第16話 推しとバレンタイン

鍋の沸き立つ音と包丁のリズミカルな音で意識が覚醒してきた。




昨日は、極上の抱き枕を抱いて眠った気がするが、その物体はベッドには無かった。あれは夢だったのただろうか?




リビングに行くといい匂いが漂ってきて、鼻腔を刺激する。


(味噌汁かな?でも、いったい誰が、鍋を火にかけているんだ?)




「佐藤さん、おはようございます。ご飯できていますよー。顔を洗ってきてください」




未来たんは、キッチンに私服に白いエプロン姿で朝食を作っていた。なんだか、新妻がキッチンに立っているみたいでドキッとする。




 そうか、俺は未来たんと同棲生活を始めたんだった。


「昨日は。よく眠れましたか?」と未来たんはお玉を片手にこちらを振り向き微笑みかけてくる。




「うん、なんだか、いつもより寝心地が良かったな」


(天使かよ!未来たんの幼い顔立ちのロリフェイスで、エプロン姿だと、JCの奥さんを貰ったのかと錯覚してしまう。だが、違法臭が漂う案件になってしまうが未来たんは二十歳の大人。合法なのである)




「それはそうでしょう、わたしを抱き枕にして離さないですもん。あんなところ触って…ぷにぷにで、柔らかかったですか?」


未来たんは頬に手を当てて顔を火照らせて言う。


「俺はいったいどこを触ったんだ?」


(まさか、未来たんの、おっ……)




「もう!言わせないでください。佐藤さんのえっち!」




昨日の俺、なにをやっているんだ!変なことしていないよな!?




「話は、変わりますが、佐藤さん甘いものは好きですか?」


「うん、好きだけど。チョコに和菓子に洋菓子。甘いものだったらなんでも好きだ」


俺は、昔から甘いものに目がなくて、和菓子であろうと洋菓子であろうと嫌いなものは無かった。




「生粋の甘党ですね。では、今夜のデザートを楽しみにしていてください。」と未来たんは微笑む口元に人差し指を当てる。その仕草が可愛いかった。




「ん?なにかあるのかな?」


そんなことを言われると気になってしまう。


「それは、夜までの秘密ですっ!」


未来たんはそれ以上何も言わなく口を噤んでしまう。俺も、それ以上追求することなく、


朝食の焼き魚と目玉焼きとウィンナー。味噌汁に手を付ける。焼き魚は塩焼きで、箸がすすむ。




目玉焼きは、俺好みの半熟で、トロトロでまろやかで白米とよく合って美味い。昔から目玉焼きは、白米の上に乗せて、醤油を少量垂らして食べるのが好きだ。焼きウィンナーを噛むと溢れ出る肉汁に旨みを感じる。




「ご馳走様、美味しかったよ」


「お粗末様でした。」


俺は、朝食を終え、会社に行く支度をして、家を出た。




出社して、自分のデスクへと着く。


いつもは、仕事始めの月曜日は、憂鬱で


気が重いのに、今日は、気分が良かった。




朝から、未来たんから手料理を振舞って貰ったからだろうか。元気、いっぱいだ。




「佐藤、おはよう今日は、顔色がいいね。いい顔してる」橋本が爽やかな笑顔で言ってくる。


コイツはいつもサラツヤだな。


デスクには、いくつものチョコが置かれていた。


市販のものから手作りのものまで、


そうか、今日はバレンタインデーだったか。




モテる男は、違うな。それに比べて俺は……


今年も、収穫はゼロか。まあ、はなから期待なんてしていないけどな。


橋本が、俺の変化に気付いて挨拶を交わしていると






「先輩、ハッピーバレンタイン!」と春風がビニールの小包に入った黒い物体を渡してくる。




「こ、これは?」


まさか、チョコじゃないよな?チョコなのか?


「バレンタインチョコです!言っておきますけど、ギリチョコですからね!」


チョコだったー!


「そりゃあ、義理だよな。でも貰えるだけマシか」






それは、そうだろう。こんなお粗末な見るからに失敗作。義理で渡しているのだろう。




「作るのに七時間かかりました! 」




まさかの本命だったー!




