4章 推しと復帰ライブ
第31話 推しの復帰宣言
元、『放課後シスターズ』のカリスマアイドルの未来たんのことをより、深く意識するようになった。
もし、このまま、未来たんの恋人になれば、それは同時に未来たんのアイドルとしての翼を奪うことにもなる。
そうしたら、もう、彼女のアイドルとしての姿は見られないと思うと淋しくなる。
でも、今は俺だけを見てくれる一人の女性として俺の隣に居てくれる存在になった。
だけど、多くの人の憧れの的を独り占めしてしまってもいいのか?
世間にはもっと多く、アイドルとしての彼女を必要としている人達がいたのではないかと今にして思う。
夕食は、トンカツだった。『デスマ同棲生活』の書籍化を勝ち取ったご褒美に、未来たんが俺の大好物を作ってくれた。
未来たんとさくらちゃんと夕食を食べているとき、「未来たん、もうアイドルはやらなくていいの?」後悔は無い?」と俺は、彼女にふと、訊いてみた。
未来たんは俺と恋仲になりたい為にアイドルを引退して一般女性となった。
まだ、夢の半ばだったはずなのに。今は、俺と同棲している。
そこで更に彼女の足枷を増やしてしまった。
もし、同棲中の未来たんがアイドルに復帰をした時、それを面白く思わない人もいることだろう。
もし、彼女が、まだ、アイドルをやりたいと思っているなら俺は、身を引くべきだろう。 このまま未来たんの元を去るべきか迷う。
「それは……」彼女のはっきりしない煮え切らない態度に俺はモヤる。
「そうか、俺がいるからアイドルに復帰出来ないんだな。俺は、充分、未来たんから幸せな時間を貰った。だから、今度は未来たんが幸せになって欲しい」
「わたしも、佐藤さんと一緒に暮らせて今がとても幸せです。他に何もいりませんよ」
「本当?やりたいこと我慢していない?俺に気を遣っているなら遠慮しなくてもいいからさ」
未来たんが、アイドルに復帰したいなら、俺は、全力で応援するつもりだ。だから、彼女には自分を偽らないで欲しい。
「やりたいこと、我慢しなくてもいいのですか?本当に?」
「うん。勿論!どんなことでも受け止めるから、どんどんワガママ言ってくれ。」
「そうですか…なんでもいいんですよね?」
「うん、なんでもいいよ。」
なにをお願いするつもりだ?俺にできることならなんでもしてあげたい。だけど、ものによるけど。
そう、身構えていると、「じゃあ、佐藤さんと添い寝がしたいです!」
と未来たんは屈託の無い無垢な瞳で言ってきた。
「「そ、添い寝!?」」思わず、俺とさくらちゃんが驚いて同時にハモった。
そういうつもりで言ったわけじゃなかったのだけどな。
「え!?、いいのですか?」
「うん。いいよ」
未来たんがそれを望むなら、俺は彼女を受け入れるまでだ。
「な、なん言おうと未来ちゃん!?」とさくらちゃんも動揺を隠せない。
「じゃあ、わたしはこのへんで失礼します。未来たんファイト!」と言いさくらちゃんは茶碗を片して帰ってしまった。
何が、ファイトなんだ?
