第24話 推しからのSOS3

四月になり、新年度を迎えた。 

  

 うちの会社は相変わらず忙しい毎日を送っている。 

 

 変わったことといえば、未来たんとの関係だ。彼女とはこの前、一緒にドリームランドに行ってからやたらお互いの距離が近くなった。 

 

 それはいいのだけど何やら最近、俺に隠し事をしているようなのだ。 

 

 ただ、男の俺には話しにくいことということならいいのだけど何か厄介ごとを抱えて、それを俺に隠しているのだとしたらそれは心配だ。 

 

 終業時間まであと一時間と迫ったところで、最後の追い上げをするかと自販機でコーヒーを買ってきた。 

 

四月といえど、まだ肌寒いからホットコーヒーがまだ手放せないでいた。 

 

 橋本と一服しようかとプルタブを開けて乾杯していたところで、未来たんから一件のメッセージが届いた。 

 

 簡易的なメッセージから読み取れるものは『助けて』の一文であった。 

一瞬にして、血の気が引いた。 

 

 俺は、急いでメッセージをタップして全文を表示させる。 

 

 『自宅にアイドル時代のファンが押し掛けてきて中に入れちゃった!どうしよう?!こわい!』 

 

というメッセージだった。 

 

その場から駆けだして、未来たんの元へ向かいたい衝動に襲われるも、今は、終業時間の真っ最中。 

 

 そんなことは出来ない。どうする!どうする俺!? 

 

そんな悶々とした状況下で、隣のデスクの橋本が声を上げた。 

 

「すいません、天城先輩。佐藤が体調悪そうなんですが、僕の車で送ってあげてもいいでしょうか?」 

 

「え?!佐藤くん体調悪いの??」 

 

「ええ、まあ。はい、少し......」 

本当は体調は悪くない。ただ、、未来たんからのMINEを見てからは彼女の元に向かいたくて気が気じゃなかったのは確かだ。 

「それは、大変!橋本くん、直ぐに送ってあげて」 

 

そう言われ、橋本の車で自宅に帰ることになった。 

 

「なにか、急用?」橋本は車を運転しながら訊いてきた。 

 

 「ちょっと、同居人がトラブってしまって急いで帰らないといけないんだよ」 

 

「え?!佐藤って彼女と同棲していたんだ?!ていうか彼女いたんだ」佐藤の応えに驚いた様子の橋本。 

 

 「いや、彼女ではないけど、親密な関係の子と同居しているんだ」 

「もしかして、この間のドリームランドも、その子と?!」 

「まあ、そうだな」 

 

「いや、それはもう彼女でしょ!親密な関係の異性を同居させて一緒にテーマパークまで行って彼女じゃないってどういう関係?!」 

 

 良く考えてみればそうだ。同居中の彼女が未来たんとは言わなかったけど、親密な関係なのに未だに友達は、可笑しい。気持ちがモヤモヤするのだった。 

                *** 

 

そうして、自宅に着いた佐藤は、慌ただしく、乱暴に玄関のドアを開いた。 

 

 リビングに駆けこむと、未来たんが、見知らぬ男と対面で対話しているところだった。 

 

 

 

「未来たんから離れろ!」佐藤は、自分でもびっくりするくらい大きな声で叫んだ。 

 

「わ、オジサン誰?」 

「いや、お前が誰だよ!ここは俺の家だぞ!」キョトンとしている男にそう告げると 

 

「ていうかなんで、『放シス』を卒業した未来ちゃんがオジサンの家に居るの?」 

 

 

「オジサン言うな。未来たん、変なことされていない?!」 

見知らぬガキにオジサン呼ばわりされる覚えはない。 

 それより、今は、未来たんの方が心配だ。 

 

「あっ、佐藤さん!来てくれたのですね。紹介します。『放シス』時代のわたしのファンの悟くんです!」 

 

「こんにちは、杉田悟です。18歳大学一年です」 

 

「おう、若者にしては礼儀正しいじゃないか。じゃない!なんでうちに居るんだ!?」 

 

「オジサンこそ、なんで未来ちゃんを家に上げているの?」 

 

「上げ足を取るな!未来たんとは一緒に住んでいるんだよ」 

「同棲しているってこと!?なにやっているんだよ、オジサン!」 

「未来たんさっきのMINEのことだけど」 

確かに、さっきの未来たんからのメッセージからは怖がっている様子が伝わって来た。 

 でも、今、目の前にいる未来たんを見ていると怖がっているどころか、少し心を開いているように見える。 

「いや、実はですねー不審者が入ってきたかと思ったら話してみるとわたしのファンだって言うじゃないですか。それなら、危ない輩ではないですよねって話してみて分かったんです!」 

 

 

「未来たん、もっと警戒心持とうよ!襲われたらどうするつもりだったんだよ!?」 

 

 

 

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよー」と未来たんはヘラヘラと笑い手を振る 

 