「あ、ありがとう……」


春風からとはいえ、女性からバレンタインチョコを貰うのは初めてのことだった。


嬉しくないわけがなかった。




さっそくに春風が作ってきてくれたギリチョコを食べる。




「先輩、お味はどうですか?」




「ドロっとしてて苦くて…これ、ちゃんと砂糖入れたか?」




「分量が分からなくて…少し甘さが足りなかったですか?」




「そうか……」




カカオ八0%くらいかな?正直、苦い。甘さが恋しいよ。


「ギリギリチョコになりました!」


「そっちのギリチョコ?!」




「でも、これはこれでブラックチョコみたいで美味いぞ。」


(まさか、本命ではないよな)


「そ、そうですか?よかったです......」


そう言い残し、春風は自分のデスクへと戻っていった。


昼休み、天城先輩のデスクに呼ばれた。




「お疲れ様佐藤くん。」


「はい、お疲れ様です。用事ってなんですか?」


「佐藤くん…あなた、少し変わった?」


「え?俺が変わった?いつも通りですけど。」


(変わったといえば食生活くらいか。これも未来たんのお陰だな)


「んー、わたしの気のせいかかなー。まあ、いいか…」






「はい!佐藤くん…バレンタインデーチョコだよ!」




それは、いかにも高そうな1箱、1000円以上しそうな高級ラグジュアリーチョコだった。




先輩…チョコが重いです。




これ、本命チョコじゃないよね?




仮にこれが本命だとして俺は、この想いにどう応えたらいいのだろう?


「モテモテだね、どっちが本命?」とデスクに天城先輩からのチョコを持って戻ってくると高橋がニヤケながら訊いてくる。




「いや、どっちも本命じゃないな。



俺の本命は、未来たんだけだ。




「他に本命がいると」




「うるさい!」


と橋本の脇腹を小突いておいた。


               ***


自宅へと帰宅した俺は、夕食後、未来たんが何やらモジモジして、デザートに手作りの、チョコブラウニーを渡してきた。






「佐藤さん、ハッピーバレンタイン佐藤さん、甘いの好きなんですよね?どうぞ!」


「ありがとう!」


「お味は、どうですか?」




「うん、チョコブラウニーの濃厚なチョコがクッキーに近いケーキ状でザクザク食感で中にチョコチップが練り込んであって美味しい。ブラックコーヒーと良く合うよ。」




「そんな、「美味しい」だけでいいのに、そんな事細かに…嬉しいです」




とくどい食レポをしてしまったかと焦ったけど、


未来たんは思いのほか喜んでくれた。






「甘いものにはうるさいからな。ごめん、気を悪くした?」




「い、いえ。そんなことないです!ちゃんと味わってくれているんだなと思って……」




「ありがとう未来たん。」


(そうだ、俺からも未来たんにプレゼントがあるんだった。)


俺は、バレンタインギフトで、トップがハート型のシルバーピンクの可愛いらしいネックレスを未来たんに、贈る。


アクセサリーのプレゼントとか、重かったかな?贈り物はお菓子とかの方が良かったんじゃないのかと不安になる。




「わー、可愛い!ありがとうございます!」




「佐藤さん、付けて貰っていいですか?」


と上目遣いでお願いしてくる。


思いのほか好印象で気に入って貰えてよかった。このお願いは断れないな。




「うん、いいよ。」




俺は、未来たんの細い首元に手を回してネックレスを付けてあげる。




「でも、バレンタインギフトにアクセサリーですかー」


「ん?どうかしたの?」


(やっぱり、重かっただろうか?引いてしまったかな?)


「これは、そういう意味で捉えていいのですか?」と再び正面を向いた未来たんにそう、問意味深にわれる。




「え?どういう意味?可愛いかったし未来たんに似合いそうだと思ったから贈っただけだけど」




「もう、分からないならいいです!」


未来たんは顔を朱色に染めて言う




「そ、そう?」


俺は、意味が分からず、にいた。


後から『ギフト、アクセサリーで検索して』その意味を改めて知り、赤面するのだった。


               ***

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