この後、未来たんと寝室でたくさん解放した
佐藤さんが寝静まった夜、わたしは、writerに秘かに胸の内を打ち明けた。
『わたし、やっぱりアイドルに戻りたい!好きな人と一緒に暮らすのもいいけど、わたしは、アイドルとしてやり残したことがあります。」
そして、意を決して彼女はこう告げる。
「一身上の都合で引退しておいて図々しいかもしれないですが、自分を殺して生きているのは死んでいるのと同じです!』
と切実な想いを吐露した。それがネットで波紋を呼び、翌日、ネットで、『未来たん、遂にアイドル復帰か?!』
『いや、待てよ。彼氏がいるアイドルなんて推せるか?!俺は、ファンやめるわ』
『それなー。俺もやめよー』などと一部のアンチから絶縁を言われていた。
そして、昨晩の未来たんのライートを見たテレビ局のスタッフが動き、今週土曜日に
彼女のアイドル復帰会見をテレビ生中継とネットで配信すると発表された。
***
俺は、会社に出社して自分のデスクで今朝スマホに入ってきたアイドルニュースで未来たんのアイドル復帰記事を読んでニヤケ、密かにガッツポーズを取っていると、春風が俺のデスクへとにこ にこしながらやってきた。
こいつはうちの会社の営業部署のマスコットキャラ的存在で、小さくて可愛い後輩だが、俺の前だけは、その隠された本性をさらけ出し、ウザ絡みしてくるウザ可愛い後輩となる。
「先輩、未来ちゃんがアイドル復帰するみたいで良かったですね。ファンとしては嬉しいですよね」
「ああ、嬉しいな。夢じゃないかと思う。」
未来たんが、アイドルを引退してから、もしも彼女が俺と出会わず、アイドルを引退しなかったら?と何度も、もしもあったかもしれない未来を妄想したことか。
でも、その夢が今叶ったのだ。嬉しくないはずがなかった。
「先輩、良かったですね。さあ、朝礼始まりますよ!」
「ああ、わかっている」
こうして、始業前の朝礼を終え仕事を開始した。
今日の仕事は、今朝、発表された、未来たんのアイドル復帰会見が行われることを知り、
仕事どころじゃなくなっていた。
午前中の仕事中、デスクでパソコンを操作するも、どこか心ここに在らずでソワソワして落ち着かなかった。
加えて、『デスマ同棲生活』の書籍化作業で夜遅くまで、執筆をしていて、強烈な睡魔に襲われていた。
「…ぱい、先輩!聞いていますか?ちゃんと起きてくださいよ」
「ああ、なんだ春風か。なんの用だ?」
「プレゼンの資料作り終わったので確認して貰えますか?なんだか、スゴく眠そうですね」
「ああ、ごめん。昨日、夜遅くまで作業が捗ってさ……」
「夜中に作業って協同作業ですか?」
「協同作業?」
まあ、担当編集と連絡を取りながら作業するから協同作業か。
「ああ、協同作業だな。それがどうかしたか?」
「夜中に協同作業って、まさか未来ちゃんと夜の営みを……先輩のえっち!」
「ち、違うから!そっちの作業じゃねえよ。書籍化の作業が忙しかったんだよ」
夜に協同作業ってそういうエロい意味で取られるのか。これからは発言に注意しよう。
「先輩、遂にWEB小説が書籍化するんですか?ちゃんとR18表記しないとダメですよ」
「いや、官能小説じゃねえよ!至って健全なラブコメだ。」
「ほんとうかな~どうせ微エロのエチエチ描写があるんでしょ~」
「まあ、無いとは言い切れないが……」
(そもそもライトノベルは少しエッチな描写があった方が読者のウケがいいのだ。それは、仕方がないだろう)
「まあ、書籍化おめでとうございます。やっぱり、小説家になったら仕事は辞めちゃうんですか?」
「いや、辞めようとも考えたんだが、まだ小説で一人前に稼げるようになって無いし、そもそもこの小説が売れるかどうかも分からないし、今辞めるのは良くないと天城先輩から諭されてしまってな。結局、今の仕事を続けながら小説の仕事もしていくことにしたんだ」
「へー。ふーん……そうなんですね良かった……」
とボソッと呟く春風。俺は最後の呟きを聞き逃さなかった。
「なんだよ、俺が会社残ることが嬉しそうだな。何がそんなに良かったんだ?」
「ばっ、違いますからね!先輩のことだから、小説一本で生活したら、いずれ小説が売れなくなって、生活が破綻して泣きを見るよだろうと思っただけです!」
「失礼な、うち切りなんてさせねえよ」佐藤は自分に言い聞かせるように言う。
「だから、今の会社に残って正解だと思っただけです!」春風は照れて言ってくる。俺は、それが照れ隠しだと知っている。
また、言っているよコイツ。ホント素直じゃないあまのじゃくだな。
***
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