第18話 社畜と桜色の出会い

俺のコートには秘密があった。




 一見してみれば普通のモッズコートなのだけど、実はコートの内側には、ダミーナイフを収納する穴が施されていた。




 そこにダミーナイフを刺してコート内に収納してもしもの時の為に持ち歩いていた。


 この仕組み中二心をくすぐるだろ?


俺に、襲いかかって来る通り魔のダガーを模造ナイフで受け止め力を流す。




 同時に、合気で相手の力を利用してダガーを奥に流して、通り魔が手前によろめいたところをダミーナイフで胴をひと一突きにする。






 刃はステンレス製だから切れはしないが、強い衝撃を与えてやる。




 通り魔は、その場にうずくまるとその隙を見逃さず、手足を拘束して身動きを封じてしまう。




 後は、騒ぎを聞きつけた園内の警備員に引き渡す。


 俺も、模造ナイフとはいえ刃器を所持、隠し持っていたことで銃刀法違反で逮捕されるのかと思ったけど、そのお陰で死傷者も出さず人命を救ったことを考慮されて、今後、模造ナイフであっても、携帯・所持しないようにと言われた。




 刃物は本物じゃなくても人に危害を与えるものは処罰対象になるからと厳重注意されてしまった。




その時、桃色の髪の少女が、「あの人は、わたしの命の恩人やけん逮捕したらいけんばい!」




と俺を必死に庇ってくれた。






連れて行かれる通り魔が、去り際に、「皆、幸せそうな顔しやがって!お前ら皆、爆発すればいいのに!」と不満をぶちまけていた。






「独り身の男がリア充をひがむのは分からなくないが、だからと言って人を傷つけていい理由にはならないよな?」と男に語り掛ける。






それを周りに危害を加える形で行動に出たらいけない。そこの一線だけは越えてはいけのだ。






「クソ…俺は幸せそうな奴らを見ると虫唾が走る、みんな死ねばいいのに!」




相当、鬱憤が溜まっていたのだろう。俺も、日々の社畜業にそんな風に心が荒んでいた頃もあった。っ行動を起こした男の気持ちが分かるわけではないが、同情は感じてしまう。




「お前、幸せそうにしている人たちが羨ましかったんだな……」


憎かったというより自分もあんな風に成りたかったんだろう。羨む心が憎悪に変わってしまったのだろう。




「俺だって幸せになりたかったな……」悲痛の声を漏らす。




佐藤は男nい視線を合わし、て優しく語りかける。






「これから、幸せを見つけていけばいいじゃないか。でも、その前に罪は償ってくれよな」






「彼女持ちの奴の言葉なんて響かねーよ。バーカ!」


と俺の声なんて届いていなかった。




 そうだよなはたから見れば、彼女と遊園地デートしているリア充の男に移るだろう。






「俺、こう見えてこの前まで彼女無しの陰キャの社畜だったんだけどな……」




以前の俺は、それこそ仕事に囚われて心が死んでいた。




 彼女もいない社畜として一生を終えるのかと人生を諦観していた。




 そうだ、一歩間違えれば、俺だってコイツのようになっていたかもしれない。




 そう思うと人事には感じられなかった。






「そうなのか、でも今は、こんなに可愛い彼女がいるだろ。その時点でお前は勝ち組で俺は負け組なんだよ。」






一つ、間違っていることがある。未来たんは俺の友達で、彼女ではない。




 この人には負け組根性が染み着いているのだ。なら魔法の言葉を掛けてやるまでだ。




「俺も、社畜として働いてきたけど。それが、痴漢されている女の子を助けたら俺の友達になったんだよ。人を傷つけるより、守った方がモテるぞ。」






「マジで?彼女じゃなかったのか?俺みたいに人を傷つけた奴にもできるのか?!」




「その気持ちがあれば出来ると思うぞ。今度は傷つけるんじゃなくて守る側になれ」


頑張れよ、兄弟。と心の中でエールを送り肩をぽんと叩き、通り魔は警備員に連れて行かれたのだった。






               ***




「さっきは助けてくれてありがとうございました。」




先ほどの通り魔から、襲われそうになっていた少女が、佐藤に目頭に涙を滲ませ、顔を赤らめて言ってきた。




 よほど、怖かったのだろう、目の前で切りつけられそうになったのだから無理もない。




「いいよ、怪我はない?」




一歩遅かったらこの子はさっきの通り魔によって殺されていたかもしれない。そう思うとゾッとする。




「うん、大丈夫ばい」






「あの、お名前を教えてくれんと?かあなたはわたしの命の恩人やけん」




「そんな、名乗るほどのものじゃないよ。」




俺の名前なんて日本中に溢れてるプピュラーな名前だし記憶に残らないだろう。






