第9話 後輩と映画デート1

会社の昼休み、食堂で佐藤先輩と昼食を食べに食堂にきた。




 わたしは、食券で社食の磯辺揚げうどんを買う。




 先輩は毎日、相変わらず、手製の弁当を食べている。




 自分で自炊しているようにしては、男飯というよりも、彼女から作って貰った愛妻弁当の方がイメージが近い。




 まさか、先輩に彼女が?!春風は訝しむ視線を佐藤に送る。




 これは探りを入れてみる必要があるようだ。




 「佐藤先輩、いつも、自炊しているなんて、えらいですね。美味しそうなお弁当です」




「お前は俺のオカンか!まあ、社会人としては当然のことだからな!」


年下なのにまるで、母親みたいなことを言ってくる春風になんだか子供扱いされたようで不満に思う。






女子が好きな物々交換は未来たんのお弁当には一切受け付けない。




いくら、春風が食べたいと言っても分けてやるものか!




 少し、意地汚いかもしれないが、この弁当は、俺の会社での唯一の楽しみなのだ。




だけど、これは毎朝、未来たんが早起きして作ってくれている愛妻弁当とは言えない。




 そんなことを春風に言える筈がない!絶対に悟られてはいけないのだ。




「先輩のお弁当まるで、女の子が作ったみたいですね~」




「フゴッ!」




危うく口の中のものを吹き出しそうになった。




 コイツ、いい線を突いてきやがる。いきなりバレそうじゃないか!


 が、ここでボロを出すわけにはいかない。




 「だ、だろ~実は俺、料理男子だったんだ~」




「え?きっしょ!嘘ですよね?!」




「失礼な、今の時代は男だって料理くらいするだろ!」




そうでないと社会人の一人暮らしなんて出来るはずがない。




 実家暮らしで、親から弁当を作ってもらっているわけでもないから自炊はする。


社会人の基本だ。




 それでも一人暮らしの頃の味気ない健康補助食品やコンビニ弁当での食生活から美来たんと同棲してからの彼女からの愛妻弁当に変わったのは大きいが。


「そ、そうですよね、男の人も料理くらいしますよね!」


(でも、そのお弁当は本当は女の人から作って貰ったものなのでは?)






「そうだろう、今の時代、男も料理が出来て当然だろ」




「そのわりには今までの食生活はあんまりですよね」




佐藤先輩が例のお弁当を持参し始めたのが、去年の暮れあたり。


 その頃に、佐藤先輩の食生活を見直す何かが起こったってこと?




 もしくは、そこで彼女ができたとかかな?




これは、『作戦E』に移行するしかない。よし、言ってみるか?




「それより、先輩。今日、仕事帰りに、ちょっと付き合ってくれませんか?」




「どこに連れ回す気だよ」




「人聞き悪いなー。ちょっと観に行きたい映画があるので一緒にどうかと思っただけですよ」


ここで、先輩の秘密を暴いてみせる、と同時に自分が終業デートに誘っていることに気付き赤面するのだった。




こうして、佐藤は春風から映画デートに誘われた。これが、ただのデートだとは知らずに。




 




仕事を定時で切り上げて、会社から出た、佐藤と春風は夜の街を映画館に向かって歩いた。




映画館館と言ってもショッピングモール内に、劇場が入っているものだが。




 「何か観たい映画でもあるのか?」




「そうですね、この前、先輩から教えて貰ったWEB小説の『臆病勇者』がこの前公開したばかりなので、それが観たいです!」




「恋愛映画や感動系の映画とかじゃなくていいのか?」


女子とは、男が好む、ハイファンタジーやローファンタジーより、現代を舞台にした恋愛


モノの映画を好むものだと思っていた。「いいんですよ、これで。先輩も好きでしょ?」




「まあな、俺が勧めた作品だし俺も観たいと思っていたんだ」




春風もすっかり、ラノベ沼にハマったものだ。年頃の女性が、ファンタジーアニメ映画を観たいと言うのだから。




「はい、」わたしも先輩が好きなものを好きになりたいので!」




そんなことを言われてしまうと男としてグッときてしまう。




 意中の女性に言われていたら惚れてしまうだろう。




 だけど、俺にとっての一番は未来たんと心に決めているからこんな攻撃は屁でもない。




「こういうのはコアなオタクが見るものなんだぞ」


「わたしだってオタクの端くれですよ。それに、先輩から色々教えて貰って、こういうのが好きなんだって気付けたんですよ。だから、わたしに女性の喜びを教えてくれた先輩には感謝しているんですよ」