「ふざけるなよ!!俺がどれだけ心配したと思っているんだよ!お襲われていたらどうしよう。 

殺されていたらどうしよう。そんな最悪な状況まで考えて、死ぬかと思うくらい心配したのに 

そんなヘラヘラ笑うなよ!!」 

こちらがどれだけ心配したことか。それを知らずにへらと笑う彼女に腹が立った。 

 

「ご、ごめんなさい......」 

 

「性善説を持つのは良いけど適度に人を警戒することも覚えてくれよ」 

純粋なことは、彼女の利点だと言えば、聞こえはいいが。毎回、こんなことされたらたまったものじゃない 

「オジサン正論のように未来ちゃんに説教しているけど、オジサンはどうなの?」 

 

「どうって?」男の言い分になにか含みを感じて聞き返すと杉田はこう切り出す 

 

「元カリスマアイドルと気安く同棲なんかして、どういうつもり?」 

 

「そ、それは......」 

元、人気カリスマアイドルとの同棲。それは、現実離れしていることをしている自覚はある。 

「元、アイドルと同棲とか、頭可笑しいんじゃないの?!」 

 

「そ、それは......」 

 

「未来ちゃんは皆のアイドルなんだよ!それを一人で独占しようってのが間違っているんだよ!」 

 

 

「別に俺は、未来たんと付き合っているわけじゃない、ただの友達だ。」 

 

「一緒に同棲までしているのに友達なの?信じられないな」と杉田は訝しむ。 

 

 「オジサン、元カリスマアイドルと同棲して、それが世間にバレたとき、 

周囲のメディアの目から未来ちゃんを守れるの?」 

 

「そのときは自分の身を犠牲にしてでも未来たんを守ってみせる!」佐藤は、そう啖呵を切る 

 

「それは、オジサンのエゴだよ。そのときに潰れるのはオジサンじゃなくて未来ちゃんだよ」 

 

「そうはさせない!これは、俺のエゴじゃないと照明してみせる!」と佐藤は言い切る。 

「本当?」 

「本当だ!」佐藤は杉田の目を真正面から見て言う。 

 「オジサン、名前は?」 

俺の誠意が伝わったのだろうか?杉田は、名前を訊いてきた。 

「佐藤歩結」 

 

「それじゃあ、未来ちゃんのこと歩結に任せたよ。僕みたいにはならないでね」 

最後に、「ずっと未来たちゃんのことを好きでいてよね」と言い杉田は去って行った。 

「なんで俺、年下からため口聞かれているんだ?」 

 

 

 

リビングには未来たんと俺の二人だけが取り残されるのだった。 

 

 

「ああー、佐藤さん怖かったですー」 

 

「大丈夫だった?本当になにもされていない?!」 

 

 

「はい、指一本触れさせませんでした」 

 

「それは、良かった心配したんだからな」 

 

「それより。」 

未来たんが杉田への接し方でモヤるものがあった。 

 

「なんで、あの男は名前で呼んで俺は苗字なんだ?」 

 

「あ、佐藤さんは年上の男性ですし、悟くんは年下の男の子なので」 

 

「ふーん」 

応えは聞けたが納得は出来ない俺の方が年上だからというのは分かった。 

でも、未来たんと積み上げてきた時間や、二人の間の絆は俺の方が強いはずだ。 

 それなのに未だに俺だけ苗字呼びなのは納得出来なかった。 

 

「あれー、もしかして佐藤さんも名前で呼んで欲しいのですか?」 

 

「いや?別に名前呼びされたいとか、そんなこと思って無いし!」 

 

 

「「あは!ツンデレですね。本当は思っているくせにー」 

 

 

「いや、それは....正直、そうです!」 

 

「正直でよろしい!その素直さに免じて、名前で呼んであげますよ!」 

 

「よろしくお願いしますね、歩結くん♡」 

 

 

「おう!?」 

衝撃だった。まさか、推しから名前で呼んで貰える日がくるとは!天にも昇る気持ちとはこのことか! 

 

 

「わたしは名前で呼びましたよ。佐藤さんもわたしのことを名前で呼んでください」 

 

 

「ごめん、未来たんの本名が分からないんだ」 

 

 

「そうでしたね、鈴木友希っていいます。よろしくお願いします」 

 

「よろしく,ゆきりん」 

 

「また、アイドルのあだ名みたいになっていませんか?」 

 

「それなら、友希。これでいいかな?」 

改めて、女の子を名前呼びするのは恥ずかしい。それも推しのアイドル相手にだ。顔から火を吹きそうなくらい顔が熱い 

 

「いいですよ、歩結くん。いざ、男の子の名前を呼ぶのは照れくさいですね」そう言い頬を赤らめる未来たん 

 

二人の間に、幸せな時間が流れていった。 


               ***

読んでくれてありがとうございます。


ここまでの改変分は終わりました。


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