

  

「え?それって、えーと…一三年前に活動していたアイドルじゃない!?私たちまだ生まれていないんじゃ……」 

  

「あ、お母さんが世代でね。子供の頃によく聞かせてもらったんだ」 

  

  

「あーなるほどねー」 

「ご両親はアイドルになることは反対していないの?」 

  

「お母さんがアイドル好きだったからね。やりたいならやっていいってさ」 

 

「良かったね」 

 

 「その代わり遊びじゃなくて真剣にやりなさいって言われているよ。お父さんは堅実的で厳格な人でね反対されたけど、お母さんからの圧に屈して許してくれたんだ。」 

  

「そうなんだ、お母さんには弱いんだ。それは良かったね」 

  

「じゃあ、『イブニング娘』の応募でいい?」 

  

「え?わたし、やるなんて一言も言っていないんだけど。」 

  

「そう?昨日のライブを見て何も心が動かなかったエモい気持ちにならなかった?ライブを観た後で胸が高揚感で満たされなかった?」 

  

「そ、それは……」 

(なんでもお見通そなんだな…本当に参ったな……) 

  

「わたしね舞雪ちゃん…わたしでもアイドルになれるかな?」 

(正直、自信が無い。わたしじゃなくてもてもアイドルに向いている子はたくさんいる) 

「なれるよ、一緒にアイドルになろう!」 

  

「う、うん!やってみようかな!」 

 

「そうだよ、ダメで元々の夢。成れたらたら運が良かった程度に思って記念応募として受けてみたらいいよ!」 

 

「そんなに軽いノリでいいの?」 

 (正直、重い腰が上がらない状態なのだけど、夢を志すときってこんなにアッサリでいいのかな?) 

 

「これから会える?三十分後に動きやすい服装に支度して上野駅前集合ね!」 

  

「う、うん。わかった」 

  

こうしてわたしは、急いで支度を済ませ、待ち合わせ場所に時間ギリギリに着いた。 

  

  

「良かった!友希ちゃん来てくれた。さあ、早速、特訓だよ。電話で伝えた通り、動きやすい服装で来てくれたね」 

  

「え?今から何始めるの?」 

  

「トレーニング!ラントレ五キロいくよー!」 

  

「ひえー!?長距離を走るのは苦手なのにー!そんなに走れないよー!」 

  

「やる前から弱音は吐かない!アイドル特訓するときはネガ発言禁止―!さあ、三十秒で気持ちを切り替えて」と言い舞雪ちゃんは結局、三十秒も待たずに問答無用で走り出す。 

  

「ちょっと、待ってよー!!」わたしも遅れて走り出す。 

  

このスパルタ指導!と、心の中でヘイトを吐きながら走り始めるのだった。 

  

走り始めて五〇〇メートルのところで、地面‘にへたり込みもう動けない状態になった。 

「もう無理ー!」 

 

「もう、たったこれだけでへばるなんて根性無いなー!でも今日のところはこのくらいで勘弁してあげる。初日から飛ばして特訓が嫌になったら意味がないからね」 

  

「ありがとう、助かるよ」 

もうヘトヘトで体がいうことを聞いてくれない。 

 

「‘その代わり、明日は、もっと走るから覚悟しておいてね!」 

  

「お手柔らかにお願いね」 

  

「じゃあ、ラントレはこのくらいにして次のメニューをしようか」 

  

「えー!?まだ続くのー?!」 

  

「もー、ウォーミングアップでへばらないでよー」 

  

「そんなーー!?」 

わたしの悲痛な声が虚しく澄み切った青空に消えていくのだった。 

 

               *** 

  

「イブニング娘の十三期オーディションの応募が始まったね。わたしたちもそろそろ応募しないとだね」 

  

「そうだね、舞雪ちゃんはいいとして、わたしなんかが合格するのかな?」 

 

(所詮アイドルには明るくて可愛い子しか採用されないのだ。わたしなんて……) 

 

「そんな応募する前から悲観的にならないの!大丈夫、二人とも合格よ!」 

  

「そ、そうかな?」 

 (自信ないなーと思ったけど、舞雪ちゃんの手前、口に出せなかった) 

 

「どこからくるのそんな自信!わたし達普通のJCだよ!?」 

 

声に出すとまた、舞雪ちゃんに怒られるからと心の中で悲観的な気持ちになる。 

 

 それと同時にわたしとは違い、根拠の無い自信に満ち溢れた舞雪ちゃんが少し、羨ましく思った。 

  

結局、舞雪ちゃんにゴリ押しされて二人して『イブニング娘一三期オーディションに応募したのだった。 

  

  

そうして月日は流れ、夏休みも終わり木の葉は夕暮れ色に色ずき季節は秋の色合いを見せていた。 

 

 そうして、オーディションの合否の結果が届いた。 

 

 わたしは自宅に届いた結果を知らせる封筒を開く。その結果は…… 

  

  

『今回は、採用を見送ります。次の応募に期待しています』とだけ記されていた。 

  

「え?…落ちたの?」 

  

ついこないだまでどこにでもいるJCだったのだ。 

 

 それがいきなりアイドルなんて成れるはずがなかったんだ。わかってはいたことだ。 

 

 だけど…… 

  

なんでこんなに悔しいんだろう?こんなことなら、最初から自分なんてとやる前から諦めていないで舞雪ちゃんみたいに全力で、臨んでいれば良かった。 

 

 そんな後悔しても後の祭りで涙が止まらなかった。 

 

 わたしはその場に崩れて大泣きした。 

  

こうして、わたしのアイドルになる夢は、スタート地点に立つ前に終わりを告げた。 

  

 身分不相応な夢なんて見ないで堅実的に生きていけとそいうことなのだと無理矢理自分を納得させた。 

 

 その反面、今度、アイドルを目指す時は全力でやろうと心に誓った。 

 

 夢はでっかくカリスマアイドルだ!こうしてわたしは普通の中学生、ゆくゆくは高校生として 

華のJKライフを部活や恋をして謳歌していくのだ。 

 

 一度きりの青春は高校生活に捧げよう。 

そう思った。でも次にアイドルを目指すその時には…… 

 

心の中に確かな灯火が灯ったのだった。 


               ***

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