「そこをなんとか、お願いばい!」




彼女は、ピンクのレースのブラウスにのチェックのスカート


といったレトロのガーリー系のファッションスタイルだった。




 スカートには、リボンが装飾してあり女の子の大好きなモチーフで溢れていていた。




 まるで、御伽の国のプリンセスみたいで可愛らしかった。




ここで、佐藤は退散しようと思っていたが、「ちょっと待ってばい!」と彼女によって


呼び止められる。




「え?!なに?」


このまま立ち去ろうと思っていたところだったので驚いて彼女の方を振り向く。




「あっ、そうかまずは自分が名乗らないといけんばい!わたし、宮内さくら。やけん、さくらと呼んでっちゃん」




「そうなんだ。よろしくね、さくらちゃん」




名乗らずに去立ちるシチュ格好いいと思ったのに!彼女からわざわざ名乗ってきたのだ。ここで名乗らなかったら失礼に当たるだろう。




「俺は佐藤歩結。日本人で一番ポピュラーな名前さ。モブの佐藤と覚えておいてくれたらいいよ」




「そんな、モブだなんて!佐藤さんは、わたしにとってはヒーローやけん!」


ヒーローか言い響きだ!なんだかいい響きで痺れてしまう。




「え?じゃあ、さくらちゃんって呼んででもいいの?初対面なのに?」




「よかよ!」と彼女は快く承諾しフレッシュな桜のような笑顔で言う。




そんな眩しい笑顔で言うものものだから俺は、あまりの眩しさに、社畜には刺激が強すぎて


直視できない。




「あ、ありがとう」


 その可愛い方言にキュンときてしまう!ヤバイ一番は未来たんのはずなのに博多弁女子可愛い!と思ってしまった。








「ところで、佐藤さんと一緒に居るあなたはもしかして、放課後シスターズの未来たん?」




「え?ち、違うよ?人違いじゃないかな」




「ウソばい!」




「え?!そんなこと言ってもなー」




マズイ!未来たんがデートしているのがバレてしまったか!マズイ、どうにかして誤魔化さないと!




「そうだよ!未来だよー」




「未来たん!?」


いいのだろうかすんなり正体を明かしてしまっても




「キャー!本物の未来たんばい。顔ちっちゃい、おっぱい大きいー。ばり可愛いー!わたし、未来たんのファンやけん!」とハイテンションで言うさくらちゃん。




「いいの?未来たん違うと言えば白を切れたのに」




「いいんですよーこのこの子、素直でいい子そうでえすし」




まあ、未来たんは純粋が故に性善説を信じる性分だし、仕方ないか。


「わかった。未来たんがそれでいいのなら問題ないよ」




「わたし、中学の春休みを利用して中学最後の卒業旅行に友達と東京観光に来たんばい。


でも、しぇっかくのドリームランドに遊びに来ていたのにこんなことになるなんて…」






「助けてくれてありがとうございました。わたし、一緒に来ている友達と合流とないとやけん、これで……」




(ああ、せっかく素敵な騎士ナイト様と出会えたのに名前だけ教えてもらっただけで、もうお別れしないといけないなんて。願わくば、もう一度あなたと………)




と言い残して、さくらちゃんは行ってしまった。




桃色の髪の素敵な美少女だった。彼女は、将来、美人さんになることだろう。俺は桜色の出会いを感じて彼女を見送ったのだった。








後から警察から聞いた話によると、通り魔の犯人は、東京都内に住む三十歳のサラリーマンだったとのこと。


 


既に退職して無職状態だったという。


 彼の働く会社がブラック企業で、社畜として働いていたが、その激務に耐えきれずに会社を退社していたことが分かった。


 その後は、定職に就けず、日雇いのアルバイト生活で食い繋いでいたいう。




 犯行動機は、ドリームランドで幸せそうにしているカップルや家族連れを見て嫉み、なんで自分だけがこんな不幸なのだtお憤りを募らせていたという。




 幸せそうにしているアイツら殺すまでいかなくても恐怖を味合わせたいという自分勝手な理由から来るものだった。






今では、自分の行いがいかに愚かだったか気付いたと語る。




 ある男性から諭されたという。


 罪を償って更生し、今度は人の幸せを守る仕事に就きたいと語っていたという。




 誰なんだろうな?その男って。






こうして通り魔事件は幕を閉じて一件落着となったのだった。






               ***




読んでくれてありがとうございます。遊園地編はまだ続きます。






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