第27話 推しと恋愛報道
披露目ライブも未来たんの登場で会場が沸いた。
新メンバーのお披露目がメインのはずなのに、その日のライブは未来たんのサプライズゲストですべてを持っていってしまった。
結果的にライブは大盛況で終わったから良かった。ネット上では未来たん遂に復帰か!?
と未来たんのアイドル復帰を熱望する声が数多く寄せられていた。
未来たんがアイドルに復帰してくれたら俺としても正直、嬉しい。
でも、周りがどう騒ごうと最後に決めるのは未来たん本人なのだ。そこは未来たんに委ねるしかないだろう。
翌週のこと、未来たんとの同棲生活が始まって、順風満帆な生活をお送ってきた。
平凡かと思われた日常だったけど、ここで、問題が起こった。
未来たんとゴールデンウィークに一緒に観に行った、『放課後シスターズ』のお披露目ライブの様子が週刊誌にパパラッチされて恋愛報道されてしまったのだ。
ネット上では相手の男は、未来たんを痴漢から救った例の男か?!などと憶測が飛び交う。 なんでこんなことに……
ふと、リビングで未来たんがスマホを弄っているのが目に入り、その内容が見えてしまった。その内容というのが『佐藤さんとの同棲生活がリアルに充実しすぎて幸せすぎる(^^)この前の『放シス』のお披露目ライブは最高だったなー!今晩のおかずは何にしようかな〜、
わたし?キャー(≧∇≦)』とあった。
それがwriterに投稿する寸前だった。
「ちょっと、その投稿待ったー!」と俺は全力で投稿を阻止しようとするが、一歩遅く、
既にネットの海に投下されてしまっていた。
その呟きはマズイ!今、未来たんの熱愛報道で騒がれているのにそんなことをしたら火に油を注ぐ様なものだ。よりにもよって自分の首を絞める様な真似をするなんて……
未来たんは元、カリスマアイドルだ。その彼女の呟きは民衆にさぞ、影響力があることだろう。
「どうしたの?佐藤さん、血相変えて。わたし何かまずいことしちゃった?」
「問題、大アリだよ!今週の週刊文旬で報道されている。未来たんの熱愛疑惑が記事になってただろ?ワイドショーでも特集されていたし!未来たんの何気ない投稿でも世間では大問題になるんだよ」
「へー、そうだったのですかー。わたし、いけないことしちゃった?わたし週刊誌も報道番組も見ないから分からなかったですよー。テヘペロッ」
そんな騒動の渦中に居るのに、わたし、全然、知りませーん!みたいな傍観者のノリはよしてくれ。
「でも、可愛いから許す!」なんてできるかー!!
「そういうことだから…以後、気おつけて。投稿したことは取り消せないけど幸い相手が俺であるとは特定されてないし大丈夫だと思うけど……」
写真も一緒に掲載されていたけど多分大丈夫だろう。
「わかった。気をつけるよ。佐藤さんごめんなさい」未来たんはシュンとなり縮こまってしまった。
「わかってもらえたならいいよ。事態が悪化しないことを祈るばかりだな」
翌日のこと、未来たんの同棲相手探しはネット上で未だ繰り広げられていた。
その一人に浮上したのが最近、話題になっているWEB小説『デスマーチから始まる同棲生活』の作者である叶夢歩こと、佐藤歩結の俺だった。ネットでは、『改めて読み返してみると、痴漢から美少女を助けて実は推しのアイドルだったという展開が未来たんの痴漢事件にそっくりだ。』もしかして叶歩夢が、未来たんの交際相手なのでは?などと憶測が上がっていた。
いや、まったくその通りなんだが、まさかここまで推測されるなんて……
ともう少し、ぼかして書いておけばよかったな…と後悔したがもう、後の祭りだった…
そのことが関係してなのか、俺のwriterには誹謗中傷や批判のリプが小説を投稿して宣伝する度にくる様になり、炎上していた。
『アイドルを自分だけのものにして生きる糧を奪いやがって!殺してやる!!』
『叶歩夢死ね!』などと脅迫文まできて小説を書いて投稿するのが怖くなり、小説が書けなくなってしまった。
「どうしたの?佐藤さん、朝から顔色悪いけど。体調でも悪いの?食欲無い?」
朝食を食べている時も恋愛報道が気になって食が進まないで箸を置いていると未来たんが心配して訊いてきた。「
わかった!苦手なおかずがあったんだね。どれどれ…」と未来たんママになり訊いてくる始末。
「ちょっと、ピーマンが苦手で……」
って、違う!そうじゃなくて、俺が悩んでいるのは朝食のおかずじゃなくて恋愛報道のことだ。
「実は、最近話題になっている未来たんの恋愛報道の件で相手が俺だと世間が気付き始めていてそれで色々とネットで叩かれているんだ……」
「何それ、酷い!でも佐藤さんと付き合って同棲しているのは事実じゃん。大っぴらに
認めちゃえばいいのでは?佐藤さんは何も悪いことしていないのに……」
「いやいや!それはまずいだろ。元カリスマアイドルと一般男性が付き合っているのが問題なんだからさ!」
未来たんが俺のために怒ってくれて嬉しかった。そうだ。俺は、何も悪いことはしていない。
だけど、世間の未来たんファンはそうは思ってくれなかったみたいだ。どうしよう、これから。出口の見えない不安だけが残るのだった。
あれから『デスマ同棲生活』の投稿を再開しておっかなびっくり小説を更新していた。
これで、いつも通りにやれているはずだ。再開から一週間後のある朝のこと。
「佐藤さん、最近の小説の調子はどうですか?」と未来たんが朝食のご飯をよそいながら訊いてくる。
「ああ、いつも通りに投稿できているぞ!」
あれから、ネットで言われていることを気にせずに投稿を重ねていった。でも、PVの伸びは良いものとは言えなかった。これも、以前の炎上の影響かとそう思っていた。
しばらくすれば、ほとぼりも冷めていつもの調子に戻るはずと俺は信じていた。
「ふふ、それは良かったです。その調子ですよ。頑張ってくださいね」と励ましてもらった。
「未来たんありあとう!俺、頑張るよ。」と大盛に盛られた茶碗を受け取りそう応えると
朝食に箸をつける。うん、今日も美味い!そうして俺は、会社へと出社した。
***
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