2章 推しと始まる同棲生活

第11話 社畜とチョコ

二月になった。未だ、厳しい寒さが続く。




来月になればポカポカ陽気になるのだけどもうしばらくの辛抱だ。






この前は、残業明けに未来たんが手料理を作りにきてくれて夢のような時間だった。




今は、早朝から食パンを生で齧る質素な朝食を味わっていた。




(あー未来たんの料理が恋しー!あんな極上の馳走を味わってしまったらもう元には戻りたくないなー)




するとインターホンが鳴りこんな朝早くに誰かと思い玄関の扉を開ける。


そこには未来たんが立っていた。






「あの、佐藤さんお仕事を頑張って欲しくてお弁当を作ってきたんですけど、もしよかったら、どうぞ……」




と恥ずかしそうにお弁当を渡してくる。




「ありがとう!俺の為に作ってくれたの?」




やったーー!未来たんからの手作り弁当だー!これで今日、一日を乗り切れる!




と朝から元気100倍漲みなぎらせた。






こうして、元気一杯に出社した。








「どうしたの?朝からそんな上機嫌で、それに何時もに比べて顔色がいいし。」


デスクに座ると、同僚の高橋たかはしが訊いてきた。


「もしかして、彼女でもできた?」


高橋は揶揄からかうように妻子持ちの既婚者の余裕からくるのか爽やかな笑顔でニヤついてくる。




「えー!先輩、彼女できたんですか?どうせ妄想彼女でしょ?カフェに一人で行って空想の彼女とエアデートでしょ?キモすぎます!」




「違うわ!そんな寂しいことしないわ!カフェには好きで一人で行くんだよ!」






「そんな可哀想な先輩には今度、私が付き合ってあげましょうか?」




「そんな気遣いいらねえよ!」




一人の癒しの時間を邪魔されたくない!あくまで一人で行くのが好きなのだ。




午前の仕事中に激しい睡魔に襲われた。週の初めの仕事は、いつも調子が出ない。




俺は、ビジネスリュックに忍ばせてあるナーガの一口サイズのチョコをひとかけ口に含み、自販機で買ってきておいたブラックコーヒーを呷る。






覚醒トランザム!俺の眠気を飛ばしてくれ!カフェイーン!!とカフェインファイターズごっこをする。




カフェインファイターズとは主人公のJCの女の子チノル通称ノルンは同級生の友達と同じ喫茶店で働くバリスタ。




魔法の国の妖精ラッテと契約してコーヒーを飲んで魔法少女に変身して女怪人マキネッタと死闘を繰り広げる。




常連客のハリオくんとの恋が展開していってとラブロマンスありの美少女アニメだ。




ティーン向けのアニメなのだけど、大きいお兄さんのファンも多い。俺もその一人だ。




「あー!先輩、仕事中にチョコ食べているー!イーケナインダーイケナインダー。


ブーチョーに言ってやろー!」




「お前は小学生か!」


春風が口にしたのは、小学生のこと子どもが口にする告げ口の常套句


今どきのJSでもそんなこと言わないぞ!精神年齢が女児と同等で悲しくなった。


どうりで、仕事の覚えが悪いわけだ。






「貰うのかよ!なんで俺がお前にチョコをあげないといけないんだよ!」






「じゃあ、部長にチクリますよ。」




「あっ、汚ねー!」






「わかったよ、ほら、チョコだ。静かに食べろよ」




「やったー!先輩からのチョコだー!」






「バカ!静かにしろって…バレるだろ!」




そんな大きな声を出したら…ほら天城先輩が何事かとこっちを見ているじゃないか!




「君たち、バレンタインにはちょっと早いんじゃない?というか逆だし…」






「っ、違う!これは……」


イギリスでは、バレンタインデーには男性から女性にバレンタインギフトを渡すのが主流となっている。




花束やアクセサリーなどを贈り愛の告白をするのだ。




だけど、俺が春風に特別な贈り物を渡すなんてあり得ないだろう。よくて友チョコだろう。




橋本とやり取りしていれば、天城先輩がこちらへ向かって来る。ヤバイ、怒られる!




「佐藤くん、チョコ好きなんだ…バレンタインデーにチョコいる?」




と思ったら、彼女が口にしたのはまさかの言葉だった。




「……あれば。」


義理チョコであってもわざわざ用意して貰うのは申し訳ない。でも、先輩からチョコが貰えるのなら欲しい。是非、コーヒーのお供にいたいものだ。




この「あれば」という言葉は相手の行為を気遣う最高に効いた言葉なのだ。


「あるよ!」天城先輩は満面の笑みで言う。


煌びやかな笑顔を向けられるとフレッシュな新入社員みたいで可愛い。でも、彼女は、俺の先輩だ。






「先輩、お茶いりますか?」春風が、給湯室にお茶くみに向かうついでに俺に訊いてくる。




「あれば。」俺は、簡素に応える。




「なんスか、その態度は!いるんですか?いらないんですか?はっきりしてください!」




こうして相手に上手く気持ちが伝わらないと不快にさせてしまう諸刃の言葉なのだ。


春風は、プリプリと怒り、雑にお茶を置くのだった。




               ***




読んでくれてありがとうございます。




2章に突入しました。




これから糖度が増していくので、これからの


佐藤と未来たんの展開が気になる方は、ブックマーク登録をよろしくお願いします!




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