「言い方には注意しろ、それを言うならオタクの喜びだろ!」




「ハハ、そうでしたw」




お前、わざと間違えただろ!とは言わず心の中で毒づくだけにした。




「なにを言っているんですか?先輩もコアなオタクでしょ?」




「ハハ、違いない」


男が好むオタクコンテンツを主にWEB小説とファンタジーアニメをイヤな顔一つしないで


一緒になって楽しんでくれる春風はきっとオタク男子にっとての理想の女性と言える。




 そんな彼女に不覚にも好感を抱いてしまっていた。




 だけど、佐藤にとって一番好きな女性は社畜という闇から一筋の光を与えてくれて救ってくれた未来たんに他ならない。




 佐藤は、不覚にも自分の中で迷いが生じてしまうことに葛藤を感じてしまう。






「ですよね。そして、わたしもね」




「責任取ってくださいよね、先輩がわたしを、こんな風に変えたんですからね!」




「わかった、わかった。アニマートでもなんでも付き合ってやるから」




「わたし、池袋店がいいです!」




乙男ロードの方かよ!男としてはそっち側にはいきたくない。




「やめろ、俺までそっちの沼にはめる気か?!」


「いいじゃないですか、先輩も好きでしょ?」




「んなわけあるか!俺は、ノーマルだ!!」




オタクとしての嗜みは美少女コンテンツだけで十分だ。俺なんかが入ったら腐女子から好奇な目で見られてしまうだろう。語弊を招く言い方はやめろ。






「さあ、着いたぞ」




「あ、『臆病勇者』の上映は、19時10分からですね。その前にポップコーンかいましょうよ」


「いや、俺は、飲み物だけでいいんだけどな」




「そんなこと言わないで先輩、ポップコーンをペアセットで買ってもいいっスか?!」




「やめろ、それは恋人同士でしか許されていない代物だ」


未来たんともまだやったことが無いのに、春風と最初に体験するとは、複雑な気分だった。




「いいじゃないっスかー!わたしと先輩の仲なんっスから!」




「いや、俺とお前は恋仲ではないけどな!?」


この会話の流れだとまるで俺たちが恋仲のように聞こえる。誤解を招くかもしれないから語弊は正しておかないとだ。


「初体験ですね」




「やめろ、生々しい」




「ほら、あそこの男性ペアもペアセット買っていますよ!いいじゃないですか?仲がいい友達同士ということで」




俺のことを友達だと思っていたのか!?どうりでいつも、くだけた話し方をするわけだ。


今後、コイツの俺への認識を改めなければならないな。




やめろ、指を指すな。周りから注目されちゃうだろ!




恋には様々な形がある、そっとしておいてやろう。




「わたし、キャラメルポップコーンにしたいです!」




「やめろ、手がベタベタしちゃうだろ?!」


味のチョイスがお子様かよ、ここは手を汚すことのない塩味がベターだろう



「舐めるからへーきでーす!」




その手で手を握ってくるなよな、頼むから。




「仕方ないなーキャラメルポップコーンだな。ドリンクは何がいい?」




「先輩、わかっていますね!ドリンクはメロンソーダでお願いします」




「甘いものと甘いものか、口の中が甘々になるな、俺はウーロン茶にする」




「せっかくの映画館でウーロン茶ですか?!先輩、つまらない男ですねー」




「うるさいなー、あとこの支払は割り勘だからな!」


ここは、気分良く支払ってやろうかと思ったが、お前とは、割り勘で十分だ。


「先輩のケチー!こういうシーンでは女性に奢るものですよ!」


「なに言っているんだ?俺たちは友達だろう?友達同士なら割り勘が普通だろ?」




「クッ、貴様好きにするがいい!」




「お前は女騎士か!」




最近コイツは異世界ファンタジーにハマっているのだろうか?


ならば、俺も、合わせてやろう。




「いいだろう、後悔するなよ!」




「あの、早く、支払ってくれませんでしょうか?」




売店の女性スタッフの声で我に返り、急いで支払った。






「お前と映画を観に来るのこれが初めてだよな?」


ポップコーンと飲み物をペアセット(割り勘で)買い、劇場内の席へと座って劇場が暗くなる前に佐藤は、春風に尋ねる。




「え?そうでしたっけ??じゃあ、今日が初めて記念日っスね!」




「やめろ、デート記念日みたいに言うな。」


劇場内だから少し声を抑えて言う。






「この人、ムカつく―!」


「おい、声が大きいぞ」


(小声)


こうして、映画が始まった。


           ***


読んでくれてありがとうございます。

後輩との映画デート編に再編集しました。


続きます!



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