第33話 友希と心の灯火
中一の夏休み、わたしは、絶賛引きこもり中だった。
そんなふさぎ込んでいるうちに、親友の
乗り気ではなかったけど、「引きこもっていてもダメだから」と言われ、気晴らしにと言われ外へ出た。
現在、東京、某所のライブハウスへと出掛けていた。
本当は、アイドルライブなんて行きたくないのだけど、舞雪ちゃんがどうしてもと言うものだから、仕方なく付き合うことにした。
夏真っ盛りの茹だるような暑さだった。もう、帰りたいと思いわたしは不満でいっぱいだった。
「なんでアイドルなんかのライブに行かないといけないの?!」
「行けば来て良かったって思うから」舞雪ちゃんはそう言うも、わたしはそうは思わなかった
「ドルオタがひしめいて、臭いわ暑いわでもう、最悪だよ!家で涼みながらサブスクでアニメを見ていた方がずっと良かったのにー!!」
と心の中でヘイトを吐いていると、舞雪ちゃんがうちの様子に気付き
「臭い?暑い?これからもっと臭くて熱くなるから覚悟しておいてね」と心配して声を掛けてくる。
「えー!これ以上は流石に無理―!!」
わたしは、先が思いやられた。
今が、最絶頂だと思っていたのにまだ、上があるなんて、もう限界だった。
「ライブが始まったら絶対にハマるから!」
「えー?ほんとかなー?!アイドルなんて皆、一緒でしょ?」
アイドルなんて、どこも同じ。男性ファンに媚びを売って、シングルCDや、チェキ券を買って貰い、貢いでもらう。
舞雪ちゃんの話では、『放課後シスターズ』は二人組ユニットだから給料は二人で山分け出来るけど、大人数グループ友なると、人数分に給料も分配されてまともな稼ぎを貰えないのが現実だ。ソロで仕事を取ってこないとまともに稼げない。 そんな薄給の世界なのだ。
それならアイドル以外で稼いだ方が効率がいいと思った。レッスンはキツイし、ライブは疲れることだろう。
数あるアイドルグループから売れて有名になれるのは、一握りのアイドルだけ。
あとのアイドルは地下アイドルのまま日の目を見られずにアイドルを引退していく。
Vチューバ―アイドルとしてネットで活動した方がいいのでは?
今の時代に、受けそうに思えたが、どうやら、そうではないらしい。
「そんなことないよ、『放シス』は他とは違うんだから!」
「舞雪ちゃんはアイドルになりたいの?」
「うん!そりゃあ、なりたいよ!だって、すごくカッコイイじゃん!」
「そ、そうなんだ。ふーん……」
マジかこの子。アイドルに成りたいと言う奴はバカだ。
なんでそこまでアイドルになりたいと思うのかが分からない。
売れなければ脚光を浴びられないままアイドル人生が終わるだろう。
たとえ売れたとしても三十手前でアイドルとしての寿命が尽きて定年になる。
その前に、アイドルになれてもその先の夢を叶えられずにアイドルでいるのを諦めてしまうことだってあるだろう。
その時、自分に何が残ると言うのだろう。
アイドルを辞めるまで恋が出来なくて卒業した頃には新しい恋を始められない年齢になる。
アイドルとしてのステータスは積み上げてきても女としてのステータスが欠落してしまって大事なものを失ってしまう。
そんな悲しい結末にだってなり得る。
それなら、高校生活を部活や恋に青春を謳歌して一度しかない学生生活を楽しんだ方が有意義な学時間をを過ごせると思う。
「あっ!真凛ねえ達が出てきた!もうすぐライブが始まるよ。」
ステージに登場した二人組のアイドルに、客席からは、男性ファンの全力の野太い声援を送る
ドルオタの大きいお兄さんたちが声援を浴びせる。
まあ、2人ともアイドルだけあって顔は可愛いけど、歌唱は果たしていかなるものか。
『皆ー、今日は来てくれてありがとうー!!絶対に最高に楽しいライブにするからねー』
『ここで自己紹介をしておきます。広い海のような大きな愛であなたを包みます!
海原真凛。高校一年生の一六歳。『放シス』はお姉ちゃんに任せなさい!』
ライトブラウンのロングヘアーゴスロリ風のステージ衣装に身を包んだにリーダーと思われるアイドルが力強く自己紹介が入った。
もう一人の、黒髪のボブヘアーのアイドルも自己紹介に入る。
『海原唯花のだよー。海に咲く一輪の花!いつも元気。お兄ちゃんたちに唯花の元気、分けてあげるー!高校一年生海原唯花だよ。『放シス』のムードメーカーはお任せあれー!みんなー、今日は楽しんで言ってねー!』
と元気よく自己紹介して一曲目が始まる。
「『放課後シスターズ』は姉妹アイドルで真凛と唯花は。双子の姉妹なんだよ」と隣で、舞雪ちゃんが教えてえてくれる。
歌が始まり、どこか初々しい曲調でまだ、アイドル慣れしていない頃の初心を感じさせる曲だった。隣で舞雪ちゃんがデビュー曲だと教えてくれた。
二曲目は、曲調にも自信が感じられて『君が好き』と好きなところ歌ういい意味でアイドルソングとして完成された曲だった。横で、舞雪ちゃんが「『放シス』の代表曲『君の好きな100のところ』だよ」と教えてくれた。
わたしは気付けばステージ上の二人のアイドルから目が離せないでいた。
特に力強い歌唱をする真凛ねえが印象的だった。
まだ、誰のファンというわけじゃないけど 、気付けば『放課後シスターズ』のファンになっていた。
「どうだった?友希ちゃん、熱くなったでしょ?」
「う、うん。それにいっぱい動いて汗臭くなったし。もう、控えめに言って最高だったよ!」
「それは、良かった。どう?わたしと一緒にアイドルを目指してみない?」
「そ、それは……少し考えさせて!」
いきなりの申し出に驚いた。わたしがアイドル!?気持ちが追い付いていかない。
「わかった…いきなり決断して欲しいと言ってもダメだよね…考えが決まったら教えてね」
いつでも歓迎するよ。と言ってわたしがOKするものだと思っているけど、それはない。
わたしの今感じてる『アイドルになりたい!』という気持ちは、アイドルライブを見終わった高揚感からそう思わせているだけだ。
後から冷静になって考え直せば、アイドルになるなんてとんでもないことだと思い直すはずだ。
だから、この場では決断しない。明日になれば、また、『アイドルんて……』という冷めた気持ちに戻るはずだ。
だからこの気持ちは気の迷いなんだ!そう思うことにした。
翌日、早朝の五時に目が覚めた。いつもは、こんな早くには目覚めないのに
昨日の『放シス』のアイドルライブを見たせいだろう。
ライブの余韻がまだ残っていることに驚いた。
(まだ、熱を持っている……)
ノートPCで『放課後シスターズ二〇一七サマーライブ』と検索すると昨日のライブ映像のアーカイブが出てきた。再生してライブが始まると、また、あの高揚感がやってくる。
どうやら、わたしの心の火は消えてくれないようだ。
***
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